第15装 イジメられる側にも問題があるなんて理不尽である
※注意 今話には抑えめにしていますがいじめに関する描写があります。
今話でチラッと明らかになったようにレム家の子達にとって学校は安心できるところじゃなかったりします。一見学校生活を楽しんでいる様に見えるユズカも実は?
【リンシア視点】
弟君について行くとどんどん人気のない所へ進んでいく。
あれ、何か不穏な空気?いや、弟君なら大丈夫か。
だってユズカちゃんの『弟君』だもの。
やがて弟君は学園の外壁近くに到達、
そこではぽつんと地面に座り込んでひとりお弁当を食べるマリィちゃんの姿があった。
お弁当が同年代の女の子より二回りほど大きい気はするけどあの家の子だから仕方ない。
それにしても……人気のない所でぼっち飯!?
えっ、レム家の子ってどっちかっていうとスクールカースト上位だと思ってたけど違ったの?
何かおしゃれなカフェテラスでお友達と笑い合ってるイメージだった。
「やっぱりここに居たか、マリィ」
「えっ、お兄ちゃん?それにリンシアさん。どういうこと?」
「何かリンシアさんがお前の事気にしててさ」
「私の事を?」
「えーと、マリィちゃんは何でこんな所でひとりでお弁当食べてるの?」
マリィちゃんは視線を逸らし呟く。
「私、嫌われ者だから」
あっ、聞いちゃダメな奴だったよね。
しまったなぁ。
「ウチの事をよく思ってない生徒も結構いるから割と肩身は狭いんですよ。ベリアーノ校はかつての貴族とかそういう家の子が多いんです。ウチは根っからの平民ですけどね。それに、この間ちょっと騒ぎがあって」
「お兄ちゃん。その事は……」
「もしかしてベルちゃんも関係してたりする?」
マリィちゃんが顔を歪めた。
「マリィ、俺から話してもいいか?お前とベル姉さんの事を気にして2時間もかけて学校に来てくれたんだ」
「えっ……いや、学校って家から走れば5分くらいで着くのに」
方向音痴でごめんなさい。
というか足速いんだ、この娘。
「あなた達家族の問題にずかずか入り込む様なことしてごめんなさい。だけど何か気になってしまって……」
「……実は」
マリィちゃんはゆっくりと話し出した。
「………私のママ、レム・バレッタは元々『ゴンドール家』っていう軍人家系の出だったんです。私も最近までママの出自は知らなかった」
「あの人はゴンドール家の人間だった痕跡を消した上でウチに来たからね」
「どうしてそんな事を……」
「ゴンドール家は背信行為を行ってもう少しで戦争を引き起こしかけたんです。その事件の後、完全に没落してしまって。そんなだからママは世間から隠れるカタチでレム家に来て、私が生まれたんです。書類上、私の母親はベル姉さんと同じクリスママって事になってます。だけど、私の本名から本当のママとの関係性に気づいた連中が居て……」
「本名?」
えーと『マリィ』は愛称でマチルダっていうのが本名だっけ?
「マリィの本名はレム・バレッタ・マチルダ。ミドルネームには旧姓を入れたり亡くなった親族の名前を入れたりするんです。ベル姉さんも亡くなったお祖母さんの名前がミドルネームになってるんです」
書類上は誤魔化せてもミドルネームには『バレッタ』の名前がある。
関係性に気づくような奴だっているわけね。
恐らくお母さんとの繋がりを持たせてあげたいっていう親心だろうけど裏目に出ちゃったのか。
「ゴンドール家の血が流れているってわかった後、みんなから嫌がらせを受けました。靴を捨てられたり、机に落書きされたり。最初は反発したし教員にも言ったけど『お前の方にも問題はあるんじゃないんか』『ゴンドールの血筋だ。仕方ないさ』って取り合ってもらえなかった」
完全にいじめだよそれ。しかも教師も一緒になって何やってるのさ。
そもそも『いじめられる側に原因がある』なんていじめる側が自分達の行為を正当化しようとするただの詭弁だ。
「もっと早くパパ達に相談すれば良かった。だけど私自身、こんなくだらない事してくる連中に負けたくないって気持ちが強くて我慢してしまってました。だけどある日、ママの形見だったマフラーをズタズタにされちゃって……」
最低にも程がある。
お母さんの顔を写真でしか知らない彼女にとって形見の品がどれほど大切なものか。
「泣いてるマリィを最初に発見したのがベル姉さんだったんです。それで、全てを悟った姉さんは『ブチ切れ』たんです」
えっ、ブチ切れた!?
あのゆるふわそうなベルちゃんが?
