第90話 悩んで悩んで、「神様」降臨!?
(ど、どうしよう……)
周囲の人達の視線が突き刺さる中、春風はもの凄く悩んでいた。
(これって、全部話さなきゃいけない状況だよなぁ?)
現在、春風が悩んでいるのは、フレデリックとアデル達に「本当のこと」を話すべきかどうかだ。ここで全てを話すのは簡単かもしれないが、信じてもらえる確証なんてなかった。
(いやそれ以上に、これどこまで話せば良いんだ?)
さらに、全てを話すということは、自身だけでなくリアナのことやジゼルのこと、さらに「本当の予言」のことや、最近起きている魔術師達の異変の原因まで話さなくてはならず、それが、春風の悩みを大きくしていた。
(うう、どうしよう、周りの反応が……怖い)
「お、俺……は……」
どうにか口を動かすが、思う様に言葉が出なかった。
最早、どうすれば良いのかわからなくなった、まさにその時だった。
ジリリリリリッ! ジリリリリリッ!
『!?』
突如なった謎の音に全員が驚いた。音の出所は、春風のズボンのポケットだった。
(まさか……)
そう思った春風はポケットに手を突っ込んで、音の原因となったものを取り出した。それは、あらかじめガントレットからはずしていた零号だった。そしてその画面には、とある「存在」の名前が表示されていた。
リアナを除く全員が「なんだなんだ?」と驚いている中、春風はすぐに零号を通話モードにして、
「はい、もしもし?」
と、話しかけた。すると、
「春風君。私を呼んでください」
通話口の向こうから、上品そうな男性の声が聞こえた。
春風はその声に従って、零号の画面を上にかざすと、画面が激しく光って魔法陣を展開し、そこから白いワイシャツと青いジーンズ姿をした、綺麗に1つに束ねた長い黒髪が特徴的な若くて上品な男性が現れた。因みに、足は裸足だった。
春風を除く全員がその男性に見惚れる中、フレデリックが意を決した様に口を開く。
「あ、あなたは?」
男性は「フフ」と穏やかな笑みを浮かべて答える。
「はじめまして、皆さん。私の名は、月読命。異世界『地球』の神の1柱にして、日の本の『月』を司る神。『ツクヨミ』と呼んでくださって構いませんよ」
「い、異世界の……神様!?」
自らを「神」と名乗った男性に驚くアリシア。否、アリシアだけじゃない。アデルや幼いイアン達も同様だった。フレデリックはというと、表情こそ冷静を装っているが、その額からたらりと冷や汗を垂らしていた。
月読命ーーツクヨミはその様子に「ふむ」とだけ言うと、春風の方を向いて、
「春風君」
と、優しく話しかけた。
「ツクヨミ様、俺……」
名前を呼ばれた春風が応えようとすると、
「大丈夫、みんなの許可は得ているよ」
と、ツクヨミは穏やかな笑みを崩さずにそう言った。
「……よろしいのですか?」
「うん、私も手伝うから」
春風はツクヨミとそうやり取りした後、リアナの方を向いて、
「リアナ」
「ふぇ!?」
いきなり呼ばれて間抜けな返事を返事をするリアナに、春風は一言、
「ごめん」
とだけ言うと、それで全て察したのか、すぐに真面目な表情になって、
「うん、良いよ。私も、話すから」
と言った。
さらに春風は零号に視線を移して、
「ジゼルさん」
と話しかけると、
「わかりました」
と、ジゼルは零号の中から返事をすると、そこから出てフレデリック達の前に姿を現した。
「わ! またなんか出た!?」
と、アリシアが再び驚くと、
「アリシアさん」
と、真剣な表情の春風が話しかけてきた。
「な、何かな?」
「俺がこれから話す事は、あなたにとって最も辛い事実なのですが、それでも聞きますか?」
ジッと見つめながら問う春風に、アリシアは「う……」となったが、覚悟を決めたのか真っ直ぐ春風を見て、
「……ああ、構わない。聞かせてくれ」
と答えた。
「わかりました」
春風はそう言うと、周りを見回して、
「皆さんに、全てをお話しします」
そして、文字通り「全て」を話すのだった。




