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第13装 朝食を作ったら褒められました

定番の実は高スペックでしたエピソードになります。

勿論、本人に自覚はない……

【リンシア視点】


 着替えて身なりを整えるとキッチンへ向かう。

 間借りさせてもらっている以上は何か役に立たないといけない。


 キッチンにはフリーダさんが居て『別にいいのに』と言うもこちらはそういうわけにはいかない。

 正直な所家事はあまり得意ではない。よく『あいつ』からはダメ出しされていてその度に謝っていた。

 それでもちょっとは役に立てるのではないかと思う。


「それじゃあ、パンがあるから何か適当に作ってくれ。あるものは好きに使っていいからさ」


「あっ、はい」


 物凄くアバウトな指示が来たなぁ。

 まあ、大家族だし割とその辺適当なのかな。

 キッチンの設備を見渡すとオーブンらしきものもある。

 この世界、『スフィア』という魔法水晶で動く家電みたいなものが普及してるんだよな。

 となるとこれをああしてこうやって……

 頭の中であるもの想像し、段取りを決定すると動き始める。

 

「あんま気負わなくていいからさ。気楽にやってくれよ。いつもと違う味付けとか新鮮だろうしさ」


 スープの野菜を切ったりしながらフリーダさんは楽しそうに笑う。

 

「何かこうやってると若い頃の自分を思い出すなぁ」


「若い頃ですか?」


 手を動かしながら話を聞く。


「わたしさ、小さな村の出身なんだけどさ。何やかんやあって旦那の実家に居候してたんだよな。その時よくさ、亡くなった義母さんの手伝いでキッチンで料理したなぁって」


「へぇ。そうなんですね。えーと、その時ご主人に手を出されたと?」


「そうなんだよな。あいつ最初はわたしの事を迷惑だとか邪険にしてたくせにいきなりキスされたんだよな。あれは腰抜かしかけたなぁ」


 うわー、旦那さん結構大胆。


「まあ、わたしも元々好意っていうか憧れを持ってたからそこから付き合うようになって何やかんやでこうなってるわけさ」


「何かすごいですね。どっちかというと人畜無害そうないい人に見えますけど」


「いや、いい人なのは確かなんだけどさ。意外と手が早いんだよなぁ……あっ、でも心配しないでいいぞ。明確に自分から手を出したのはわたしだけだからさ。後はよく考えたら引き込んだクチだから」 


 いやいや、それも大概凄いんですけどね。


「まあ、でも息子たちには気をつけろよ。あいつの血を引いてるからなぁ」


 ふと、昨夜の弟君を思い出す。

 確かに私の裸を凝視していたがまあ、あれくらいの年頃の子なら仕方ないよね。


「長男はムッツリとはいえまだましだし、タイガもまだガキだから問題ないとして……『合宿』に行っててまだあんたが顔を合わせていない次男が危ないんだよな。あいつ赤ん坊の頃からすっけべだからなぁ」 


 確かユズカちゃんによると長男と次女、次男とタイガ君の母親がそれぞれ同じらしい。

 つまり次男はフリーダさんの息子という事になる。

 赤ん坊のころからというのが中々にすごい所だ。


「えーと、合宿ってことは息子さんって何か運動を?」


「ああ、『ゴンチャガレーポン』の選手やってるんだ」


「はい!?」


 何か今、解読不明な単語が出てきた気がするけど!?

 転生時に言語を理解するスキルを習得している。

 つまり今のは『固有名詞』ということになる。


「すっけべが過ぎるから運動でもさせればマシになると思ってやらせてみたらメキメキ上達してさ。今じゃチームの『ディバゲントル』やってるんだよな。わたしは『ゾルザメガッター』向きと思っていたんだけどさ」


 やっべ。意味わかんない。

 何よ『ゴンチャガレーポン』って!?

 とりあえず分かったのはチームで競う競技で『ディバゲントル』や『ゾルザメガッター』ってポジションがあるくらいよね?


