第12装 人生設計プラン変更アリ
主人公、それ違う!
そして元旦那のクズっぷりがまたもや発覚。
【タイガ視点】
俺は夕食の後、自分の部屋で瞑想をしていた。
「ふぅ……」
問題はない。今日は色々と大変だった。
姉さんが変な事を言うものだからリンシアさんを意識してしまった。
だがそもそも俺なんかに恋愛は早い。まずは足元を固めないと。
この国の法律だと15歳で結婚できるが早々に結婚するのはバカがすることだ。
俺が建てた人生設計プランは学校を卒業後、就職して基盤を作り24歳くらいにはそこそこの相手を見つけ結婚する。
三男だから慣習に従って相手の家の婿養子になる感じだな。
だからこそ色恋にかまけていてはいけない。
確かにリンシアさんは綺麗な人だけど年も離れている。
男性は大抵の場合は同年代、年下の女性と結ばれるものだ。
父さんとナギママみたいな妻が6歳も上な例は珍しい。
俺の中に生まれた感情は強烈な個性を持つ人に出会って脳が起こした勘違いだ。
そうに違いない。
「よしっ、風呂でも入ってさっぱりするか」
時計を見ると男性の入浴時間になっていた。
ウチは男性と女性で入浴時間が沸けられていてどちらが先かは週による。
まあ、時々親父が母さん達と入っている時があるがその時は皆そっと見ないふりをしている。
部屋を出ると本を抱えた次女、カノン姉さんとすれ違う。
チラっと見たが『イリス菓子大全』『無知とは何か』『大きなモモを割ったら男の子が出てきた件』とかバラバラなジャンルの本だった。
本当に興味の一貫性が無い姉だなぁ。
ユズカ姉さんの部屋からは歌を口ずさむ声が聞こえた。
ベル姉さんは夕食の時から調子が悪そうで、『早めに寝るね』と言っていた。
マリィとの関係で悩んでいるのもあるかもしれないな。今度話を聞いてみよう。
リビングではマリィがのんびりくつろいでいた。
母さん達も揃っている。俺は風呂の方へ歩いて行く。
事故を避ける為、入浴する時は入り口にかかっている自分の名札を裏返すことになっている。
まあ、ホクト兄さんとユズカ姉さんはよく忘れるんだけどな。
今入浴中の家族は……居ないな。
脱衣所に入り服を脱ぎ始めるがふと、ある事に気づく。
風呂から音がする。誰か入っている?
でも父さんはリビングに居たよな?
ホクト兄さんは合宿で不在だし、そうなると消去法で中に居るのは長男のアル兄さんということになる。
「おいおい、兄さん。札を返すの忘れてるぞ」
あの兄さんがミスをするとは珍しい事もあるものだ。
苦笑しながら脱衣籠を見て固まった。
「あれ、これって………」
どう見ても兄さんが来ているような服ではない。
端的に言えば女性もの。兄さんに女装趣味は無いはず。
いや待てよ。確か女装する友人は居たな。もしかしてその人が来ているとか?
籠の中には女性用の下着まで入っている。
おいおい、あの人こんなの履いてるのかよ。本格的だなぁ。
風呂場の戸が開いた。
「あ、入ってるって知らなくて。ウチに来るの久しぶりで………えっ!?」
頭の中に浮かんだ兄の男友達の名前を口にしながらそちらに目をやり、時間が止まった。
入り口で立ち尽くしているのはどう見ても兄の知り合いではない。
「あっ、弟君……」
「えーと……」
何故だろう。
姉のバディが、リンシアさんが一糸まとわぬ姿で立っていた。
いや、そりゃそうだよ。風呂入ってるんだもんな。何も着てないのが普通だ。
頭の中を様々な疑問が駆け巡っているがどれも答えに辿り着かない。
よし、ここは慎重に動こう。でなければ悲鳴をあげられ母達がやって来て殴られるという未来が待っている。
「いいお湯でした?」
馬鹿か俺はぁぁぁぁ!?
慎重が事故死してるぞ!?
「あっ、えーと。うん。良かったよ……」
そして普通に答える姉のバディ。
彼女も動揺しているのだろう。
とりあえずこれは事故であることを伝えないと。
「ごめんね。弟君に変なもの見せちゃって」
リンシアさんはバスタオルを取ると自分の身体を隠す。
ちょっともったいない気が……ってそうじゃない!!
「い、いえ。凄く綺麗で魅力的です。ありがとうございました!」
俺の馬鹿ぁぁぁぁぁ!?
もう完全に色々と終ってるよ。絶対嫌われるやつだ。
だけど予想に反してリンシアさんはそれまで気まずそうにしていた顔を真っ赤にして自分の身体をぎゅっと抱いて言った。
「あ、あのさ。着替えるから出来ればそろそろ出て欲しいんだけど」
「あっ、そ、そうですよね。すいませんっ!!」
慌てて脱衣室から飛び出し今更意味がないのだが『お客さん』の札を裏返し入浴中と示す。
やべぇぇぇぇ!色々とヤバイ事になってるよ。こんなのどうしたらいいんだよ!?
