第70話 断罪官、現る
(オイオイ、何でコイツらがここにいるんだよぉ!?)
突然現れた黒い鎧を纏った集団ーー断罪官に、春風達は驚きを隠せないでいた。幼いイアン、ニコラ、マークは、怯えてアデル達の背後に隠れた。
そんな状態の春風達を前に、リーダーらしき40代くらいの男性が、アリシアをチラリと見て口を開いた。
「久しぶりだな。アリシア」
「ウォーレン大隊長。何故、あなたがここに?」
アリシアにそう問われると、ウォーレンと呼ばれた男性は、今度は春風をチラリと見て答えた。
「その少年から尋常でない狂気に満ちたオーラを感じてな。悪いが後をつけさせて貰った」
(え、俺の所為かよ! ていうか、俺そんなオーラ出してたの!?)
ウォーレンの言葉にショックを受けた春風。そんな春風を無視して、ウォーレンは話を続ける。
「まぁそれは置いといて。アリシアよ、貴様が殺した小隊の隊長と隊員達だが……」
「?」
「全員、生きているぞ」
「え!? それは本当ですか!?」
「ああ、貴様は感情に任せて奴らを手にかけたと思っていたようだが、実際は死の一歩前の状態だったのだ。今は全員治療を受けている」
(それはそれで大丈夫なのか?)
「そ、そうですか」
ウォーレンから告げられた事実に春風は「?」を浮かべたが、アリシアはホッと安心した表情になった。
しかし、
「だがそれでも、貴様は我々と神々を裏切った反逆者である事に変わりはない。安心したままそこにいる異端者どもと共に、この世から消えて貰う」
そう言うと、ウォーレンは腰に下げた長剣を鞘から引き抜き、切先を春風達に向けた。
『っ!』
「そして、もう1人」
ウォーレンは再び春風をチラリと見て目を細めた。
「確か、ハルといったな?」
「……ええ、そうですが」
「貴様は我々に対して、3つの『罪』を犯した」
「ハァ? 『罪』?」
いきなりわけのわからない事を言われて、春風は再び「?」を浮かべた。それを察したかの様に、ウォーレンは春風の「罪」を語った。
「1つは当然、そこの異端者どもと関わった罪。2つ目は、神の名の下に正義を執行する我らを、盗人と同列に扱った事。そして3つ目は……」
『……(ゴクリ)』
ーークワッ!
「我が隊員達の、純情を弄んだ罪だ!」
4秒の沈黙。
「………え?」
「聞いたぞ。貴様は昨日、男である事隠して隊員達の惑わし、その心を傷つけたそうじゃないか」
その言葉を聞いて、アリシア達は一斉に春風に視線を向けた。そう、
ーーお前、そんな事をしたのか?
という念を込めた視線を、だ。
「はぁ!? ふざけんなよ! アンタんとこの隊員が勝手に勘違いしてきたんじゃないか(まぁ、最後はちょっと悪ノリしちゃったけど)!」
それまで呆けていた春風は、ハッとなってウォーレンにそう言い返した。だが、
「そして私も、貴様が男だと知って……」
「な、何だよ」
「激しくショックを受けた」
「アンタらって、アホなの!?」
「黙れ! 全ては男でありながら、そんな可憐な少女の様な顔を持つ貴様が悪い!」
(ええ?)
あまりにも理不尽すぎる事を言うウォーレン。そんなウォーレンの背後で、隊員達が「そうだそうだ!」「貴様が悪い!」と叫んでいた。そしてよく見たら、そこには昨日春風をナンパしてきた隊員の姿もあった。
「というわけで、貴様もそこの異端者どもとここで死んでもらう。恨むのなら、そんな可憐な少女の様な顔を持った貴様自身を恨むんだな!」
(え、えぇ? マジでぇ?)
ウォーレンからそう宣言された春風は呆然となったが、
「……あったまきた!」
と、すぐに怒りが込み上げてきた。
春風は腰のポーチに手を突っ込むと、
「アリシアさん達! ちょっと集まって!」
と言って、背後にいるアリシア達を集めた。
それを確認すると、春風はポーチから「何か」を取り出し、それをアリシア達の頭上に投げた。
すると、「何か」を中心にそこから光のベールの様なものが広がってアリシア達を包み込んだ。
「き、貴様! 何をした!?」
驚いたウォーレンは怒って春風を問い詰めた。春風は落ち着いた口調でそれに答える。
「ちょいと結界を張らせて貰った。コイツは特別性でな、俺に解除させるか、それとも俺を殺すか、どっちかでしか消す事は出来ない。もっとも、俺は解除する気はないがな。つまり、コイツらを殺したかったら……」
春風は腰の彼岸花を抜き、切先をウォーレン達に向けて言い放つ。
「この俺を、先にぶっ殺すんだな!」




