第6話 そして、少年は立ち上がった
(こんなの……こんなの嘘だろ?)
神々から告げられた最悪の事態に、最早ショックを隠す事が出来ずに項垂れる春風。
そんな春風を見て、アマテラス達神々は「やはりこうなるか」とお互い顔を見合わせる。
全員が暫くの間沈黙していると、先に口を開いたのは、春風だった。
「アマテラス様」
「何?」
春風はスッと静かに立ち上がり、真っ直ぐな目でアマテラスを見て質問した。
「地球消滅を回避する方法は、本当に無いのですか?」
その質問に、アマテラスは一瞬躊躇う表情を見せたが、すぐに真面目な表情になって、
「上手くいくかどうかわからないけど、1つだけ方法があるわ」
と答えた。
「オイ、ちょっと待てそれは……」
ゼウスが慌てて割り込もうとしたが
「よせ、春風君には知る権利がある」
と、オーディンはそんなゼウスを静かに止めた。
「それは、一体どの様な方法なのですか?」
春風の質問に、アマテラスはゆっくりと口を開く。
「私達『地球の神』と『エルードの神』は、いわゆる『先輩』と『後輩』ってやつでね、だからあの子達がどういう神なのか知っているの」
「そうなのですか?」
「ええ。神としてはまだ幼くて未熟な方だけど、とても仕事に対して真面目で一生懸命な子達よ。だから私達個人としては、あの子達がルールを無視してこんな事をしでかしたなんてとても思えないの」
「……」
「そしてここからが重要よ。今回召喚に使われた術式と魔力と神の力が、明らかに別のモノだという事がわかったの」
「『別のモノ』って、そういうのわかるのですか?」
「ええ、かなり前だけど、あの子達の世界の術式体系を見た事があるから、すぐにわかったわ」
「それって一体、どういう事なんでしょうか?」
「それはわからない。ただ、あの子達の世界で『何か』が起こった事だけは間違いないの。その『何か』を突き止める事が出来れば、それが地球消滅を回避する為の『糸口』になるかも知れないわ」
「そ、それは、本当なのですか!?」
アマテラスの話を聞いて、先程まで沈んでいた春風の表情が一瞬で明るくなった。
だが、それとは対照的に、アマテラスの表情は、何処か申し訳なさそうな感じだった。
アマテラスは再びすぐに真剣な表情になって口を開いた。
「ええ、本当よ。ただ……」
「ただ?」
「その為に春風君。貴方に『エルード』に行って貰わなくてはならないの」
「え? それは、どういう意味ですか?」
「現在、私達は向こうの神と連絡が取れない状態なの。今話した方法を成功させる為にも、あの子達の現状を知らなきゃいけない。でも私達神の仕事は、あくまで担当する世界の管理のみで、それ以外で世界に深く関わるのは禁止されているの」
「……それで、俺ですか?」
「そう。今、私達以外でこの方法を実行できるのは、本来なら教師とクラスメイト達と共にその世界に召喚される筈だった春風君、貴方しかいないの」
アマテラスの言葉を聞いてショックを受けたのか、春風はゆっくりと下を向いた。
そんな春風に、アマテラスは優しく話しかけた。
「勿論、これは強制とか命令とかではないわ。ちゃんと貴方の意思を尊重して……」
「いえ、行きます」
「そうだよね。こんな訳わからない話なんて信じたくないし、事実だとしても行きたくないって思うのは当然……って、行くんかい!」
その時、真っ白な空間に、日本の主神のノリ突っ込みが響き渡った。
「当然、行きますよ。その『エルード』って世界に」
それまで俯いてた春風は、真っ直ぐアマテラスの目を見てはっきりと「行く」と言った。
まさかの返答に呆けていたアマテラスは、三度真剣な表情で春風に質問した。
「……春風君、わかっているの? これはゲームなんかじゃない、『地球』と『エルード』、2つの世界の未来がかかっているのよ?」
「はい、わかっています」
「失敗すれば死ぬだけじゃない、いや、もしかしたらそれ以上の悲劇に遭うかもしれないのよ?」
アマテラスの言葉に、春風は一瞬、とある「苦い記憶」を思い出してしまい、思わず右腕を抑えた。そこは、丁度包帯が巻かれてある部分だった。
記憶を思い出して辛そうな表情になる春風だが、それでも彼は真っ直ぐアマテラスを見て言い放った。
「確かに、失敗するのは怖いですよ。アマテラス様達は既にご存知でしょうけど、俺は2年前に、とても大きな失敗……というより、『罪』と呼べばいいんでしょうか。まあとにかく、俺はそんな取り返しのつかない『罪』を犯してしまい、今でもそれを引きずっていて、向こうへ行ってもまた同じ様な事を繰り返したらどうしようって思ったりもしてますよ」
「春風君……」
「だけど、『地球』には2度と失いたくない『大切な家族』と『大切な人達』がいて、絶対に叶えると決めた『夢』があるんです! だからお願いします! 俺を、『エルード』って世界に行かせてください!」
そう言って、春風はアマテラス達を前に再び土下座した。それは、謝罪する為の土下座ではない、強い意志と覚悟を込めた土下座だった。
その姿にたじろぐアマテラスだが、体勢を立て直して春風に近づくと、
「わかったわ春風君。神の名の下に、貴方の『エルード』行きを認めるわ」
と、優しい口調で言った。
春風はそれを聞いて、
「ありがとうございます」
と、お礼の言葉を言うが、アマテラスはまだ真剣な表情で続けた。
「だけど、1つ約束をして」
「?」
「ちゃんと生きて帰ってくる事。いい?」
そう言ったアマテラスの表情を見た春風は、
「はい!」
と、力強く頷きながら言うのだった。
今作は主人公君が異世界に行く明確な理由をしっかりと書き込みました。読んでみてもしまだわからないと思いましたら、ぜひその辺りのご感想をよろしくお願いします。