表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

誰か第4王子の婚約者破棄を止めてください!

作者: 滝川 千利

ある日のクランス学園中等部の生徒会室での出来事。


「私は真実の愛をみつけてしまった。セシル、婚約破棄をさせてもらうよ」


第4王子である生徒会長トーマス・クランスは副会長の公爵令嬢セシル・アレントに婚約破棄を言い渡す。


「で、こちらにいる方が真実の愛のお相手ですのね。ナトウ子爵令嬢ナタリー様でお間違いありませんか?」

「そうだ!彼女こそが運命の相手!」


トーマス様には聞いてないんですけど。

その隣を見ると、青い顔をして今にも倒れてきそうなナタリーは首を横に全力で振っている。


広げた扇子の後ろでふーーとため息をはく。


「トーマス殿下、ナタリー様とはいつどこでであったのですか?」

「あれは昨日食堂で私のスプーンが落ちてしまったのをナタリーが拾ってくれたのだ」

「はぁ」


そんな理由で…呆れを通り越して引くわ。

また一般食堂で食事をしたんですね。後ろにいる側近達に目を向けると、一斉に目を反らした。後で説教です。


「昨日出会ったナタリー様が運命の相手で間違いないのですね?」

「違い「そうだ」


ナタリーはトーマス殿下と言葉を重なると、顔面蒼白で私の顔をガン見した。


令嬢がそんな顔をしてはいけないですが、仕方ありません。とてもかわいそうな状況ですもんね。王子に突然連れてこられて、こんなことを言われたら誰でもこうなります。


「先程からナタリー様は発言してないですが、許可しますからおっしゃってください」


そろそろ助け船を出さないと、ナタリーが限界を迎えそうだ。いろんな意味で。


「ナタリーからもなんか言ってやれ。ここで言った言葉は罪にはしないから。なっ、セシル」


極上スマイルで私に同意を求めるトーマス殿下。ナタリーは恐る恐るこちらを見るので、こちらも極上のスマイルで頷く。


ナタリーは覚悟を決めて、トーマス殿下の顔を見た。


「で、では、申し上げます。私は殿下の運命の相手ではございません。急に連れてこられてこんなこと言われても困ります。私にはちゃんと婚約者もいますし、愛しておりますぅぅ」