「春の『エルメネイタット』に向けて強化合宿中なんだ」


 またわからん単語が出てきた。

 察するに『エルメネイタット』っていうのは大会的なものなんだろうな。

 とりあえず適当に相槌を打っておく。

 その後も色々な想い出話をフリーダさんは話してくれた。

 何だか素敵な結婚生活で、ちょっとうらやましかった。


「さて、味付けはこんなもんでいいかな。そうだ、ちょっと味見してみて………えっ!?」

  

 振り向いたフリーダさんは目を丸くして私が皿にのせている料理を凝視していた。


「えっ、何かマズイことしちゃいましたか?」


「いや、これってあんたが作ったんだよな?」


 とりあえずパッと見た材料で作れそうな料理という事でベシャメルソースを作ってパンに塗ってオーブンで焼いた。

 それにキラオニオンを蒸し焼きにしたものとハムを挟んで上から目玉焼き、この世界では『パンセ・オローン』と呼ばれる卵料理を乗せてみただけなんだけど。


「はい。そうですけど……」


「えぇ……うわっ、凄いな……えぇ……こんなん出来るんだ。うわぁ……」


 語彙が死にかけている。

 そんなに酷かったのだろうか。

 確かに『あいつ』からはよく『手際が悪い』とか『子どもでもこれくらい出来る』とか嫌味を言われていた。


「驚いたよ。あんた驚く程手際が良いな」


 あれ?もしかして褒められてる?

 いや待て。褒められたからと調子に乗ってはいけない。

 言葉には裏がある。つまりこれは『リップサービス』の一種。


「あ、ありがとうございます。皆さんのお口に合うと良いんですけど」


 取り合えずお礼は言いつつ謙虚な姿勢を崩してはいけない。


「問題無いって。文句言うやつが居たらわたしがぶっ飛ばしてやるからさ」


 そんな物騒な。

 まあ、この人ならやりかねない。

 

 私が作った朝食、前世では『クロックマダム』と呼ばれていた料理は予想に反して好評だった。

 何だかこそばゆいな。『あいつ』は『まあ、食えなくもないか』と言っていたけどこの家の人達に喜んでもらえて良かった。

 多分、素材が良かったんだろうね。


「あ、あのリンシアさん」


 片付けをしていると弟君がキッチンまでやってきた。

  

「どうしたの、弟君?昨日の事ならもういいからね?」


「いや、それも申し訳ないなってのはあるけど。えーと、さっきの料理……その、すごく美味しかったです!ありがとうございました!!」


「はぁ、どうも……」


 えっ、弟君ったらそんな事を言いに来たの?礼儀正しい子だなぁ。

 やっぱりお母さん達の教育が良いんだろうな。


「それじゃあ、行ってきます!」


 そう言うと彼は慌ただしく出て行った。

 『行ってきます』か。何か新鮮だな。

 『あいつ』はいつも黙って出ていくか『帰るまでにこれしとけよ』って言う人だった。


「何だろ。ちょっと嬉しいかも」


 胸が熱くなってくるのを感じる。『弟』が居たらあんな感じなのかな。


□□


 片づけを終えてリビングに戻ると三女のベルちゃんがふらふらしながら歩いていた。


「ちょっとベル、やっぱり体調が悪いんじゃ。今日は学校お休みした方が……」


「えへへ、大丈夫。ちょっと夜更かししちゃっただけなり。ボクはお姉ちゃんだから情けない姿見せられないんだよね」


「でも……」


 母親であるクリスさんの言葉を振り切りベルちゃんはリュックを背負い出て行ってしまった。

 

「ベルはああ見えて頑固な所があるからなぁ。言い出したら聞かないんだよ」


 私の隣でフリーダさんが肩をすくめた。


「あの……ベルちゃんとマリィちゃんって仲が悪いって聞いたんですけど」


「ああ、タイガ辺りがそう言ったのかな。あの子は『あの時』まだ本当に小さかったから……仲が悪いっていうかあの子達には複雑な事情があるんです」


 クリスさんが肩を落としながら言った。

 フリーダさんが棚に飾ってある写真を手に取り見せてくれた。

 そこには旦那さんとフリーダさん達の他にもうひとり女性が写っていた。


「この人は?」


「マリィの母親です。レム・バレッタ。この家で『5番目』の母親であり、『1年だけ』でしたが私達と同じ時を過ごしました」


 1年だけ?


「まあ、色々あってな。バレッタはマリィを生んですぐ……な」


「あっ……」


「ウチに来た時から既に長くは生きられないと言われてたんだ。だからせめて自分が生きた証に、とあいつは子どもを生む決意をしたんだ。それで……」


「そして彼女が長く生きられないと言われた理由の一部にベルが関わっているんです。ベルはそれをずっと気にしていて……」


 ちょっと待って。

 無茶苦茶ヘヴィーな展開来ちゃった!?


 お母さんの死の原因がお姉さんにあるからマリィちゃんはベルちゃんを嫌っている? いや、なんか違うな。

 マリィちゃんってベルちゃんの事を嫌っているっていうか、『イライラしている』って感じなんだよなぁ。

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