第16装 私に出来る事
【リンシア視点】
災禍魔人。
災禍獣に関するチュートリアルもろくに受けていない中、新たなジャンルが出てきた?
明らかに上位っぽい存在なんですけど?
「ちょっと、お姉ちゃんに何をしたの!?何でお姉ちゃんがそんな苦しんでるのよ!?」
マリィちゃんの言葉に『ペカド』と名乗った魔人は再び嘲笑。
「何したって『遊び』だよ。こいつの記憶の中にある死んじまった女の幻影を見せてやったのさ。ただし、その幻影はたっぷりと恨み事を吐いてくれるんだけどな」
「死んだ女……まさかママの?でもママがベル姉さんに恨み言なんてを言うはず」
「実際に言うかどうかは関係ない。俺が見せた幻覚の中では四六時中、恨み言をぶつけさせてやったよ。このガキが壊れていく様は中々に楽しめたぜ。おかげで負のエネルギーが溜まって思ったより早く完全体として顕現出来たわけよ」
マリィちゃんをいじめた連中も最低だけどそれすら超える悪辣な外道。
災禍獣を倒さなきゃならない理由っての言うのが改めてわかった気がする。
こいつらは『悪』なんだ。
「最低…………」
そう呟き魔人を睨む。
「何て事を……」
背筋がぞくっとした。これは……殺気?
「私の、私のお姉ちゃんに、何て事をしたぁぁぁぁっ!!」
最後尾から飛び出したマリィちゃんが一気に距離を詰めペカドのボディを力の限り何度も殴りつけた。
硬いものを打ち据える音が響くが魔人はその場から一歩も動かない。
それどころか殴られた場所の埃を払うようにはたく始末。
そして一方のマリィちゃんの両手からは出血が確認できた。
「マリィちゃんダメ!」
「勢いだけは一級品。だが自分が傷ついていては意味など無い」
敵はマリィちゃんの腕を掴むと無茶苦茶に振り回し宙に放り投げ校舎に叩きつけた。
だがすぐにマリィちゃんは校舎を蹴ってリカバリー。飛びかかって回し蹴りを放つがこれもあっさり止められる。
「無駄だというのがわからんのか?」
「お前が、お姉ちゃんを苦しめて。ママの誇りに泥を塗った!絶対に許せないっ!!」
鬼の形相で叫ぶマリィちゃんだがそれすら魔人はあざ笑う。
「怖い顔をしているが実力が伴っておらんな!」
魔人はマリィちゃんの脚を持ったまま飛び上がると思いっきり腕を振りかぶった。
「さっさとママとやらの所に行きな!!」
マリィちゃんの身体を地面へと力の限り投げ捨てるが地面との間に滑り込んで彼女の身体を受け止めた人物がいた。
「お姉ちゃん!?」
マリィちゃんが叫ぶ。
それは紛れもなく先ほどペカドを輩出し抜け殻の様に倒れて気絶していたベルちゃんだった。
「マ、マリィは……ボクの妹だから……ボクが……」
「これは面白い。こんな状態でも妹を守ろうとするのかぁ。泣かせる姉妹愛ではないか」
目元を拭う真似をする外道。
そこへさっきまで隣に居た筈の弟君が一瞬で距離を詰め何処からか取り出した剣を振るう。
だがやはり表皮をわずかに削っただけでダメージにはならず。追撃は不利と判断したのか弟君はマリィちゃんの首ねっこを掴んだ。
「おっと、こっちはまだ使い道があるぜ!!」
ペカドはベルちゃんの脚を掴んで引き寄せた。
舌打ちをしつつ弟君がマリィちゃんを連れてこちらに戻って来る。
「リンシアさん。マリィを押さえといてください。ベル姉さんは俺が何とか救い出します」
弟君の普段の色々な事に驚き慌てている姿と違い冷静かつ非常に真剣な『兄の顔』をしていた。
「わかった……」
言われた通りマリィちゃんの身体を押さえる。
まあ、本気で飛び出されるとどうしようもない気がするけど……
「あぁ、いいねぇ。家族愛ってやつ。それじゃあこういうプレゼントはどうかな?」
魔人は醜悪な笑みを浮かべるとベルちゃんの頭を掴む。
「あぁ、ぁぐっ!あ、やめ、うぁ、ぁ、やめ、や、いやだっ!いや、ぁあぁあぁ――――ッッッ!!!」
半狂乱になりながら身を捩り、四肢をバタつかせるベルちゃんの動きが止まり虚ろな目でゆっくりと立ち上がる。
凍り付いた表情でそれを見ていた弟君とマリィちゃん。
「お前、姉さんに何をした?」
「いやいや、ちょっと頭をいじってやったんだ。俺の操り人形になって大切な家族とやらを手にかけさせるって最高のショーじゃないかぁ?」
「そんなっ、お姉ちゃんッ!!」
妹の呼びかけに答えることなくこちら目掛け走って来るベルちゃん。
オーバーサイズコートの袖を振り回しながら放つ攻撃を弟君が剣で受け止める。
その様子を魔人はただ楽しそうに眺めていた。
こいつ、性根が色々と腐ってる!
