第10装 すれ違いマーチ
見事に思惑がすれ違っている主人公とバディの弟。
実は主人公の恋愛偏差値も……大分低いです。
【リンシア視点】
何という事だろうか。
あろう事かユズカちゃんのお父さんとの待ち合わせの事を私たちはすっかり忘れてしまっていたのだ。
「ユズカちゃん、弟君、ごめんねぇ」
3人揃って思いっきり怒られた。
結果としては店に居たユズカちゃんにとって『2番目のお母さん』が間に入ってくれてフリーダさんの怒りを鎮めてくれて助かった。
「まあ、俺も父さん達との約束の事をすっかり忘れてたわけだし……」
そういえば私が会社勤めしてた時にうっかりミスっちゃって無茶苦茶怒られた時に庇ってくれたのが『あいつ』だったっけ……
おでんの屋台で『元気だしなよ』って奢ってくれたりしてさ。
ロマンチックではない光景だけどあの時はきゅんとしたんだよなぁ。
まあ、そもそもその『きゅん』が間違いだったんだけどね。
ユズカちゃんや弟君のお父さんは凄いと思う。
奥さんが4人居て、しかも同居している上で子どもも沢山いてしっかり育てている。
まあ、かなり個性的な子どもに育っている感は否めないけどそれでも凄い。
私だって『あいつ』と結婚した時は子どもを作ってとか色々と考えた。
だけど結婚してから本性を現して変わっちゃったからなぁ。
「あの、リンシアさん。どうしました?」
弟君が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「へ?あっ、いやなんでもないよ。とりあえず今回の件は弟君悪くないからね?」
「リンシアさんは優しいんですね。でもその弟君って……」
「え?弟君は弟君でしょ?」
「あぁ……そ、そうですよね。ははっ……」
何だろう。弟君ががくりと肩を落としていた。
「でも凄いよねぇ。リンシアさんが警備隊の特殊課に配属だなんてさ」
ユズカちゃん達にお父さんから告げられた言葉。
それはこの国で増えつつある災禍獣事件に対抗すべく警備隊に専門の対策チームを編成するというもの。
そして私はそのチームに『ほぼ強制的』に入れられ。つまり、警備隊に『就職』することになったわけだ。
「でも、リンシアさんはそれで良かったんですか?何か無理やり話がまとめられた感があって……父さん、おじいちゃんに似て雑な所があるみたいだから」
まあ、異世界転生も強制的だったし災禍獣との戦いの巻き込まれ型だったから『慣れた』けどね。
弟君は優しいんだね。出会ったばかりの私のこともそんな風に心配してくれる。
「ありがとう。君は優しいんだね。きっと将来いい旦那さんになると思うよ」
「えっ!?そ、そうですか?」
私の言葉に弟君が顔を赤くする。
「いい旦那さん、か…………」
あれ、何か妙なクリティカルヒットした?
「でもさ、タイガの場合はまず恋愛をしなきゃね。いつもあたし達の誰かにくっついてばっかりでっさ。そんなシスコンぶりじゃ彼女は出来ないよ?」
「えっ、弟君ってシスコンなの!?」
そういえば初めて会った時もやたらお姉さんの話をしていたな。
シスコンかぁ……いかんだろ。
「そ、それは姉さん達が自由過ぎて色々やらかすから目が離せないんだよ。俺、いつも巻き込まれて怒られてるじゃん」
「まあ、確かにそうだけどさ。でもあんたも12歳なんだよ?浮いた話のひとつもないし」
いや、12歳で浮いた話があるのも色々とどうかと思うけどさ。
でも中学生くらいなら恋愛したいいお年頃だったりするよね。知らんけど。
「う、浮くぐらい俺だって出来るよ!『5秒』ほど……」
待って、浮けるの!? まさかの『物理的』な話!?