言いきった。

えらい!よく頑張った。心の中で拍手を送る。


「だそうなので、ナタリー様は退出していただいて結構ですよ」

「失礼します」


一礼をして走って逃げていくナタリーを見

届ける。後で何か謝罪の物をおくりませんと。


トーマス殿下の方を見ると、口を開けて唖然としている。なんて情けない顔。扇子を閉じた音でビクッとしてこっちを見る。


「トーマス殿下。これで何回目ですか?」

「…3回目です」


そう、3回目。


この訳のわからない婚約破棄騒動は、この1ヶ月で3回も起こっている。

来月で中等部を卒業する私には、頭の痛い出来事が突然始まった。

今まで仲良くやってきたはずなのに。


だが、どれも相手の令嬢達はさっきのように、たまたま王子に親切にしただけで、連れてこられこの騒動に巻き込まれてるから不運としかいいようがない。


後でたくさんの謝罪を送っているので、そこまでの問題にはなっていないが。

でも令嬢達の間では王子に優しくしてはならないと密かに広まっている。


ナタリーはたまたま落ちたスプーンを拾ったのが、たまたま一般のところで食べていた王子だっただけなのだ。


「王子がちょっと優しくされたからと、令嬢を連れ込むのはやめていただきませんか!」

「セシル、その言い方はあまりよくないと思うよ。女の子が連れ込むなんて…」


顔を赤くてゴニョゴニョいっている殿下にイラつく。


「殿下、私と婚約破棄したいのでしたら国王様に頼んだらよろしいじゃありませんか。関係ない令嬢まで巻き込むことはお止めください」

「セ、セシルのバカーーー」


泣きながら部屋の外に走っていく。その後に護衛がついていくのを呆れた顔で見つめる。


「なんですの。あれ…」


こっちが泣きたいわよ。


「あははは」


ドアの方でお腹を抱えて笑っている美少年がいた。


「どうされたのですか!マルクス殿下。高等部からわざわざいったいどういったご用ですか!!」

「いやぁ、ごめん、ごめん。そんなに怒んないで。可愛いい顔が台無しだよ」


ウィンクを投げつけてくるのは、この国の第3王子マルクス殿下。トーマス殿下の兄である。


「うざいのでやめてください」


笑顔でいってやる。


「相変わらずハッキリしてるね、セシルは」

「で、何のご用ですか?」

「いや、影から弟が何やら面白いことをしてるってきいてね。見に来たの」


おかしくない!トーマス殿下の影がわざわざマルクス殿下に報告にいくなんて。

顔には出さないけど忌々しい。


「そうでしたの。満足いただけましたでしょうか?」

「あぁ、久しぶりに面白いものが見えたよ。我が義妹よ。また来るよ」


そう言って去っていった。いや、もうくるな。

その義妹の地位も危ないんですけどね。


ため息をついてソファーに座ると、トーマスの側近達の方に目をやる。


「殿下を一般食堂に連れていったのはなぜかしら?またいらぬ被害者を出したじゃないの」

「しかたないですよ。殿下が言ったことは止められないですから」


宰相の3男がしれっと言った。

この間殿下がアイスを食べるって言い出したのを太りますよって言って止めていたよね。


「そうですよ。殿下が言い出したことは絶対ですから」


騎士団長の4男がのっかる。

この間、町に遊びにいこうって言った時、あなためんどくさいからヤダって殿下に

いってましたよね。


殿下とこのふたりは幼なじみなので、何でも言うことができる仲なのに。こんなときだけ殿下をたてるなんて。

ジロッと睨んでやる。


「もういいです。でもなんで殿下はこんなことをなさるの?」

「「それは殿下から聞いてください」」


ハモったわね。苛立ちが増すので、ふたりに仕事を押し付けて帰ってやった。




一週間後


「セシル。私は運命の女性を見つけてしまったよ。ルーシーは真実の愛の相手だ」


またか。隣にいる可愛らしい令嬢は、一つ下の有名な男爵家の方。

これは厄介な方を連れてきましたね。


側近達に目を向けると、また一斉に反らす。今度は制裁してやる。


「そうですわ。トーマス殿下の運命の相手はわたくしですの」


ルーシーはトーマス殿下に腕を絡め垂れかかっている。


「引っ付きすぎですわ」


思わず心の声が低くく出てしまいました。


「そうか」


トーマス殿下はルーシーから距離を取ろうとするが、ルーシー嬢は離れない。


「で、今度はいつどこでであったのですか?」

「2日前に噴水でびしょ濡れになっていた所を見つけてな。助けてやったら昨日お礼にハンカチをくれたのだ」


いつもながら…引くわ。


「セシル様、トーマス殿下は困っております。早く別れてくれませんか?」


呆れているとルーシーは口を挟んできた。


「ルーシー様は黙っていてください」

「まぁなんて怖い。トーマスでぇんかぁ、セシル様が苛めてきますぅ」


甘えた声でトーマス殿下にまた引っ付く。


「セシル。ルーシーが怯えてるではないか」


トーマス殿下が庇うことで、苛立ちがつのる。ルーシーを見ると口角が少し上がっているのがわかる?


「トーマス殿下、セシル様にはこの前から意地悪をされていたんです」

「そうなのか?セシル」

「いえ、意地悪じゃありません。一つしたの生徒達からルーシー様に対する苦情がきていたので注意しただけですわ」


このルーシー嬢は、一つ下の学年で婚約者のある男性に色目を使うと苦情が殺到していたので、生徒会副会長の私が注意をしにいってたのです。


ちゃんとした令嬢を連れてくるのはともかく。この方だけはダメです。


「本当はぁ、あの噴水で濡れていたのもセシル様の差し金なんですよ」


はっ?何をいってるのかしら??


