第526話 もう1人の「天使」
「あーあ。くっだらないなぁ」
『!?』
突然その声に驚いて、春風達が一斉に声がした方へと振り向くと、1つの「人影」がニヤリと笑って、春風達に向けて一筋の「光」を放った。
槍のように鋭く、矢のように速く飛ぶその「光」に、リアナや水音は動けずにいたが、
(奴が狙ってるのは、モーゼスか!)
と、春風はその「光」がモーゼスに向かって飛んできてるのだとわかり、
「させっかよ!」
と、すぐにモーゼスと「光」の間に立つと、右足に自身の魔力を纏わせて、
「ハァッ!」
と、それで「光」を「人影」に向けて蹴り返した。
「ゲェッ!」
驚いた「人影」は、すぐさまその「光」をバンと地面に叩き落とした。
次の瞬間、ドォンという大きな音と共に、その場に土煙が立った。
すると、そこで漸くハッとなったのか、
「ハ、ハル!」
「春風!」
「大丈夫ですかハル様!?」
と、リアナ、水音、イブリーヌが春風に駆け寄ろうとしたが、それを拒むかのように春風は目の前の土煙に視線そ向けながら、無言でバッと左腕を伸ばして「待った」をかけた。
「は、春風?」
と、水音は恐る恐る春風に話しかけたが、
「……」
春風は無言のまま、目の前の土煙見つめていた。
やがて、土煙が薄くなると、
「びっくりしたぁ、やってくれたなぁ。君、本当に『賢者』なのかい?」
と、そこに立っている「人影」がそう尋ねてきた。
春風はその声を聞いて、
(声からして今の『光』を放った奴だな)
と、理解すると、
「何のつもりだ、裏部君?」
と、その「人影」に向かってそう尋ねた。
その言葉に、春風を除いた面々が『え?』と皆、一斉に首を傾げる中、漸く土煙が消えて、「人影」の正体があらわになった。
「やぁ。改めて、久しぶりだね、幸村君に桜庭君」
それは、ここ王都に着いた時、偽物の神々の操り人形と化して、春風達の前に「敵」として現れた、「勇者」ことクラスメイトの1人、裏部と呼ばれた少年だった。
まさかのクラスメイトの登場に、
「え、裏部君?」
「裏部……だって?」
と、水音と翔輝は目を白黒させた。
整った顔立ちをした、一見大人しそうな雰囲気を持つその少年に向かって、
「う、裏部君、何で君がここに!?」
と、戸惑っている様子の水音がそう尋ねると、
「いやだなぁ桜庭君、君達の加勢をしにきたに決まってるじゃないか。その男は君達の『敵』なんだろう?」
と、裏部はモーゼスを指差して、ニヤリとしながらそう答えた。
そして、裏部がゆっくりと春風達に近づいてきた、まさにその時、
「春風!」
「フーちゃん!」
と、上空から凛依冴と歩夢が、春風達と裏部の間に飛び込んできて、ドォンという音と共に着地した。
「うぉ! 師匠にユメちゃん……て、え?」
と、突然のことに驚いた春風が2人をよく見ると、その体のあちこちがダメージを受けたかのようにボロボロになっていた。
「ちょ、師匠にユメちゃん、その体どうしたんですか!?」
と、春風がそう尋ねると、凛依冴と歩夢はキッと裏部を睨みつけた。
そして、歩夢はゆっくり春風に近づくと、
「フーちゃん、気をつけて。裏部君、操られてなんかなかった」
と、裏部を睨みながらそう言った。
そして、歩夢に続くように、
「ええ、そうよ。こいつはもう、『敵』よ!」
と、凛依冴も裏部を睨みながらそう言った。
2人の言葉を聞いて、
『……え?』
と、春風達が一斉に頭上に「?」を浮かべると、
「……フ、ククククク……アーッハッハッハァ!」
と、裏部は狂ったように大きな声で笑い出した。
そのあまりの様子に、春風達が更に「?」を浮かべると、裏部は急に笑うのをやめて真面目な表情になると、
「そうだよ、僕は操られてなんかない。そして……」
と、そう言った次の瞬間、裏部の背中が白く光り出して……そこから、モーゼスと同じ、一対の白い翼が現れた。
それを見て、
「え、その翼……まさか!?」
と、翔輝が呆然としていると、裏部はニヤリと醜く口元を歪ませて答える。
「そうさ、僕はもう『人間』じゃない。『神々』の手によって、『天使』になったんだ」




