第540話 大報告会2
「さ、さぁて次は誰が報告するのかなぁ!?」
幽霊となったリアナの生みの親達への謝罪が終わった後、「なんとか場の空気を変えねば!」と大慌てでギルバートがそう口を開くと、
「あ、じゃあ、次は僕がいきます!」
と、水音がギルバートと同じように大慌てで「はい」と手を上げた。
そして、周囲の人達の注目を浴びて、
「えっと、まず僕が向かったのは……」
水音は、自身の「パワーアップ」へと至った経緯についての報告を始めた。
当然、その報告には水音のもう1人の女、アビゲイルについての紹介も含まれている。
「……というわけで、こちらがそこで出会った新しい仲間です」
「は、はじめまして、ループス様の分身1号の、イチといいます」
そう言って、イチはみんなの前でペコリと頭を下げた。
そんなイチを見て、
『あ、これはどうも』
と春風達が挨拶をしていると、
「それと、もう1人が……」
と言って、水音はゆっくりと両目を閉じた。
次の瞬間、水音の髪が真っ白に染まり、ゆっくりと両目を開けると、その瞳は漆黒の闇の如く真っ黒になっていた。
その姿を見て、周囲の人達は何かを感じたのか、まるで怯えるようにビクッとなってタラリと冷や汗を流すと、
「はじめまして皆さん、僕はフェイトと申します」
と、変化した水音……否、フェイトはそう挨拶をした。
その後、フェイトは春風達に自身のことについて説明すると、
「ほう、奴らに植え付けられた擬似人格ねぇ」
と、ギルバートは値踏みするようにフェイトを見ながら言った。
更に、
「ちょっと待て。それって、私達にも植え付けられているってことか?」
と、話を聞いた小夜子がそう尋ねると、
「はい。というよりも、奴らに職能を授かった人間全員と言った方がいいでしょうね」
と、フェイトは淡々とそう答えたので、「勇者」だけでなくウィルフレッドら王族やギルバートら皇族達も、
『え、マジで!?』
と、戦慄した。
その後、フェイトから水音へと戻ると、再び水音は報告を始めた。
それは、イチとの出来事から、「天使」となったルイーズの襲撃、そして、自身の「パワーアップ」へのきっかけとなった、「本当の過去」についてだった。
その「過去」を聞いて、
「……そっか。そんなことがあったんだ」
と、春風は表情を暗くし、
「それは、とても辛かったなぁ」
と、ウィルフレッドも悲しそうな表情をし、
「俺もその場にいたんだが、途中で気を失ってたみたいでな」
と、煌良は申し訳なさそうに「ハハハ」と笑った。
すると、
「ああ、でもよぉ! そのことでお前自身は全然怒ってないんだろ!?」
と、鉄雄が「ちょっと失礼!」といった感じでそう尋ねてきたので、
「うん、勿論怒ってないよ。寧ろ、あの時僕がもっとしっかりしてたらって、後悔しているんだ。だから、そのことで、陽菜を責める気なんかないよ」
と、水音はコクリと頷きながら答えた。その答えを聞いて、周りが「よかった」とホッと胸を撫で下ろすと、
「あー、その妹ちゃん(?)だけどよぉ」
と、ギルバートが歯切れの悪そうに口を開いたので、「何事か?」と見ると、
「なんか、スゲェことになってんだが」
と、ギルバートはとある方向を指差してそう言った。
そして、周りが「え?」とその方向を見ると、
「は、離してくださいぃ」
「駄目だ、絶対に離さん」
そこには、セレスティアの膝の上に座らされている、水音の妹、陽菜の姿があった。よく見ると、陽菜はがっしりとセレスティアに抱きつかれている状態で、それが怖いのかブルブルと体を震わせていた。
「お、お願いします、離してくださいぃ」
と、陽菜が涙目で背後のセレスティアにそう言うと、
「駄目だ。お前は水音を酷く苦しめたんだ。これは、その罰なんだ。大人しく受けるがいい」
と、セレスティアはそう言って、「グフフ」と邪悪な笑みを浮かべながら、陽菜の頭を優しく撫でた。それが、陽菜を激しく怯えさせているのだが、周囲はそんな彼女の様子を見て、
(うーん。これはこれで、ありかな!)
と、全員親指を立てた。
その後、水音はコホンと咳き込んで気持ちを切り替えると、いよいよ本命である自身の「新たな姿」を披露した。
背中に現れた2体のロボットの上半身。それぞれに先ほど紹介したイチとフェイトの意思が宿っていると説明すると、
『おお! す、凄い!』
と、春風とリアナをはじめ、皆、一斉に感心した。
「凄いや! 本当にかっこよくなってる!」
と、春風が目をキラキラと輝かせていると、
「ハハ。そう言ってもらえると凄く嬉しいよ」
と、水音は嬉しそうな笑みを浮かべた。
その後、水音は自身が休んでいた間に、もう1人の新たな仲間、エルバートが煌良と戦ったことについて話すと、
「とまぁ、僕からの『報告』はこんな感じです」
と言って、自身の報告を終えた。
その報告に周囲の人達が「お疲れさん」と言っている中、
(2人とも、本当に強くなったんだなぁ)
と、春風が心の中でそう感心していたが、
(……あれ? ひょっとして、俺そんなに変わってないんじゃないか!?)
と、もの凄く不安になり始めるのだった。