よくそんな嘘を堂々と。


トーマス殿下は難しい顔をしている。

もしかして私がやったとでも思ってるのかしら。トーマス殿下にかぎって…でも運命の相手の言うことは信じてしまうのかも。


「バカを言うな。セシルがするわけないじゃないか」


トーマスはルーシーの掴まってた腕を勢いよく外した。


「あははは」


ドアのところで笑っている人に目を向けると、またマルクス殿下が立っていた。


「マルクス兄上。どうなさったのですか?」

「いや、ちょっと報告を受けてな…って、セシルそんな怖い顔をしないでおくれ」


また影ですか。ほんと忌々しい。

マルクス殿下は私の元に近づいてくる。


「こんな顔なのです」

「君には笑顔が似合うのに」

「兄上、セシルを口説くのはやめてください」


トーマス殿下が珍しく怒っている。

もしかして焼きもちを焼いてくれたのかしら。

嬉しくてちょっとにやけてしまう。


「トーマスが奇行に走っているときいてね。セシルを慰めようと思って」

「奇行になんて走っていません。セシルがかっこいいと思う男性になろうとしてるだけです」


ん?ちょっとまって。私がかっこいいと思う男性はそんな奇行に走る男性ではないですけど。


「それと婚約破棄がどうつながるのですか?」

「セシルが言ったのではないか。婚約破棄をした人がかっこいいって」

「いってませんが…」

「いった!だから僕は婚約破棄してかっこいいと思ってもらおうと」


あまりにも必死なトーマス殿下を見て、もう一度思い出してみるけど、思い当たらない。


「あのーいつ言ったのでしょうか?」

「1ヶ月前に劇を見た帰り道に」


言ったのか?あの時見た劇は悪役令嬢に婚約破棄をした男性が真実の愛に目覚める話で…………


『婚約破棄をした(俳優の)人はかっこいいですね』


と言ったような………


えーーーーーー


言ったわ。(俳優の)をつけずに。まじで。そんな理由でしたか。


嬉しくて顔に熱が集まってしまう。

トーマス殿下が、私にかっこいいと思ってほしくて…。嬉しいかも。


「セシル、そこは喜ぶところじゃなくて、呆れてもいいところなんだが…まぁいいか。トーマス、一度ちゃんとふたりで話あいをしなさい」

「わかりました。兄上」

「それからそこのお嬢さんは、俺と一緒に来てもらおうか」


ルーシーの方に向かって手を差し出しウィンクをした。

ハエとりホイホイのようにルーシーはふらふらとマルクス殿下の方に吸い寄せられていく。

すごいよ。まじで。


呆れた目で見ていると、マルクス殿下はこちらを見た。


「このお嬢さんには、俺の可愛い天使ミーシャを噴水に突き落とそうとした余罪があるからね。反対に落とされたみたいだけど」


ミーシャとはこの国の第2王女様。トーマス殿下より2つ下でとても可愛らしい方である。性格は置いといて。


マルクス殿下は特に可愛がっている方なのです。そこの影も掌握してるね。


恐ろしい。この人は敵に回してはいけない。


それにしてもルーシー様はすごいことをしてますのね。ある意味怖いもの知らずです。


「あぁ、忘れてた。セシル、これ一つ貸しだからね。じゃあね~」


はぁぁ、勝手に割り込んできたくせに。

と、言いたいのをグッと堪える。


ルーシーを連れて行ってくれるのだから、我慢しよう。


改めてトーマス殿下の方見る。


「トーマス殿下は婚約破棄しなくてもかっこいいですよ」

「えっ、本当か」

「ほんとうです。トーマス殿下は私の中で一番かっこいいです。だからもうこんなことは止めてくださいね」

「うん、そうするよ。セシル愛してる」

「私もです」


トーマス殿下は私の両手をとり、嬉しそうに笑っている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あ〜幼なじみ二人は知ってたな…(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