第94話 拠点入手と話し合い
「わぁ、こりゃ凄いな」
そう感心した春風は今、フレデリックが「拠点」として用意した一軒家の中を見て回っていた。
フレデリック曰く、レギオンを組んだハンター達にはそれぞれ「拠点」と呼ばれる建物が与えられるという。そしてこの一軒家も、その拠点となるものとしてフレデリックが管理している建物の1つだ。
「では、私はこれで」
そう言って、拠点についての説明を終えたフレデリックは、春風に中に入る為の鍵を渡すと、総本部へと戻った。
「よし、取り敢えず中を見てみますか」
『おー!』
リアナ達がそう返事すると、春風は早速拠点の玄関の鍵を開けて、全員で中に入った。
「わぁ!」
中は管理が行き届いているのかキチンと掃除されていて、特に目立った汚れはなかった。物語の中では、こういうのは大抵薄汚れていて、みんなで掃除するものだと思っていた春風は少し拍子抜けしたが、気持ちを切り替えて、
「あのさ、みんな……」
『?』
「今更だけど、俺がリーダーってことで良いんだよね?」
と、恐る恐るリアナ達に尋ねた。
リアナ達は一瞬キョトンとなったが、「フッ」と笑って、
『勿論(だよ)(です)!」
と、一斉に答えた。
その答えを聞いて、春風はニヤリと笑うと、
「だったら、最初のリーダー命令だ」
ーーご、ゴクリ。
「この拠点の中、思いっきり探検しまくってこい!」
『オオーッ!』
そして、リアナ達は各自バラバラになって、自分達の拠点の探検を開始した。春風はそれを見届けた後、自身も探検に加わった。
それから数時間後、探検を終えた春風達は、大きな部屋の中に集合していた。そこは部屋の造りからして食堂のようで、隣には広めの台所があった。
(ふぅ、大体こんなところかな?)
そう思った春風は、探検の時に見てきたものを思い出した。
この一軒家は2階建てで、1階は今自分達がいる食堂と台所の他に、個室が1つと、トイレと風呂と地下室への扉が備わっていて、風呂に至っては大人3、4人は入れるんじゃないかと思われるくらいの広さがあった。また地下室の方もそれなりに広く、何かをやるには最適なんじゃないかと春風は考えた。さらに台所にも扉がついていて、そこを開けると広い裏庭があり、そこには様々な農具が入った物置きがあった。
続いて2階にはいくつかの個室があって、どの部屋もベッドに机に椅子と、最低限の家具が置かれていた。部屋の広さは大体同じだが、1つだけ特に広かった部屋があったので、そこをリーダーである春風の自室にする事にした。
各自どの部屋にするかが決まった後、春風はアデル達の方を向いて、
「あー、アデル……君、っていうかみんな」
「? 何、リーダー」
「さっきから気になってたんだけど、その『リーダー』って呼び方、定着かな?」
「当たり前だろ、リーダーなんだから」
「そうなんだけど、ちょっと恥ずかしいから、出来ればリアナみたいに、『ハル』で良いよ」
どうやら春風は、「リーダー」と呼ばれる事に抵抗があるようだった。しかし、納得がいかなかったアデル達は「うーん」と考え込むと、
「……じゃあ、『アニキ』でいいか?」
と、アデルが提案してきた。
「え、アニキ!?」
春風も「うーん」と考え込んだが、
(『リーダー』よりかはマシか)
という結論に至り、
「じゃあ、それで良いや」
と、許可することにした。
それを聞いて少し喜んだアデルを見て、
「……俺も、『アニキ』って呼ぶ」
「だったら、あたしは『ハル兄』で!」
と、クレイグとケイトも手をあげた。
さらに、
「なら、私は『ハル君』かな?」
「でしたら、私は『ハル兄さん』で」
「わ、私も、『ハル兄さん』で」
と、アリシア、フィオナ、ルーシーも手をあげた。
春風とリアナとジゼルはそれを見て、
『おぉ』
と、驚きの表情をすると、
「じゃあ、俺は『おねにーちゃん』で!」
「あたしも!」
「ぼ、僕も!」
と、イアン、ニコラ、マークも元気良く手をあげた。
「え!? その呼び方定着なの!?」
『うん!』
その答えを聞いて、春風は「うっそぉ」と肩を落とした。
するとそこへ、
「あ、そうだハル君」
と、何かを思い出したアリシアが声をかけた。
「? どうしたんですかアリシアさん」
「私と妹のフィオナの事なんだが、昨日2人で話し合って、『偽名』を名乗る事に決めたんだ」
「偽名? あ、そうか、アリシアさんは……」
春風はすぐにその理由を察した。
「そういう事なら、わかりました。因みに何て名乗る事にしたんですか?」
「ああ、私は『アリア・フォード』。フィオナは『フィナ・フォード』と名乗る事にした」
「なるほど、良いと思います」
春風がそう納得すると、
「俺からも、良いか?」
と、アデルが再び手をあげた。
「どうしたのアデル君?」
「俺らの事、『君』付けや『さん』付けで呼ばないでほしいんだ。呼び捨ての方が、しっくりくるから」
恥ずかしそうに言うアデルを見て、春風は「え?」となったが、
「……うん。わかったよ、アデル。クレイグも、ケイトも、ルーシーやフィナも、それで良いかな? あ、アリア……さんは……」
「ああ、私は19歳だ」
「うん、じゃあ、アリアさんは『さん』付けで良いですね?」
「ふふ、構わないよ」
「えっと、すみません。じゃあ、話はこれで終わり……」
と、春風が話を終えようとしたその時、
「あ、待ってハル!」
と、リアナが突然「待った」をかけた。
「どうしたのリアナ?」
「大事なこと忘れてるよ!」
「大事なこと?」
春風は「?」を浮かべて首を傾げると、リアナは「決まってるでしょ」という表情で答える。
「私達の、レギオンの『名前』だよ!」




