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第95装 夫婦のお風呂事情

【リンシア視点】


「ただいまー」


 夕方、タイガ君が仕事から帰って来た。


「うわっ、汗っ!!」

「馬車の横転事故があってさ。その事故処理してたらこれだよ」

「お疲れ様。お風呂沸かしてるから入っといでよ」


 そう言ってお弁当箱を受け取った私をタイガ君がじっと見る。

 あれ?これって何か期待している時の顔だよね。


「ん?何?どうしたの?今日はカ・レーだけど」


 異世界版魔改造食文化、カ・レー。

 まあ、ほぼほぼカレーなんだけどどうもこれ、お義父さんが子どもの頃には既にあったらしい。

 どうやら異世界へカレーという食文化を持ち込んだ転生者がいるみたい。


「愛する奥さんと一緒に入りたいな、お風呂」

 

 あー、そういうパターンかぁ………この国のお風呂って日本的なお風呂に近いんだよね。

 それを実現するために都市部って水道設備ががっつり発展してて色々助かってるんだけどね。

 とりあえずおでこにチョップを入れた。

 

「あいたっ!」

「夕飯の支度があります。なんか下心が見えてるよ?早く入っといで」

「ちぇーっ」

「ほら、早く行く!!」


 残念そうに浴室に向かう彼の肩に手を置きこちらを向かせると何かを考える前に少し背伸びをしてキスをし、耳元で囁く。


「おかえり、私のカッコいい旦那君」

「ふぉぉ……」


 顔を真っ赤にしてにやにやしながら浴室へ向かう彼の足取りは軽かった。


「うわぁ、お姉ちゃんがタイガを手玉に取っているなり……」

 

 さっきの光景を見ていたのだろう。

 ベルちゃんが顔を赤くしながら 驚いていた。


「手玉に取るって人聞き悪いなぁ。あれはちゃんとした愛情表現だよ?」


 私はそう言いながらくすくすと笑ったのだった。

 結婚したとはいえやっぱり彼はまだ子どもっぽい所がある。

 だから年上の私が色々と主導権を握らないといけないのだ。

 そんな事を考えていると愛娘がぐずり出した。


「あ、お姉ちゃん。ボクが夕飯の支度代わりに手伝うから」

「ありがとうね、ベルちゃん」


 ベルちゃんに礼を言いベビーベッドの中にいる娘のティアの顔を覗き込む。


「はーい、ティア~、ママぴっぴだよー。ミルクはさっき飲んだからそろそろオムツかな~?」

 

 ああ、幸せだなぁ。

 それにしてもこの子、よくミルク飲むんだよねぇ。

 大体1日12回くらいは飲む。ちょっと多すぎないかと思っていたらこの家の子はだいたいそれくらいだそうだ。

 例えばタイガ君は平均11回くらいだったらしいし、ユズカちゃんなんか15回。

 何というかお義母さん達お疲れ様です。

 この子も大きくなったら大食いになるんだろうなぁ。そしてとんでもないフィジカルモンスターに成長するんだろうな……


【ユズカ視点】

 

 食後にお茶を飲んでいると新人のメイドがハラハラした顔で天井を見つめていた。

 

「あれ?どうしたの?」

「え?いやその……」


 私への返答をせねばと慌てる彼女だがやはり天井から目が離せず言葉上手く紡げない。

 何だろう?天井に何か変なものでもあるのかな?

 見上げてみると娘のフーカが天井に張り付いて動き回っているだけ。


「うん。普通の光景じゃん」

「ええっ!?い、いや採用された時にお話は伺ってましたが………あぁ、お嬢様ぁ……」

 

 彼女は右へ左へ移動していつでもフーカを受け止められるよう準備している。

 うん。仕事熱心なメイドさんで嬉しいよ。


「大丈夫だよ。あたしも子供の頃あんな感じだったけど落ちた事はあんまりなかったらしいから」

「あんまりってなんですかあまりって!!落ちた事あるじゃないですかそれ!!?」

「大丈夫だって。心配性だなぁ。ねー、フーカ」


 天井の娘に微笑みかけた瞬間、フーカは虫の様にぽとっと天井から落下してきた。


「うぎゃぁぁぁぁっ!お、お嬢様ぁぁぁぁぁ!?」


 絶叫するメイドさん。


「はいはい、大丈夫だからね」


 苦笑しながらオージェ君がフーカを受け止める。


「す、すいません若旦那様………」

「あははは、仕事熱心なのはいいけど今ので悲鳴を上げてたら身が持たないよ。慣れる事だね」 

「うぅ、はいぃ……」


 流石あたしの幼馴染で旦那様だね。

 フーカが天井を移動し始めた時も驚いたのは一瞬だけだった。

 何せ『僕の奥さんは校舎の屋上から飛び降りたりして平気だからね』って笑顔で言ってたもんね。

 そりゃ驚きませんよ。でも屋上じゃなくて3階からなんだけどなぁ。


 そこからしばらく親子3人で過ごしているとラーヤさんが鍛錬から戻って来て4人に。

 そうこうしているとフーカがおねむになったのかくたくたになって寝てしまった。

 あたしはフーカをベッドへ運ぼうとするとメイドさんが慌てて制止した。


「あの、奥様。私が運びますので」


  いや、別にそんな重労働じゃないんだけど…… 


「ユズカ、仕事をさせてあげようね」

 

 オージェ君に言われてしまっては仕方ない。

 うー、これは未だに慣れないなぁ。

 メイドさんがフーカを部屋に連れていく。多分あれで朝まで起きないかな。


「さて………」 


 オージェ君がおもむろに立ち上がる。


「それじゃ、お風呂に入ろかな」

 

 それを聞いた別のメイドが準備は出来ている旨を 報告すると彼はにっこり笑うとあたしの方を見た。


「一緒に入ろうよ」

「うぇっ!!?ちょ、ちょっとそれはえーと」


 幾ら旦那と言えども恥ずかしいんですけど……


「ラーヤも一緒に入ろうよ」


 うえぇぇぇぇっ!?3人で!?

 

「俺もか?良いのか?」

「だってさ、俺達3人で夫婦だろ」

  

 待って待って!そんなの恥ずかしさが限界突破しそうなんですが!?


「まあ、それもそうか」


 そこは断ってラーヤさん。何普通に納得してんのぉぉ!!


「あ、あのさぁ。あたし今日はちょっと………」

 

 何とか逃げようとするがオージェ君はあたしの目をじっと見ると首を傾げる。

 ヤバイ!これはあれが来る!!


「3人で入りたかったなぁ……」

 

 あぁぁぁぁ!!! そんな寂しそうな顔しないでぇぇぇ!!!!

 マズいよ、これ断り切れず流されるやつだ。

 でもあたしだって成長する。いつまでも流されてばかりはいられないもん。


 そんな中、メイド長のナディアさんがやって来た。

 よし、彼女を味方につけてこの場を乗り切ろう。 


「浴室には魔法で防音処理を施しておきましたのでどうぞごゆっくり」

 

 待ってぇぇぇぇ!!! 何で協力しちゃってるのぉぉぉ!!!!

 もうダメだぁ……諦めるしかないんだぁ……

 期待のこもった視線を向けるオージェ君に根負けして私は力なく頷いたのだった。

 ああ、今夜も流されたぁ………

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