学校でも習わないし、テキストにも書いてないぞ!?いや、当り前だけど。
混乱しているとやがて脱衣所が開き顔を真っ赤にしたリンシアさんが出てきた。
「あ、あの……」
「えーと、事故、だよね?わざとじゃないよね?」
「はい。その、札が裏返ってなくて誰も居ないと思って……ごめんんさい」
リンシアさんは入り口の札を見て『あぁ……』と小さく呟く。
「何かその、ごめんね。ちょっと住んでた宿がダメになっちゃってさ。ここに泊めてもらうことになったの。それでお風呂頂いてたんだ」
「そ、そうなんですか……ははっ……」
「えーと、さっきの事はさ。忘れて。何も無かったって事で。でないと多分、弟君がまた怒られちゃうから」
「あ、はい……」
「それじゃあ、その……少しの間お世話になる感じだけど。よろしくね、それじゃあ」
リンシアさんはそう言うと俺が返した札を元に戻しそそくさとリビングの方へ消えていった。
「リンシアさんがウチに……」
残された頭の中ではさっきの光景が何度も甦っている。
「あれ、タイガそんなトコに突っ立ってどうしたの?」
ぎくぅぅぅっ!?
振り返ればユズカ姉さんが首を傾げながら立っていた。
「あーいや、えーと風呂に入ろうと思ってね」
「じゃあ、入ればいいじゃん」
「だよなぁ!俺も正にそう思ってたところだよ」
「……あんたどうしたの?顔が赤いし何か変だよ?」
「そ、そんな事無いって。変な事言うなよ!俺はただ色々と考え事をしてただけだ」
姉さんは俺のちょっと活気がある下半身に目をやり小さくため息をつく。
「へー、『考え事』ね」
「あ、いやこれは……」
「このむっつりめ」
この際むっつりでいい。
さっきの事がバレたりしたらこの人は『タイガがリンシアさんのお風呂を覗いてた』とか大騒ぎしかねない。
ていうか覗いてないよ!脱衣室で遭遇しちゃただけだからね!?
「じゃ、じゃあ俺風呂入るから……」
「はいはい。あっ、そう言えばリンシアさんなんだけどね」
「はひっ!!?」
「何を変な声出してるの?気持ち悪いなぁ。リンシアさん、何か宿が火事になったらしくてしばらくうちに泊まる事になったからね」
「へ、へぇそうなんだ」
知ってるよ。
だってさっきここで出会っちゃったもん。
「変なことしちゃダメだからね?」
「す、するかよっ!!」
いやいや、何で俺ってば声が裏返ってるのさ。
まったく今日は何て日なんだ!!
□
チュンチュンとさえずる鳥の声。
窓から差し込む淡い朝日が部屋を明るくしていた。
ベッドから起き上がった俺は爽やか朝の雰囲気とは対照的に悶々とした気持ちを抱えていた。
「寝れなかった……」
ぽつりと呟く。
あれから風呂に入っても脱衣場での光景が頭から離れず部屋で腕立て伏せ150回×3セットやった。
それでも頭からリンシアさんの事が離れない。
認めよう。やっぱり俺はあの人が好きだ。惚れてしまったんだ。
別に裸に惚れたわけじゃ無い。いや、凄く綺麗だったけどさ。本格的に惚れた要因は別にある。
あの状況、叫べばいいのに彼女は俺が母さん達に怒られるのを案じてくれていた。
死ぬほど恥ずかしかったろうに、俺なんかに気を使ってくれて『無かったことに』と言ってくれたんだ。
何て心が広い!そして何という冷静な大人の対応!
しかも俺が出ていく前に見せたあの恥じらいの表情。
あれを見たのはきっと俺だけのはず。ちょっぴり事故に感謝しているくらいだ。
そう言えば姉さんが能力に覚醒した時も危険を顧みず助けに飛び込んでくれたというではないか。
初めて見る怪物相手にそんな事が出来るなんて……
大人の女性な上に俺が小さい頃から思っていた『理想』そのものではないのか?
あの人の事をもっと知りたい。
そして願わくば恋人に……否、その先まで考えたい。
俺の隣で笑っていて欲しい。
これは勘違いなんかじゃない。
俺の人生設計プランは変更だ。
【目標】リンシアさんに相応しい男になり彼女と共に生きる。
凄く大雑把になってしまったが構わない。
「リンシアさん………好きです」
【リンシア視点】
「あー、昨日はやっちゃったなぁ」
用意して貰った客間で起きた私はため息をつく。
弟君には悪い事をした。まさか札返しシステムがあったなんて。
ふと、『凄く綺麗で魅力的で』という彼の言葉が思い起こされ少し体が熱くなった。
あんな事言われたの初めてだな。
そういや『あいつ』が私を褒めた事なんて無かったな。
あ、いや……それっぽい事は言ってたけど今思えばあれは私を思い通りの女にする為の『言葉攻め』だったと思う。
本当に何で結婚したんだろう?
男運が悪いんだろうなぁ。
「弟君には悪い事をしちゃったな」
どうせ見るならもっと綺麗な人の裸にすればよかっただろうに。
そう、例えば彼が気になっているという何処かの誰かのとかね。
「後でちゃんとフォローしてあげないとね」




