第9装 盾の使い方を間違っていませんか? (※)
音に導かれ街中を走り抜けると先ほど私とぶつかったヤンキーがふらふら歩いていた。
体を折り曲げまるで病人が彷徨っている様な感じだ。
「げっ、あの人は……」
「リンシアさん。あの人、災禍獣だよ」
「え?災禍獣って人に化けるの!?」
「そうじゃなくてさ。お母様によると幾つかタイプがあるの。特定の場所に潜んでテリトリーに入って来た獲物を狙う『待機型』っていうのがこの前の『アンザマオ』。他にも宿主に幻覚を見せて追い詰める『潜伏型』も居てこれはちょっと見つけるのが厄介なんだよね。今回のは負の感情にとりついて変異させる……」
ユズカちゃんが説明する中、ヤンキーの上半身がクワガタの様な怪物へと変異していく。
「『変異型』って事」
「何だよあれ、デカい『エラフィラ・スカサリア』の化け物!?」
私に引きずられかけながら息を切らしている弟君が叫ぶ。
「弟君、『エラフィラ・スカサリア』って何?」
「え、知らないんですか?あんな感じで頭がハサミみたいになってる虫ですよ。夏に森なんかに行くと木に留まってるんです。小さい頃はよく捕まえに行きましたよ」
うん、要するに異世界版『クワガタ』って認識でいいのよね。
男の子って何で虫が好きなのかなぁ。理解できん。
「あれ、外はカリッ、中はトロッとしてて美味しいよね。頭からいくと舌を挟まれる恐れがあるからボディからいくのが正解なのよねー」
待て。今変な言葉が聞こえたぞ?
「ちょっ、ユズカちゃん!虫を食べるの!?」
まさか異世界では『昆虫食』が導入されていた!?
「え、食べないの?あたし森へ行ったらよく食べてたよ?」
うわぁぁ、マジかぁ。
「リンシアさん。ウチでも食べるのは姉さんくらいだから。普通は食べないから安心して……」
良かったぁぁぁぁ。
あんなのが食べ物屋で出てきたら卒倒する自信があるよ、私。
「あのガキィィ、大人を嘗めやがって。ギチギチにしてやるぅぅ!!」
何だかデカいクワガタが叫んでいる。
気持ち悪い光景だなぁ。多分、さっきのマリィちゃんに対して怒りを募らせてるんだろうけどさ。
逆恨みもいいところじゃん!!
「多分、元々憑りついていた災禍獣が『怒り』の感情を喰らって変異しちゃったのね」
「あれって放っておいたらマリィちゃんが危ないんじゃない?」
「それもそうだけど時間が経ちすぎると完全に同化しちゃう。でも今ならぶちのめせば分離できる!リンシアさん!」
「なるほど。それならここでさっさと叩くとしましょう」
私は魔道具を起動し本に変化させる。
ページをめくりクローゼット型の魔道具を取り出すとユズカちゃんに手渡した。
「よぉし、滾ってくるじゃない!『聖装』ッッ!!」
銀の鎧をまとったユズカちゃんが怪物目掛け飛びかかっていく。
「あの、リンシアさん。俺はいつまでこの恰好でいれば……」
私とロープで繋がる弟君が困惑した表情を見せていた。
「途中で私が行方不明になっても困るからこのままで」
「はい……」
とりあえず相手はクワガタとよく似た怪物。
ならばクワガタの特徴である大顎を警戒しつつ腹部を狙うのが定石……
「よっしゃぁぁぁ!!」
なのだけどユズカちゃんはあろう事か最大の武器である大顎に組み付いた。
いやいやいや!そこ一番ダメでしょ!?
何で正面から組み付いちゃうのよ!!?
「姉さん、というかウチはいつも相手に真正面から突っ込んでいく癖があるんです」
「そうみたいだね。解説ありがとう弟君……」
もうね、完全に発想が格闘家のそれなんだよなぁ。
正面から正々堂々ぶつかっていくんだよなぁ。
「邪魔をするなぁぁぁ!!」
クワガタはユズカちゃんが組み付いた状態で頭を振り回し力任せに壁へと叩きつけた。
ほらぁ、クワガタの大顎に組み付いちゃダメじゃん。
「そうだ!」
こういう時はパワーアップというのが定石なわけよ。
先日、災禍獣を倒した時に何か本に吸い込まれていくのを見ていた。
「リンシアさん?どうしたんですか?」
「ほら見て!」
本をめくっていくと新たに追加されているページがあった。
猫の模様が描かれた宝箱が描かれている。
「これはね、おそらくこうやると……」
ページを撫でると光と共に手のひらサイズの宝箱が現れた。
「ほらねぇ。理屈はわからないけどこの間倒した災禍獣に関するアイテムみたいなのが手に入るんだよ」
「凄い!リンシアさん物知りじゃないですか!!」
まあ、ヒーローものの定番だもん。
玩具売らなきゃいけないからねぇ……ってそう言う事言っちゃダメだよね。
「ユズカちゃん、パワーアップアイテムだよ。受け取って!!」
私はユズカちゃん目掛け小型宝箱を投げる。
ユズカちゃんは宝箱を視認すると攻撃を避けつつ受け止め敵から距離を取った。
良かった。リンシア、ノーコンでは無かったみたい。
「パワーアップって面白そうじゃない。それじゃあ、行きますかッ」
最高にいい笑顔でポーズを決めるユズカちゃん…………なのだが。
「ところでこれ、どうやって使うの?鍵は鎧用のアイテムに刺さった状態なんですけど?」
「あッ!!?」
慌てて弟君に目をやる。
「いやいや、何で俺が知ってるんですか?」
しまったぁぁぁ!
