第78話 終局
「な、なに……が、起きた?」
いきなり春風にぶっ飛ばされたウォーレン。周りがポカンとしている中、春風はウォーレンに近づいて、左手を傷口にかざした。
「求めるは“水”、癒しの雫、『キュアドロップ』」
春風がそう唱えると、左手が青く光って、そこから水が一雫、傷口にポタリと落ちた。
すると、出血していた傷口が、次第に塞がっていった。
(こ、これは、水の魔術! この少年、水属性の魔術も使えるのか!?)
「うん、これでよし。あ、でもちょっと跡が残ったな。彼岸花で斬られた所為かな。ま、いっか」
春風は驚くウォーレンの前でそう呟くと、
「さて、ウォーレンさんだったな?」
いきなりそう尋ねられたウォーレンは、ハッとするだけで何も答えられなかった。
「あんたさぁ、今日まで何人の『異端者』を殺してきた?」
「な……何?」
4秒の沈黙後、
「フン、答えられないか。ま、あんたら断罪官にとって、殺した人達の命の重さなんて、大したものじゃないんだろうなぁ。今みたいに答えられないのが、なによりの証拠じゃねぇか」
「……」
「で、その異端者達を何人も殺しておいて、何をあっさり死のうとしているのさ。あ、さては、自分が死ぬことで、『人を殺したという事実が無かったことになる』って思ってんのかな?」
春風は笑ってそう尋ねると、次の瞬間、ウォーレンの髪を鷲掴みにして無理矢理起こすと、顔を近づけて、
「お前ふざけんなよ。殺された大勢の人の命と、お前1人の命が釣り合うと思ってんの? もし本気でそう思ってんなら、とんだ自惚れ野郎の馬鹿野郎だわ」
「な!?」
「もしお前らがやってきたことが後の世で悪い事に変わって、その償いがお前1人の死でどうこう出来ると思ったら思いっきり大間違いだよ? そこにいる隊員達も一緒に死んでも全然足りないよ? わかってる? お前らがしてきたことってのは、それくらい重いことだってのが……」
春風はウォーレンを鷲掴みにしていた手を離すと、その手をグッと握って、
「わかんねぇのかぁ!?」
と、渾身の右ストレートをかまして、ウォーレンを殴り飛ばした。
「グハ!」
殴られたウォーレンが地面に倒れたのを確認すると、春風は隊員達の方を向いて、叫んだ。
「断罪官の隊員共ぉ!」
『!?』
「お前らの心に、魂に問いかける! 今! 俺の目の前で倒れているこのオッサンは! このぉ! 十代の若造にやられた情けないオッサンはぁ! お前らにとって、何なんだぁ!?」
その叫びを聞いて、ルークは、断罪官の隊員達は、全員、力強く立ち上がり、叫んだ。
『俺達のぉ、大隊長だぁあああああ!』
ルークと隊員達はそう叫んだ後、一斉にウォーレンのもとに駆け寄った。そして、
「総員、大隊長を守るぞ! 動ける者は前へ!」
『ハッ!』
ルークの命令に従い、隊員はすぐに陣形を組んだ。
「おお! いいねいいね!」
それを見て、春風は「凄い」と感心した。
その後、陣形が組み終わると、ルーク春風をキッと睨みつけて叫んだ。
「ハルといったな! 覚えたからな、貴様の名と顔は! この屈辱、絶対に忘れないぞ! 我ら断罪官の誇りにかけて、貴様は必ず殺してやる!」
ルークのその叫びに、春風は不敵な笑みを浮かべて、
「へっ! いいぜぇ、いつでもかかってきな! 何百回だって返り討ちにしてやるよ! だがな、だからって他の連中に手ェ出したら、テメーら全員生きたまま地獄に突き落としてやっからな!」
と、挑発じみたセリフを言った。
その後、ルークは懐から小さな宝石の様なものを取り出すと、
「転移珠、展開! 教会本部へ!」
と叫んだ。
すると、宝石の様なものから光が発せられ、ウォーレン、ルーク、隊員達を包んだ。
「覚えていろ」
ルークがそう言ったのを最後に、光に包まれた断罪官達は、その場からスッと消えた。後に残っていたのは、折れた聖剣スパークルの切先だけだった。
「フゥ」
春風は、断罪官達が消えたのを見た後、アリシア達の方を向いて、
「結界解除」
と言って、アリシア達を守っていた結界を解除した。
「これで……よしと……」
そう言うと、春風はバタリとその場に倒れた。
「あ!」
『おねにーちゃん!』
驚いたアリシア達は、すぐに春風に駆け寄った。
「は、春風!」
そして、漸く立ち上がったリアナも、春風に駆け寄った。
「春風様! 春風様!」
零号内からジゼルが春風に向かって必死に話しかける。
「春風!」
「しっかりして!」
『おねにーちゃん!』
集まってきたリアナやアリシア達も、必死に春風に話しかける。
そんな彼女達に、春風は、
「だ、大丈夫……と言いたいけど、かなりやばい」
「そんな! どうして!?」
春風は「うーん」と唸った後、
「実は、朝ご飯、食べられなくって、ここに来るまでも、ほんの軽くしか食べれてなくて……」
『……え?』
グギュルルルゥウウウウウウウ!
「お腹、すいたよぉおおおおおおお」
と、先程まで激闘を繰り広げていた人物とは思えないくらいの、なんとも情けないセリフを吐いた。
それを聞いたリアナ達は、
『え、ええぇ?』
と、その場でへなへなとへたり込むのだった。
前回の最後のところですが、「右ストレート」から「アッパーカット」に変えて、それに合わせて文章を修正しました。真に申し訳ございません。
そして、次回でこの章は終わります。




