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第11装 住む場所が無くなりました

 まさか夫の浮気に端を発して異世界転生したら特殊な怪物たちと戦う事になるとは思わなかったなぁ。

 それでもって強制とはいえ就職まで出来て運がいいのか悪いのか。

 

 私は宿の自室でユズカちゃん達のお父さんから渡された待遇に関する用紙に目を通していた。

 月給23万ゴルト+災禍獣のランクに応じたボーナス、交通費負担、住宅手当てあり。 

 福利厚生有り。休日の緊急出動時は手当て有り。


 ちょっと気づいたけどもしかしてユズカちゃんのお父さんってもしかして異世界人だったりする?

 何かこの待遇表が妙に地球(いせかい)臭いんですけど?


「ははっ、まさかね……」


『そのまさかよ』


 頭の中で声がする。

 疲れてるのかしらね。幻聴が聞こえてくる。


『幻聴じゃないわ』


 私の横に頭がぱっくり割れた血だらけの女性が立っていた。

 一度視線を外し、2度見。うん、やっぱり頭が割れてるね。

 ほっぺたをつねってみよう。


「痛ぁぁぁっ!?」


『夢じゃないわ。これは現実。だけどわたしの姿はあなたにしか見えない。だってあなたは『わたし』だもの』


「あ、え?ああっ!!」


 よく見ると女性は私、つまり『リンシア』だった。


『あなたがこの身体に馴染んでくれたお陰でようやく意思疎通が出来るわ。変な感じだけど初めまして。わたしはルシカ・リンシア。崖から落ちて即死したところ、あなたがこの身体に入って転生して今に至るの』


 ああ、元の持ち主ね。

 その節は何と言えばいいやら…… 何かカラダ乗っ取ってごめんなさい。


『それはいいの。小さい頃から度を越した方向音痴過ぎていつかこんな風なカタチで命を落とすことになるとは思っていたから。だけどあなたが転生してくれたお陰で恩を返すことが出来るわ』

 

 恩を返す?

 何を言っているかさっぱりわかりません。


『あなたはわたしがレム家の人達を嫌っていると思っていない?実は違うの。あの人達は孤児だったわたしによくしてくれた。養子にならないかとも言われたことがあるわ』


 ああ、あの家の人達なら言いかねないな。


『でも断った。その代わり自立して、いつか立派な冒険者になって恩を返そうと思っていたの。だけど……』


 思うに方向音痴なのだから冒険者は致命的に向いてない職業選択だったと思うよ。


『今更ながらそう思うわ。あれなら違う仕事を探しても良かったかもしれない。でもそれは、戻る事の出来ない岐路だわ。だから、あなたに大事な事を託す。わたしの持つ特殊な力、それを昼間の様にあなたが活用しユズカちゃんを助けてあげて欲しい』


 それからリンシアは私に自身の経験や記憶などを本格的に移譲しはじめた。

 ただ、脳が飛び出して啄まれた影響で所々記憶に欠損があるんだけど……


「あのさ、これってあなたの方向音痴も同期されるのよね?」


『あーいえ、わたしが持っていた『方向音痴ノ極ミ』スキルは同期されていないわ。あるダンジョンで見つけた魔道具でわたしはこの呪いを享受する代わりに身体能力を超越的に向上させていたの』


 何つー厄介なものを享受したのよ。

 もうそのスキルだけで人生ハードモードじゃん。


『色々とやらかした感があるわ。元々の方向音痴がさらに悪化したけどあそこまでとは……』

 

 やらかしが過ぎると思う。

 まあ、これであの訳の分からない迷い方はしなくなったわけね


『ただ、残念なお知らせだけど、あなた自身が『方向音痴』みたい』


 いや待って。

 私は方向音痴じゃないよ?


『方向音痴は皆そう言うの』


 新発見です。

 私は自覚がないだけで方向音痴だったようです。

 じゃあ、これからも訳の分からない方向音痴に苦しめられるのね……


『安心して。確かにあなたは方向音痴だけど、この世界に来てから何度か迷ったのはわたしが一時的に身体のコントロールを返してもらった結果だから』


「え?」


『そうね。まず墓地に行ったのは私の影響。後、今日迷ったのもわたしがコントロールしたの』


 何でそんな事を……

 いや待て。共通していることがあるぞ。


「もしかして、あの家の人達と引き合わせた?」


 墓地の件ではユズカちゃんと知り合いになった。

 今日はユズカちゃんの妹さん達に出会った。つまりそういうことか。


『ご明察。わたしの魂がこの身体から完全に離れるまでに縁を作って欲しかったの』


「じゃあ、弟君との出会いやユズカちゃんとバディを組むようになったのも」

  

『それはただの偶然。ユズカちゃんを助けたいと願って私に持っていた本の力を引き出したのは紛れもなくあなたの『選択』よ。そしてタイガ君に宿まで送ってもらった時は驚いたわ。実はわたし、あの子の事は顔くらいしか知らなかったのよね。もしかして何か意味があるのかもしれないわね』


 なるほどね。

 そうだなぁ。思うに弟君の恋愛を応援するとかそういう意味があるのかもね。


『え?』


「いや、あの子さ。どうも気になる人がいるみたいなの。あれかな、学校の女の子とかそういうのかな。何かそういうの聞くと妙にキュンキュンするのよね。応援してあげたいわ」


『えっと……マジで言ってる?』


「ふふっ、結婚は大失敗したけど伊達に前世でアラサーならぬミドサーやってないわ」


『うわぁ、マジだよこの人……気づいてないんだ』


 何に『気づいてない』のだろうか?

 まさかリンシアは弟君の恋するお相手に心当たりが?

 ダメよ!その記憶は同期しないでいい!

 弟君を観察する中でどんな子か当てる楽しみがなくなるから!!


『あ、うん……好きにして』


 血まみれのリンシアは遠い目をしていた。

 はて、どうしたのだろう。


『あっ、そうそう。運命は『引き寄せられる』わ。わたしはまたしばらくあなたの中で眠らせてもらうわ』


 え?眠るの?


『脳が飛び出したせいで同期作業がスムーズにいかないのよ。ああ、そうだ。そろそろ逃げた方が良いかも』


 逃げる?

 はて、何で……


「あれ?何か焦げ臭い気が……」


 それに辺りが騒がしい。

 それから間もなく、宿屋の女主人が飛び込んで来た。

 どうやら火の不始末で火事になってしまったらしい。


 とりあえず少ない荷物をひっつかんで私達は慌てて逃げ出すことに。

 それから1時間後、近隣住民の協力で火は消し止められたが……


「あー、これはしばらく営業できないねぇ。ごめんね、リンシアちゃん。別の宿探してくれない?」


 女主人はがくりと肩を落としていた。

 あれ、もしかして……私住む場所をロストしちゃったぁぁぁ!?


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