第17装 異世界には巨大戦があるようです (※)
我ながらやりたい放題です。
2/24 挿絵追加
【リンシア視点】
私が腕輪で『聖装』した際の能力。
それは災禍獣と直接戦うものでなく、他者の精神世界へアクセスすることができるというもの。
災禍獣の影響で精神を汚染された被害者を癒す。
それが私の役目だけど………
降り立った場所。これはユズカちゃんの家の庭?
庭に置かれた椅子にお腹が大きな女性が腰かけていた。
写真で見たあの女性だ。
「あれがバレッタさん。マリィちゃんのお母さん……」
傍には幼いベルちゃんが居てバレッタさんは彼女の頭を撫でていた。
少し離れた所にはクリスさんが立っている。
これは彼女の中にある強い想い出。何度も心の中で再生されている場面というわけか。
「もうすぐ、ベルちゃんの妹が生まれてくるからね」
「でも、そうしたらバレッタママとはお別れになるんでしょ?パパ達が言ってたもん」
バレッタさんは目を閉じ小さくうなずく。
「隠しても無駄よね……恐らく私はこの子を産めば、そこでみんなとはお別れになっちゃうと思う」
聞いた話だと彼女はマリィちゃんを産んだ後、娘を腕に抱きながら静かに息を引き取ったという。
「そんなの……」
「だけどこの子が居る。私の事を『道具』としてではなく彼がひとりの人間として愛してくれた証。だからベルちゃん。この子の事を頼むわね」
「バレッタ……」
クリスさんの方を向いてバレッタさんが微笑む。
「クリス、あなたとベルちゃんが飛び立てなかった私の背中に翼をくれました。この1年、あなた達と過ごした時間は人生の何よりも輝いていました」
「子どもの事は任せて。私達がきちんと育てるから」
「ええ。お願い。どんな子に育つかな。きっとお姉ちゃん達に似て優しくて強い子に育つでしょうね」
「バレッタママ、ボク、絶対に妹を守るからね。だから、心配しないで」
バレッタさんは微笑みベルちゃんの頭を撫で続けた。
ふと気づく。この庭に他の人の気配がある。
「バレッタママ……ごめんなさい……」
植え込みの傍から過去の風景を見ているのは成長した現在のベルちゃんだった。
その横で眉を吊り上げ怒りの表情に満ちたバレッタさんが呟いている。
「お前が私と娘の時間を奪った。お前のせいだ。あの時お前が死ねばよかったのに。そうすればマリィはいじめられなかったのに」
違う。
あれはバレッタさんなんかじゃない。
本当の彼女は少しもベルちゃんの事を恨んでなんかいない。
あれは魔人が作り上げた幻だ。
「もう止めなさい!あなたにこの娘の想い出を汚す権利なんて無い!!」
幻影にかけ寄り思いっきり殴りつける。
するとガラスが割れる様に幻影が砕け散り黒いオーラが現れ膨張。
離れた所まで飛んでいくと巨大な双頭の黒犬へと変化した。
「こんな卑劣な真似をしてベルちゃんを苦しめて。絶対に許さないから!!」
どうすればいいかは腕輪を手にした時に理解していた。
本を開き卵型の魔道具が描かれたページを開ける。
「スタッグビークル、テイクオフ!!」
私に手の中にある卵が割れて光が飛び出す。
その光は空中で巨大なクワガタ型の戦闘機が出現した。
わたし自身も光になってビークルに搭乗。やっば、コックピットに座ってるよ。
子どもの頃よく観たなぁこういうの。両親からは『女の子らしくない』って苦い顔されたっけ。
「まさか私がこんな事をするとはね。異世界ってやっぱりすごいわ………免許はAT普通車しか持ってないけど問題なし!!!」
これは私の能力だから、何とかなる。
頭で考えれば動いてくれる。周囲にある色んなレバーは飾りです。偉い人にはわからんとです。
頭の中でイメージをしながら巨大犬に接近していく。
巨大犬の口から火炎弾が放たれるがこれを避けながら攻撃をイメージ。
大顎の間からエネルギー弾を連射して片方の頭を潰すと一気に接近。
大顎にエネルギーを纏わせすれ違いざまにもう片方の頭を斬り落とした。
崩れ落ちながら爆散していく。
これでいい。
これで、ベルちゃんを苦しめていた幻影消えた。後は!!