使い方とか模索するの忘れてた。
いやぁ、そう思うとヒーローってすごいよね。
見た事の無いアイテム出てきても簡単に使いこなしちゃうんだもん。
そんな事をしていると動きを止めたユズカちゃんが腰をクワガタの大顎に挟まれてしまう。
「しまった!!」
「このまま真っ二つにしてやる!!」
「ちょっ、今使い方を考えてるところで……ああっ!どうしようリンシアさん!!?」
本当にどうしよう。
本のページには特に説明とか書いて無いのよね。
ダメでしょ。こういう仕様はしっかり書いとかないと。
「ふと思ったんだけど鍵穴の所なんか押し込む感じになってないですか?」
「何ですと!?」
見れば確かに鍵穴部がボタンみたいになっていた。
ちょっと、お姉さん閃いちゃったよ。
「ユズカちゃん、鍵穴の所。思いっきり押し込んでみて!!」
「鍵穴?こ、これか!!」
ユズカちゃんがボタンを押すと予想通り宝箱が開き中から光が飛び出し宙を舞う。
「お姉さんパターンとかわかっちゃってます。これはね、倒した災禍獣にちなんだ武器とかが手に入るんじゃないかな?あいつは猫だったから爪とかそんな感じとみた」
「凄いよ、リンシアさん!物知りだ!!」
ふふっ、アラサー舐めんなよ。
飛び出した光はユズカちゃんの右手にくっつくと子猫の顔を模した盾へと変化した。
「何でだよっ!!!」
こういうのはちょっと強めの武器とかでしょ?
盾って何よ。この状況の打開に役に立たないじゃない!!
「これは……そうか、わかった!!」
何かを察したユズカちゃんは盾を装備した右腕を振り上げ、クワガタの大顎を殴りつけた。
「いや盾の使い方ッッ!!」
ただ、結果オーライと言うべきかその一撃で大顎が片側破損してくれた。
拘束から逃れることが出来たユズカちゃんは機を逃さないといった感じで地面を蹴り回転。
見事なバンクハンドブロー+盾でもう片方の大顎を破壊。
更に腰を落として腹部に強烈な正拳突きを叩き込むと衝撃でクワガタのボディからヤンキーさんが分離して飛び出す。
残ったクワガタ災禍獣は崩れ落ちると青い炎に包まれながら消滅。そして私の本にまた何かが吸い込まれていった。
□
「巨大エラフィラ・スカサリア。消滅しちゃったね。まあ、災禍獣だから仕方ないけどさ」
聖装を解いたユズカちゃんは残念そうな顔をしていた。
「姉さん、まさか食べようと思ったんじゃ」
「だって大きかったしさ。美味しいんじゃないかなぁって」
「マジかよ。勘弁してくれよ……」
弟君に激しく同意。
この子の食生活が非常に気になる。
とりあえず地球の女子高生とは大きく違う事は確かだよね。
「よーし、それじゃあ災禍獣も無事倒した事だしさ、カフェで打ち上げしようよ」
「あっ、それいいね」
ユズカちゃんの提案に私も賛成した。
「何だろう。凄く大切な事を忘れている気がするんだけど……」
弟君だけが複雑そうな表情で何かを思案していた。
「どうしたの?弟君も行こうよ」
「あ、はい!」
こうして3人で『くつろぎカフェやよい』に向かった私達。
そして……
入り口で仁王立ちをしているフリーダさん。
そして店内で5杯目のコーヒーを飲むお父さんに出会う事で『待ち合わせ』の事を思い出すのだった。
やっちまったぁぁぁぁ!!
□□
【ベル視点】
結局妹を見失ってしまった。
ベンチに腰を下ろすと思わずため息が出る。
やっぱりマリィに嫌われちゃってるよね。
仕方ない事だってわかっている。
いつかこの日が来るって覚悟はしてたけどやっぱり堪える……
顔をあげると視界の先に人混みに交じってボクを睨んでいる女性が見えた。
「ごめんなさい……」
幾ら謝っても何も変わらない。
ボクのせいで、あなたは娘と同じ時間を過ごすことが出来なかった。
「本当にごめんなさい。バレッタママ……」




