第7話 「神」との契約へ
「よっしゃ! そうと決まれば、早速『肉体改造』だっ!」
春風の「エルード」行きが決まったその時、ゼウスがそう高々に叫んだ。
次の瞬間、オーディンは何処かから取り出したハリセンで、
「飛ばし過ぎだ」
と、ゼウスの頭を思いっきりぶっ叩いた。
スパンッ!
「グッホォ!」
哀れゼウスは、ぶっ叩かれた衝撃で数メートル程吹っ飛ばされた後、大きなコブを作った状態で気を失った。
オーディンはハリセンをまた何処かにしまうと、
「ごめんね。今からちゃんと説明をするよ」
と、何事もなかったかの様に笑顔で言った。
春風はその笑顔に恐怖を感じたのか、無言で「ウンウン」と頷いた。それを確認すると、オーディンは笑顔で説明を始めた。
「まず、今回君が行く『エルード』という世界は『地球』とは異なる『法則』を持つ世界だから、そのままの状態で向こうに送ると、体がその『法則』に耐えきれずに重い病気とかにかかるか、その世界にとって悪い影響を及ぼしてしまい、最悪の場合、地球消滅前に世界が崩壊なんて事になるかもしれない。だからそうならない様に、君の体を向こうの世界に適応できる様にするというわけさ」
「それが、『肉体改造』というわけですね」
「その通り」と頷くオーディンを前に、春風は少し不安な表情になった。そんな春風に、アマテラスは優しく話しかけた。
「大丈夫。改造といっても痛い事をしようってわけじゃ無いから、心配しないで」
「『心配しないで』って、痛い事以外でどうやって俺を改造するつもりなのですか?」
「簡単よ。私達『神』と『契約』を結べば良いの」
「『契約』?」
「そう。本来、異世界召喚される人間は、召喚先の世界に送られる前に『神』と契約して体をその世界向けに作り変えなきゃいけないの。でないと、さっきオーディンが言った様に自身かその世界に悪影響を及ぼしてしまうからね」
「はぁ、そういうわけですか」
不安を拭いきれない春風だが、今はそんな場合じゃないと思い、強引に納得する事にした。
「それじゃあ、すぐに私と『契約』を……」
「「ちょっと待った!」」
アマテラスが春風と『契約』しようとしたその時、オーディンと気絶から復活したゼウスが止めに入ってきた。
「……何かしら?」
「お前さん、何普通に『契約』に入ろうとしているんだ?」
「だって、春風君日本人だよ? だったら日本の神である私が契約するのは当然でしょう?」
「事は地球の未来に関わっているんだよ? ならば僕達にもその権利があると思うんだけど?」
「な、なにをう!?」
何故か口論を始めた3柱の神々。
春風は恐る恐る、そんな彼らに質問した。
「あのぉ、全員でってのはダメなんですか?」
「ごめん、『契約』は1人につき1柱までなの」
「んな事すればお前の魂が壊れちまうんだよ」
「そうそう、そうなってしまったら僕達『神』でも修復は不可能なんだ」
(マジっすか)
アッサリと即答されてしまい、春風はショックを受けた。そんな春風を放って、アマテラス達は再び口論を始めた。
その時、
『ちょっと待ったーっ!』
と、何処からか多くの「待った」をかける叫び声がしたので、春風アンド3柱の神々は辺りをキョロキョロと見回した。
すると目の前に、色と着こなし方は違えどアマテラス達と同じワイシャツとジーンズ姿の老若男女、さらには顔が犬だったり鳥だったりと人ならざるもの達が多勢現れたのだ。因みに、全員裸足だった。
春風はすぐに、彼らがアマテラス達と同じ「地球」の神々だとわかった。
彼らがここに来た理由は、きっと口論を始めたアマテラス達を止めに来たんだろうと春風は思った。
だが、
『契約するのは俺(僕)達だーっ!』
『いいえ! 契約するのは私達よーっ!』
まさかの参戦だった。止めてくれるのを期待していた春風は、思わずずっこけた。
他の地球の神々も加わって、益々ヒートアップしていく口論を見て春風は、
(ああ、もしも俺が漫画のヒロインだったら、ここで『やめて! 私の為に争わないで!』って叫ぶんだけどなぁ)
なんて事をのんきに考えていたが、長くなっていくうちにだんだん苛立ってきてしまい、とうとうブチ切れて怒りのままに叫んだ。
「ああ、もう! だったら……」
そして、その後口から出てきたのは、あまりにもふざけた「提案」だった。
その「提案」を聞いた神々は、ポカンとした表情で春風を見た。
ハッとなった春風は、
(やばい、俺、神様達になんてバカな事を……。絶対に怒られる!)
と、後悔の念にかられたが、神々の返事は……、
『いいね! それでいこう!』
まさかの採用だった。それを聞いて、春風はまたずっこけた。
その後、神々はすぐに、その「提案」を実行した。
その結果、選ばれたのは……オーディンだった。
「よっしゃあああああああ!」
『ちっくしょおおおおおおお!』
オーディンは喜びのあまりガッツポーズをとったが、他の神々は悲鳴を上げながら膝から崩れ落ちた。
その様子を見て春風は、
(マジでごめんなさい)
と、心の中で謝罪した。
他の神々が悔しそうな表情をする中、選ばれたのは喜びが抜けきれていないオーディンは、
「というわけで、春風君。早速『契約』といこうじゃないか。なぁに、心配はいらないよ、アマテラスが言ってたように、本当に痛い事なんて無いからね」
と、笑顔で春風の両肩をポンポンと叩きながら言った。
春風は色々と言いたい事があったが、
「わかりました」
と、今は「地球」の事を優先しようと思い、黙って従う事にした。
「それじゃあ、ゆっくり目を閉じて、気を楽にして」
と、オーディンにそう言われて、春風は深呼吸しながら、ゆっくりと両目を閉じた。