私は空中に出来た穴を通ってベルちゃんの精神世界から脱出した。
□
ベルちゃんの精神世界から脱出するとベルちゃんが『あう……』と呻いていた。
そして……
「マリィ!」
意識を取り戻すと妹に駆け寄る。
「姉さん……」
「ごめんね、マリィ。ボクのせいでこんな」
マリィちゃんがベルちゃんの頭を小突いた。
「姉さんは悪くないってば。ずっと私が寂しい思いをしない様に傍に居て守ってくれたお姉ちゃんだもの。だから、自分を責めないで。ママはもう居ないけど、私にはお姉ちゃん達が居るから」
「マリィ……ありがとう」
マリィちゃんを抱きしめるベルちゃん。
その姿を見て魔人が叫ぶ。
「馬鹿な、せっかくのエネルギー源が……それに俺の洗脳を振り切るなんて!!」
「これがあたし達の絆ってやつよ。あんまり人間をナメるんじゃないっ!!」
災禍魔人ペカドを殴りつけユズカちゃんが私達の傍まで下がる。
ベルちゃんはゆっくりと立ち上がるとコートに手をかけた。
「よくもボクの想い出を弄んでくれたな。妹まで泣かせて…ゆるさないから!!」
ベルちゃんがコートを脱ぎ捨てる。
地面に落ちたコートは鈍い音を立てて大きく沈み込んだ……ってあれ?
「えええっ!?ちょっ、何かコートが変な音立てて沈んだんですけど!?」
「ベル姉さんが普段着ているあのコートはだいたい100kg相当の重りが仕込んであるんですよ。ベル姉さんの体重が50kgだから大体2倍くらいの負荷が常にかかってる状態なんですよ」
「タイガ~。後でお姉ちゃんからお説教なり」
「あっ……」
弟君。お姉ちゃんの体重バラしちゃダメよ。女の子の体重はね、秘密なの。
それにしてもベルちゃん結構ウェイトあるんだなぁ。
じっと観察すると結構しっかり目に筋肉ついてる。
「ま、まぁ操られている姉さんがコートを脱いでなくて本当に良かった。もし脱がれたら止めるの無理だったから……」
弟君がハンカチで汗をぬぐっていた。
「ふんっ、聖女の力を持たない小娘如きに何が……」
嘲笑する魔人だがベルちゃんは一瞬で距離を詰めると軽く胸を小突きゆっくり離れる。
そして手招きをすると馬鹿にされたと気づいた魔人がベルちゃんに襲い掛かった。
魔人の拳をベルちゃんは涼しい顔でひらひらと紙が舞うように避けて突き出された腕を取るとひょいっと片手で投げ飛ばす。え、合気的なもの!?
魔人が空中で身体を反転させたところへ強烈な蹴りが入り吹き飛ばされる。
「正直、『武術』というジャンルでいけばベルはウチで随一だからね。もうこっちの攻撃は当たらないし強烈なカウンターとかもあるしそれでいて攻撃力も高い。おまけに『能力』まで持ってるから末恐ろしいわ」
『能力』?
あの武術意外にも何か特殊能力を持っているって事?
「いやぁ、本当に心の底からコート脱いでなくて良かったねタイガ」
「リンシアさんが『動きを止めろ』って言った時はどうしようかと思ったよ」
ユズカちゃんと弟君がリラックスモードに突入していた。
一方のマリィちゃんはお姉さんの戦いを見ながら呟く。
「やっぱり姉さんは凄いなぁ。ああっ、私も姉さんと闘り合いたい!!」
あっ、やっぱりこの子もユズカちゃんの妹だわ。
それにしてもいじめっ子っ達はあれにボコられたのかぁ。
よく生きていたわね。ある意味奇跡じゃない?
そんな事を考えている魔人が組みつこうとするがベルちゃんは逆に相手の両腕を閂に捉え後方へ投げ脳天を地面へと叩きつけた。
組もうとしたらしたでプロレス技飛んでくるんだー。弟君がホッとしたのも納得だよ。
「ぐぬぅぅ……」
「ユズ姉、そろそろ決めるなり?」
「そうだね、それじゃあ久々にやっちゃおうか?」
姉妹が声を合わせた。
「「合体技!!」」
えーと、何かプロレス用語が出たんですけど?
弟君によるとふたりの戦士が息を合わせた攻撃の事を一般的に『合体技』と呼称するらしい。
うん。物凄くこの家の子達に似合ってるよね。
「ふざけるなよ人間如きがッッ!!」
激昂する魔人の鼻にベルちゃんが思いっきり指を突っ込んだ。
その光景に弟君とマリィちゃんが思わず自分の鼻を押さえる。
私はおおよそ女の子がしないような攻撃に唖然とするしか無かった。
「ニシシ、『鼻』があるのが運のツキなり!!」
鼻腔の奥を攻撃された激痛で顔を歪め飛び上がった魔人に対して勢い良く腕を振るう。
「惨風、竜巻地獄ッッ!!」
何か竜巻起こってるんですけど!?
巻き込まれた魔人が空中を舞う。
身体が逆さになった所にベルちゃんが組み付き両手両足を後ろ手にホールド。
そこへ盾を腕の装甲につけたユズカちゃんが喉元にラリアットを叩き込んだ。
「あがっ…………がっ……」
ベルちゃんがホールドを解除すると魔人はゆっくりと脳天から地面に落ちた。
格闘は素人だけど私でもわかる。決着だ。
「こんな事が……人間如きにこんな……」
そんな言葉をつぶやきながら災禍魔人ペカドは砂となって消滅していった。
ユズカちゃんとベルちゃんは言葉を交わす代わりにハイタッチで勝利を宣言したのだった。