「マリィをイジメた連中が血まみれになるまで殴って蹴って。俺とユズカ姉さんが止めなかったら相手を殺してたかもしれない」
マリィちゃんはその時の事を思い出してしまっているのか口を固く結んで目を閉じていた。
「それでマリィに対するいじめが明るみになったんです。各方面からの口添えもあって教員は解雇され、ベル姉さんも事情を鑑みて1節の停学に落ち着きました」
「あのさ、転校しようとか思わなかったの?」
逃げることは恥でも何でもない。
彼女の家ならそれが可能だったはず。
「パパ達は学校辞めてもいいって言ったけど、逃げたくなかったから。ママをバカにされて、尻尾を撒いて逃げるような真似はしたくなかった。意地でもこの学校を卒業してやるって思ったから……」
うわぁ、負けず嫌いだぁ。
流石はユズカちゃんの妹。
「あの事件からだよな。お前とベル姉さんの仲が悪化したのって」
「……ここまで来たら全部話します。お姉ちゃんはあいつらを殴りながら叫んでたんです。『ボクがマリィを守らなきゃいけないんだ』って。私には救世主に見えた。だけどその後……『ボクのせいで、マリィのママが死んじゃったから』って……あの、私のママは」
「ユズカちゃんから聞いたよ。ベルちゃんを庇って深い傷を負ったって。それで、あなたを生んですぐ亡くなっちゃったって」
マリィちゃんは静かに頷く。
「マリィちゃんは、その事でベルちゃんを怒ってるの?」
マリィちゃんはしばらく黙り込んだものの、ゆっくり話始めた。
「お姉ちゃんはずっと私を気にかけてくれて、一緒に遊んでくれて。困った時は助けに来てくれる、ヒーローみたいな人だった。だけどそれが罪悪感から来てるんだって思ったら何か、イライラしてきて……」
ああ、そうか。この子は本当はお姉ちゃんが大好きだったんだ。
だけどその愛情が罪悪感からくるものだと知って裏切られたような気持ちに……
勿論それは八つ当たりになるんだけどその時のマリィちゃんの精神状態、多感な年頃という事もあり溝が出来てしまったんだろう。
「マリィちゃん……私は部外者だから偉そうなこと言えないけどさ。ベルちゃんの中には確かに罪悪感があるんだと思う。それでもあなたな大事な妹だって思っているはず」
「わかってはいるんです。だけど何か、色々あって頭の中ぐちゃぐちゃで……」
「一度、ベルちゃんとゆっくり話をして御覧。母親は違っても血が繋がった姉妹なんだから……」
「リンシアさん……そう、ですよね。一度、話してみようかな」
「おおっ、俺達が何言ってダメだったのに。流石リンシアさん!!」
マリィちゃんは弟君と私を交互に見て首を傾ける。
「あれ、お兄ちゃんまさか?えっ、そういうこと?」
はて、何が『そういうこと』なのだろう?
だけどこれで解決の糸口が見えてきたかも。
後はベルちゃんの方だけど……何だろう。嫌な予感がする。
□
【ベル視点】
校舎の隅で膝を抱え座り込む。
何処へ逃げても『声』は追いかけてくる。
ふと見上げるとバレッタママが立っていた。
「あっ……」
『あなたのせいでマリィは独りぼっちになった。あなたを庇いさえしなければ娘と一緒に生きて行けたのに』
憎しみがこもった眼でバレッタママがボクを睨みつけていた。
「ボクは……」
『あの子がいじめられたのもあなたのせい。あなたのせいで今でも独りぼっち』
「ごめんなさい……本当にごめんなさい」
何度謝った事だろう。
だけどバレッタママはずっとボクを責め続ける。
『あなたなんか庇うんじゃなかった。あなたが死んだほうが良かったのに……娘に詫びなさい!娘を騙し続けて、偽りの家族愛なんかを見せて裏切った罪は重い!』
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
バレッタママが紡ぐ呪いの言葉を振り切るようにボクは立ち上がりその場から逃げ出した。
□□
【リンシア視点】
よし、次はベルちゃんを探しに……
そう思った瞬間だった、視界の先に見覚えがあるオーバーサイズコートを羽織った少女の姿が。
フラフラしながらこちらへ向かって歩いてくるのは正に探そうとしていたベルちゃんだった。
だけど何か……
「ベルちゃん?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
壊れた人形の様に謝罪の言葉を口にしながら歩いてくる。
明らかに様子がおかしい。
「弟君、ベルちゃんがあんな風になった事って?」
「あるわけないよ!何か、ちょっとまずくない?」
地面に両膝をついたベルちゃんは何かに怯えている様子で何もない空間を凝視し耳を塞いでいた。
だがやがて大きく目を見開き絶叫する。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ベルちゃんの身体から黒いエネルギーが吹き出し人の形を成していく。
白い壁の様な胴体に毛が長い犬の様な貌でぎょろりとした目が3つ。何だろうこれ、見た事ある。
「ぬりかべ……」
そうだ。これって『ぬりかべ』だ。
九州地方に伝わる妖怪の一種。
壁から手が生えた姿が一般的だけど2000年以降に見つかった絵巻にこんな姿のぬりかべが載っていた。
「ようやく顕現出来たか。ふふっ、中々に楽しい『遊び』だったぞ」
「遊び?一体何を……あなたは一体」
ぬりかべもどきはベルちゃんを見下ろし嘲笑した。
「俺の名はペカド。このガキの膨れ上がった『罪悪感』を吸収して顕現した『災禍魔人』だ!」