あ、忘れてたわ、この子はユズカちゃんの弟君だったんだ。そりゃそれくらい出来るよね。
「バカねぇ。浮いた話ってのは恋バナってやつよ。あんたは恋愛偏差値低いの。あたしにだって彼氏いたのに」
「3日でフラれてたよな?」
「うっ!」
ああ、プロレス技で撃沈したというあのかわいそうな彼氏かぁ。
ユズカちゃんは弟君の恋愛偏差値が低いって言うけど本人も大概なんだよな。
普通は彼氏とグラウンドでバトらないからさ。まあ、彼女と付き合うならそれくらいの覚悟はいるのだろうね。
「あの時大変だったんだよ?俺は家に居たんだけど学校から使いの人来てさ。セシルママが『あの子はぁぁぁぁ』って叫んでたんだから」
お母さんの気持ち、何だかわかる。
きっとこの子は小さい頃から色々やってきたんだろうなぁ。
「あれはみっちり怒られたなぁ。まあ、一番厄介だったのはお父様が『ユズカが彼氏を作ったぁぁぁ。ダメだ、絶対やらんぞ』って泣き崩れて話が収拾付かず大変だったところだけどさ」
「結局母さんも呼ばれて話をまとめたんだよな……」
どうもフリーダさんは家族の中でも『まとめ役』になっているらしい。
その彼女がどうかなっている時は他の奥さんがまとめたりして上手くバランスを取っているのだとか。凄いシステムだけどよく出来てるよ。
「まあ、とりあえずさ。タイガもあと数年で結婚できる年になるけどまずは彼女を見つける事ね」
「彼女、か……」
弟君は少し考え込み、急に顔を赤くした。
ふむ。お姉さんわかっちゃったぞ。弟君ってば皆には黙っているけど気になる子が居るな?
ちょっと何よそのキュンキュンする展開。
お姉さん、陰でこっそり観察……否、見守らせてもらいたいかも。
私はさ、もう色々と恋愛は勘弁してほしいわけなんで若い人を応援したいわけよ。
いや、今の私は若い身体だけどさ。それじゃあ恋愛をやり直したいかと言われれば……面倒なんだよね。
別に『あいつ』の事が忘れられない。今でも愛しているとかそういう気持ちはない。
ただ、散々な目に遭ってきたおかげで正直、『もういいかな』って感じなんだよ。
そういうわけで当方、災禍獣と戦いつつ若者達が紡いでいくこの世界の未来を応援しようじゃありませんか。
「弟君、頑張れ!君ならイケるよ!!」
「えっ、あっ、はい!!」
□
【タイガ視点】
いい旦那さんになれる、かぁ。
でも、正直気になる女の子とか別に居ないんだよなぁ。
別に……
チラッと姉さんと楽しそうに話しているリンシアさんを見る。
土まみれで街中をフラフラしていた不思議なお姉さん。
本人は大丈夫だと言っていたし頑なに話してくれないからきっと何かあったのだと思う。
そうだな。恐らく道に迷った挙句洞穴に落ちたとかそういう感じなんじゃないかな。
彼女は17歳。一番上の兄さんと同じくらいの歳だ。
母さんの話だと丁度そのくらいの時、父さんの実家に居候してキスされたって言ってたな。
その話になると父さんが『そ、それは!!』って慌てるんだよなぁ。
キス、か………リンシアさんって恋人とか居るのかな?
居たらやっぱりキスとかしてそれから………って何を想像してるんだよ俺は!!
「まあ、とりあえずさ。タイガもあと数年で結婚できる年になるけどまずは彼女を見つける事ね」
でも学校の知り合いでこの子と付き合ってみたいなぁって子いないんだよな。
結婚とか興味ないわけじゃ無いけど夢のまた夢って感じでさ。
「彼女、か……」
俺に彼女が出来るとしたらどんな人がいいかな。
そうだな、大人びているんだけど時々妙に子どもっぽい所が見えたりする人とかいいかな。
例えば気を付けていないと盛大に道に迷うから目が離せないとか……とか……えーと………
あれ?今、誰の事を思い浮かべた!?
顔をあげると姉のバディである女性が俺の方を見てほほ笑んでいた。
思わず心臓が高鳴るのを感じた。
あれ、もしかして俺………え、まさかだよね?
でも、年上だよ!?5つも上。
いや待て。父さんと母さんも『5歳差』だし問題ない。
父さんとクリスママに至っては10歳も違う。
何だ、全然問題なくイケる……じゃなくて!!
「弟君、頑張れ!君ならイケるよ!!」
イケる!?
もしかしてリンシアさん、俺を男として見てくれて……じゃなくて!!
「えっ、あっ、はい!!」
ど、どうなっちゃってるんだよ俺……




