第546話 そして、少年は叫んだ・3
(えー、皆さんこんばんは、幸村春風です。今、大勢の人達の前に立っています)
と、心の中でそう呟いた春風は今、まさに大勢の人達の前に立っていた。
何故そんなことになっているのか?
その理由は、ギルバート曰く、
「いや、だってお前これから決戦に向かうんだし、それなら行く前に気合いを入れさせてやろうと思ってな」
「その為に、あの人達の前で叫んでこいと?」
「そうそう。ほら、お前の『叫び』って、人の心を動かす魅力みたいなものがあるし」
とのことだった。
その後、春風は「えぇ?」と呆れながらも、仲間達だけでなく多くの騎士や兵士、ハンター達の前に立ち、
「あの、ホントにやんなきゃ駄目ですか?」
と、自身の斜め後ろに立つギルバートに向かって、ダラダラと汗を流しながらそう尋ねると、
「「駄目だ」」
と、ギルバートだけでなく、隣に立っているウィルフレッドも親指を立てながらはっきりと答えたので、春風は小さく「ハァ」と溜め息を吐きながら、大勢の人達の方へと向き直った。
そして、深呼吸して気持ちを落ち着かせると、ゆっくりと口を開く。
「あー、皆さん、こんばんは。この度、正真正銘の『賢者』になりました、幸村春風と申します。もう知っていると思いますが、俺はこれから仲間達と一緒に、この世界ともう1つの世界の『未来』をかけた決戦に挑みます」
その言葉を聞いた瞬間、春風の仲間達を含む多くの人達が、ゴクリと唾を飲んだ。
そんな彼らを前に、春風は話を続ける。
「この世界に来た最初の頃、俺はこの世界に対して『怒り』しかありませんでした。だけど、この世界で過ごしていくうちに、『仲間』と呼べる人達が出来て、『大切』だと思える人達も出来て、気が付いたら『この世界も守りたい』と思えるようになっちゃいました」
『……』
「とまぁ、前置きはこのくらいにして、まずは……」
と、春風はそう言うと、周囲見回して、スゥッと息を吸い込み、叫んだ。
「この場にいる、皆さんんんんんんんっ!」
『!』
「人生! 1度でもいいからぁ! 麗しき美男美女達からぁ!」
ーーゴクリ。
「『カッコイイですね』、『素敵ですね』って言われたいですかぁあああああああ!?」
その場に響き渡る、春風の魂の叫び。
その叫びを聞いて、皆、「フ……」と笑い、叫んだ!
『言われてぇに、決まってんだろぉおおおおおおおっ!』
その後、春風は「ありがとうございます」と言うと、再び叫んだ。
「しかぁし! あろうことか、それを邪魔しようとする者達がいます! そんなのぉ、許せますかぁ!?」
その叫びを聞いて、皆、再び「フ……」と笑い、叫んだ!
『許さねぇ! 絶対、許さねぇえええええええっ!』
その後、春風は再び「ありがとうございます」と言うと、また叫んだ。
「そうとも! 絶対許せません! その許せない者達がいるのが! そう、あそこです!」
そう叫ぶと、春風はビシッと次元艇セイクリアを指差した。
そして、
「さぁ、皆さん。皆さんなら、どうしますか?」
と、春風は穏やかな口調でそう尋ねると、皆、「フ……」と笑い、また叫んだ!
『勿論、死刑だぁあああああああっ!』
その叫びを聞いた後、春風はクルッとギルバート達方へと振り向いて、
「こんな感じで、いいですか?」
と、申し訳なさそうに尋ねると、
「バッチリだ!」
「うむ、充分だ」
と、ギルバートもウィルフレッドも、グッと親指を立てた。
春風はそれを見て、
「ハハ、ありがとうございます」
と、ニコッと笑った。
次回、最終回です。




