第5話 残酷すぎる理由
遅くなりました。
「ひ、『引っ張られる形で』って、どういう事ですか?」
春風はアマテラスの説明が、全く理解出来なかった。
「それについては僕が説明するよ」
幾つもの「?」を浮かべる春風に、オーディンが理由について説明を始めた。
「まず、この世には様々な世界が存在している宇宙が幾つもあって、それらの宇宙は全て『次元の壁』というものによって隔てられているんだ」
「次元の……壁」
「そう。そして僕達『神』の仕事は、その『次元の壁』によって隔てられた其々の宇宙の、其々の世界を管理しているんだ」
「な、なんか、スケールがデカすぎるっすね」
「まぁ、その辺りを説明すると長くなるからこれについては省くね。で、今アマテラスが説明した『ルールを守って異世界召喚をする』っていう事は、この『次元の壁』に『扉』を作って、召喚の対象になった者を術者のもとに送り出すというものなんだ」
「そうだったんですか!」
「ところが、今回『エルード』の住人が行った『ルールを無視した異世界召喚』は、その『次元の壁』に、無理やり『穴』を開けて、そこから無差別に他の世界の住人を攫うというものなんだ」
「それは酷いですね」
「そう、酷いものなんだよ。そして、『穴』を開けられた『次元の壁』はどうなるのかというと、その『穴』を塞ぐ為の材料として、『穴』を開けた世界を取り込んでしまうのさ」
「それが、ルールを破った世界が受ける『罰』というわけなんですね?」
「その通り。ここまでは理解出来たね?」
春風はコクリと頷いた。それを見て、オーディンは説明を続けた。
「さて、今僕が説明した様に、『ルール』を無視して異世界召喚を行った事によって『エルード』という世界の消滅は決定されたんだけど、何故地球までもが消滅する事になったのか? それは、『エルード』という世界だけでは『次元の壁』が修復出来ないからなんだ」
「え!? な、何故なんですか!?」
「そいつは俺が説明するぜ」
驚く春風に、今度はゼウスが説明を始めた。
「実はな、召喚が行われた後、『エルード』側と連絡が取れなくてな、それでこっちで色々調べてみたんだが、どうもここ500年でその世界自体の生命力が少なくなっているんだ」
「え、世界にも生命力があるんですか?」
「ある。で、そんな状態にも関わらず今回の『ルール』を無視した異世界召喚が行われて、さらに本来は1度の召喚につき1人までなのに24人……おっと、春風も加われば25人か。まぁともかく、そんな多勢の人間が召喚されたわけだから、『穴』がでかくなり過ぎて修復するにはその世界だけじゃ足りなくなったんだ。なら、足りない分は何処から調達されると思う?」
「ど、何処からって……!?」
その時、物凄く嫌な予感がした春風は、恐る恐るゼウスに質問した。
「ひょっとして、穴の向こう側……ですか?」
その質問に、ゼウスは答える。
「そうだ」
その瞬間、春風は全てを理解した。
理解して、全身から血の気が引いていくのを感じた。
その様子を見て、アマテラスは口を開いた。
「そう。『次元の壁』は、地球も材料として取り込むつもりなの」
その言葉を聞いて、春風は立っていられなくなりそうになったが、どうにか踏ん張って再びゼウスに質問した。
「取り込むって、全部ですか?」
「ああ。山も森も海も、建物も、鳥や動物も、そして、人間もな」
「……取り込まれた人間は、どうなってしまうのですか?」
「どうも。ただ喜ぶ事も、怒る事も、泣く事も、腹を空かせる事も、そして……死ぬ事もなく、ただ壁の一部として存在し続ける。永遠に、な」
「……助ける事は、出来ませんか」
その質問をした時、春風の心の中は、
(出来ると言ってほしい。助けられると言って欲しい)
という思いでいっぱいだった。
だが、
「残念だが、取り込まれちまったら最後、もうどうする事も出来ねぇ」
「そ……そんな……」
その言葉を聞いて、春風は今度こそ膝から崩れ落ちるのだった。