第83話 総本部長室にて
ハンターギルド総本部、総本部長室。
春風は現在、その部屋の主であるフレデリック総本部長と向き合っている。
2人の間にただならぬものを感じたのか、春風の後ろにいるリアナ、アリシア、アデル、ケイト、クレイグ、ルーシーは表情を強ばらせていた。因みに、アリシアの妹のフィオナと、幼いイアン、ニコラ、マークは、部屋に備え付けられているソファに座っている。彼女達も何処か不安そうな表情をしていた。
そんな重苦しい雰囲気の中、最初に口を開いたのは、フレデリックだった。
「さて、ハルさん。色々と言いたい事や聞きたい事がありますが、まずは1つ言わせてください」
「……」
表情にこそ出さないが、とても緊張している様子の春風に、フレデリックは言う。
「よく無事で帰ってきてくれましたね」
穏やかな笑顔でそう言ったフレデリックに、リアナ達はホッと胸を撫で下ろしたが、春風だけは気を緩めずに、
「……いえ、正直なところ、自分でもよく無事だったなって思っています。理不尽な理由で殺されそうになってカッとなったってのもありましたし、あの戦い自体、状況がコチラに有利に動いたというか、運が良かったと言いますか、とにかく、もうあんな体験は二度とゴメンです。周りにも沢山心配かけてしまいましたから」
と、真っ直ぐフレデリックを見て、正直に自分の気持ちを打ち明けた。
それを聞いたフレデリックは若干驚いた表情で、
「ほう、随分と謙遜しますね?」
そう尋ねるフレデリックに、春風は態度を崩さずに答える。
「事実ですから、仕方ありません」
「そうは言いますが、ラッセルさんの報告によれば、あなたは断罪官と戦って生き延びただけじゃなく、その大隊長であり、「鉄鬼」と呼ばれて恐れられているウォーレン・アークライトを倒したではありませんか」
「トドメは刺していませんので、『倒した』というのには誤りがあります。ていうか、あの人そんな異名があったんですか?」
「ええ、歴代の大隊長の中でも最強クラスの実力者です。その彼を倒し、神聖剣最強の奥義を真っ向から打ち破り、大隊長の証である『聖剣スパークル』を真っ二つにしたのにですか?」
「あの時はああするしかこちらに生き残る道はありませんでした。今だから言いますが、もの凄く怖かったんですよ。一歩間違えたらこちらが死んでました。それに……」
「それに?」
「あの時、死の恐怖と不安に苛まれていた俺のことを、助けてくれた人がいたんです。俺が生き残ったのは、その人のおかげなんです」
その言葉を聞いて、フレデリックは本気で驚いた。
「なんと! それは、一体誰なのですか!?」
「はい、それは……」
そう言いかけてハッとなった春風は、背後のアリシア達の方を振り向いて、
「あー、もしかしたら俺の勘違いかもしれませんので、違ってたらごめんなさい」
と、申し訳なさそうに謝罪すると、またフレデリックに向き直り、
「それは、今回断罪官達が探していた『異端者』です」
その言葉に、リアナは「ええっ!?」と驚き、アリシア達も大きく目を見開いた。
「ふむ。ハルさんは、その『異端者』が誰なのかわかっているのですか?」
フレデリックが真剣な表情で尋ねると、
「ええ、わかっています」
と、春風も真剣な表情で答えた。
そして、再びアリシア達の方を向くと、
「えっと、今から少し偉そうに言います。気を悪くしたり、違ってたら本当にごめんなさい」
と、先ほど以上に申し訳なさそうに謝罪して、
「あの時、俺を助けてくれた『異端者』、それは……」
春風は、その『異端者』の前に移動した。
移動した先にいたのは、
「君だったんだね、ルーシーさん」
そう、ルーシーだった。




