第61話 思わぬ「お誘い」
(どうしてこうなった?)
と、心の中でそう呟いた春風は、現在、ギルド総本部職員の女性メイベルと一緒に、総本部近くの喫茶店にいる。
何故そんな所にいるのか?
勿論、数時間前にメイベル本人に誘われたからである。
本来の予定はハンターとしての仕事をする筈だったのだが、断罪官が来ていたことや、ジゼルの生前の話を聞いたり、肝心のハンターの仕事も特にこれといったものが無かったというのもあって、心の中が僅かにモヤモヤしていた所に、まさかのメイベルからの「お誘い」があったものだから、幾らオーケイしたとはいえ、まだ精神的に若干混乱していた。
(落ち着け、落ち着くんだ春風。折角の女性からの『お誘い』なんだ。ここは気分を変えて楽しむのが『男』ってもんじゃないか。あとリアナとジゼルさん、ごめんなさい!)
春風は心の中でリアナとジゼルに謝罪しつつ、今はメイベルとの食事を楽しむ事にした。
因みに、現在ガントレットは外していて、中のジゼルさん入り零号はズボンのポケットの中だ。
喫茶店の店員に、春風とメイベルは同じサンドイッチのセットを注文した。ここのオススメメニューらしい。
「ところで、ハル君……」
春風がサンドイッチを美味しそうに頬張っていると、目の前に座るメイベルが口を開いた。
「? 何ですか?」
「貴方、リアナとどういう関係なの?」
「!?」
突然の質問に春風は、口の中のサンドイッチを変な風に飲み込んでしまい、ゴホゴホと咳き込んだ。その後、テーブルに出されたコップに入った水をゴクっと飲み干した。
「ふぅ。いきなり何ですか?」
空になったコップをテーブルに置くと、春風はメイベルをちょっとだけ睨みながらそう質問した。
「あぁ、ごめんね! 別に変な意図は無いから!」
と、慌てて言うメイベルに対し、春風は警戒心を解かなかった。そんな春風を前に、メイベルは「ふぅ」と息を吐くと、真面目な表情になった。
「あのね、本当に変な意図は無いの。ただ、リアナが貴方に凄く心を開いているみたいだったから、ずっと気になってたの」
真っ直ぐ春風を見て話すメイベルに、春風は少しだけ警戒を緩めると、
「……どういう事ですか?」
と質問した。
それに安心したのか、メイベルは話を続ける。
「リアナ、性格は明るいんだけど、他の人に対して一定の距離を置いているっていうか、あまり関わらない様にしてるっていうのかな。だからあの子、ハンターの仕事はいつも1人でこなしていたんだ」
「え、マジですか!?」
「うん、マジ」
これには春風も驚いた。まさかリアナが、1人でハンター生活を送っていたという事実を知ってしまったのだから。
さらにメイベルは話を続けた。
「まぁ1人っていっても、他のハンターと協力しなきゃいけない仕事は、特に問題を起こさずきちんとこなしていたけどね」
「そ、そうですか」
それを聞いて、春風は安心した。
「ええ。ただそれでも、やっぱり仕事が終わればリアナはまた1人で仕事をする様になったわ」
「……」
暫くの間、2人の場が沈黙に包まれた。
そんな中、再びメイベルが口を開く。
「ねぇ、ハル君」
「……何でしょうか」
「さっきの、リアナとの関係についての質問、もし嫌だったり、都合が悪ければ答えなくてもいいの。ただ……」
「ただ?」
そう尋ねると、メイベルは春風の手を握って、
「どうかこれからも、リアナの側で、リアナの事を支えてほしいの。それが出来るのは、多分ハル君だけだと思うから。だから、お願い」
と、真剣な眼差しで春風にそうお願いした。
「俺は……」
言葉に詰まった春風が答えようとした、その時、
ーーガタン。
ーーカラン。
と、喫茶店の扉が開かれて、中に漆黒の鎧を纏った2人組みの男性が入ってきた。




