第524話 「モーゼス・ビショップ」という男・2
今回は、いつもより短めの話になります。
モーゼス・ビショップは、とても「信仰心」の熱い男だった。
彼は15歳の時に「神官」の上位職能である「司祭」の職能を授かると、そのまますぐに五神教会に入り、以降は神々への信仰心を少しずつ大きくさせながら、教会の信者としての仕事を着々とこなしていった。
そして、数年後。
数多くの信者の中でも特に優秀である持っていることを認められたモーゼスは、いち信者から幹部へと昇進。そこから更に頑張った結果、見事、新たな教主となった。
といっても、その地位につくまでの彼の道のりは、苦難の連続だった。
「司祭」の職能保持者であるモーゼスは、信者としても優秀だった為に、それを妬む者達によって影で酷い嫌がらせを受けていた。
特に酷い時には、
「神官でありながら、複数の女性と関係を持ってる」
「五神教会に一員であることを利用して、その権力を悪用している」
といった、根も葉もない噂を流されていた。
しかし、それでも諦めずにここまで頑張ってこれたのは、先にも述べたようにモーゼスには優れた能力の他にも、誰よりも熱い神々への「信仰心」を持っていたからだった。
ただ、「女性関係」については、実はモーゼスには「どうしても譲れない好みのタイプ」があるのだが、そのことについては今は触れないでおこう。
まぁとにかく、そんな熱い「信仰心」を持つモーゼスだからこそ、セイクリア王国現国王ウィルフレッドはどうしても許せない存在だった。
何故なら、ウィルフレッドは五神教会の本拠地であるセイクリア王国の王でありながら、神々に対する信仰心は無いに等しく、寧ろ、
「神々も五神教会も、嫌いだ」
と、影でウォーリス帝国のギルバート皇帝にそう愚痴っていたので、それを知ったモーゼスは、
(お、おのれウィルフレッド陛下……否、ウィルフレッド! 我々五神教会に……神々になんて無礼な!)
と、ウィルフレッドに対して激しい怒りを抱くようになり、やがて、
(あんな男が『国王』など、絶対に許さん!)
と、教主として……否、聖職者としてありえないくらいの、激しい憎しみも抱くようになったのだ。
それ以来モーゼスは、表では五神教会教主としての役割をこなしつつ、裏ではウィルフレッドを国王の座から追い落とす為の暗躍をし始めた。騎士の半数を五神教会の信者、もしくはその関係者に変えたり、少しでも神(というより自分達)を疑う者が現れたら、誰にも悟られないようにその者を闇へと葬ったりもした。
ただ、そんなことをしている内に、
「ウィルフレッド陛下を追い出して自分が国王になりかわろうとしている」
という噂がちらほらと出てしまったが、それでも、モーゼスは止まることはなかった。
(フフフ、貴様が悪いのだよウィルフレッド。あなたが我々と、我々が信じる神々を軽んじ、蔑ろにするようなことを考えるから……)
そう。全ては、多少歪んではしまったが、五神教会教主としての誇りと、自身が信じる神々への信仰心故だったのだ。
だが、それから時は流れ、現在。
「お前さんさぁ……もう『神』への信仰心、無いだろ?」
『……え?』
ループスがモーゼスにしたその質問に、春風達が首を傾げると、
「……やはり、わかってしまいましたか」
と、モーゼスは観念したかのようにそう答えた。
ループスはその答えを聞いて、
「フン、『神様』舐めんなよ」
と、鼻を鳴らしながら言うと、モーゼスはループスだけでなくヘリアテスにも視線向けながら口を開いた。
「あなたの仰る通り、私にはもう、『神々』への信仰心はありません」