「何かものすごーく臭うわね。腐った食べ物でも落ちてるのかしら?」
魔人が嗤う横、一人の少女が立っていた。
「は?」
「あんただよ。災禍獣!!」
少女、ユズカちゃんの拳を喰らい吹き飛ばされた魔人が壁に叩きつけられる。
「ユズカちゃん!」
クローゼット型の魔道具を本から取り出すとユズカちゃん目掛け投げる。
ユズカちゃんは視線は敵に向けたままで魔道具をキャッチした。
「あんたを察知してウチの親達が向かっている。だけど妹達を傷つけられて黙ってられない。あんたはあたしが倒すッ!『聖装』ッッ!!」
鎧を身にまとったユズカちゃんが魔人目掛け殴り掛かる。
一方、弟君は操られているベルちゃんの攻撃を何とか捌いていた。
どうしよう。こうなったら私はほとんど役立たずだ。
たまに本からアイテムを出してユズカちゃんをサポートするくらいしか。
私の腕の中で泣いているマリィちゃんの為に何もしてあげられない。
物心ついた時からお母さんが居なくて。
学校では理不尽な理由でいじめを受けて。
助けてくれたお姉さんに八つ当たりをしてしまって。
そのせいで大好きなお姉さんがとんでもない状況になって。
無茶苦茶に傷ついているこの子に、何もしてあげられないなんて。
『ページをめくってごらん』』
声がした。
この声は……
『傍観者としてではない。誰かの為に何かをしたいと思うその気持ち。ボクの孫が出会ったのが君で良かった』
墓場で出会った幽霊。
ユズカちゃん達のおばあちゃんがそこに立っていた。
言われた通りページをめくっていくと金色の腕輪のページが追加されており本から腕輪が飛び出してきた。
「これは……」
頭の中にこれをどう扱うべきなのか様々な情報が流れ込んでくる。
おばあちゃんの幽霊が微笑み頷く。
『ボクの孫たちを助けてあげて。君ならそれが出来るから』
「リンシアさん、その腕輪は?」
「おばあちゃんだよ。あなた達のおばあちゃんが託してくれた力。あなた達を救うための力」
私は立ち上がりベルちゃんと戦ってる弟君に声をかけた。
「弟君!少しの間でいい!ベルちゃんの動きを止めて!!」
「ちょっと無茶ぶりですね。でも、『コートを脱いでない』状態の姉さんなら何とかならなくもないかな?」
よし、その返事は同意したと判断した。
私は本から盾の宝箱を出すとユズカちゃん目掛け投げる。
「ユズカちゃん!私は今からベルちゃんの心を救いに行ってくる。だからしばらく頑張って!!!」
「よくわからないけど任せた!!」
ユズカちゃんは盾を腕に装備してぬりかべ野郎を殴りつけた。
だから盾の使い方!!
「リンシアさん……本当にお姉ちゃんを」
「助けて見せる。だから、マリィちゃんもちゃんとベルちゃんと話をして、仲直りしてね。約束だよ」
私は腕輪を装着して準備する。
視線の先では弟君が剣を鞘に納めていた。
「ちょっと痛いけど我慢してくれよ。一刀流、『大巻波』ッッ!!」
弟君が放った一撃でベルちゃんの動きが止まる。
「今だっ、『聖装』ッッ!!」
詠唱と共に腕輪が光を放ち私は態勢を崩して動きを止めていたベルちゃんの中へと吸い込まれていった。
私がバディとして出来る事。それは……




