第516話 「前原翔輝」という少年8
今回は、いつもより少し短めの話です。
(そ、そんな……そんな……嘘だ)
アマテラスから「全て」を聞いて、翔輝はショックで顔を真っ青にした。
当然だろう。何せこの世界の歴史も、この世界の人達が信じてる神様も、全て偽りだというだけじゃなく、自分達を召喚した「勇者召喚」の所為でこの世界と地球、2つの世界が消滅の危機に陥り、それを阻止する為に春風がずっと動いていたという事実を知ってしまったのだから。
(僕達は……僕は、『勇者』じゃなかったのか?)
その事実を知って、翔輝だけでなく周りのクラスメイト達までもが、ショックで顔を青ざめていて、中には膝から崩れ落ちた者もいた。
(い、いや、それ以上に……)
そして、翔輝もその場に膝から崩れ落ちそうになったが、
(ゆ、幸村。お前はずっと、こんな大きなものを背負っていたのか?)
と、春風を見てどうにか踏ん張った。
その後、
「どうして教えてくれなかった!?」
と小夜子が春風に詰め寄り、それを水音達が必死になって宥めた。
そんな彼女達の様子を、
(ああ、先生。あんなに取り乱して、よっぽどショックだったんだろうなぁ)
と、翔輝が若干冷静な表情で見ていると、
「落ち着きなって」
と、アマテラスが小夜子を優しく抱きしめた。
(あ、先生、ちょっと羨ましいかも!)
と、翔輝は羨ましそうな目をしたが、
(……ハッ! 駄目だ駄目だ! クラリッサ様に叱られてしまう!)
と、脳裏にクラリッサの姿が浮かんだので、すぐに首を横に振るった。
それから少しして、漸く小夜子の様子が落ち着くと、アマテラスはウィルフレッドに幾つか質問をして、
「春風くーん」
「な、何ですか?」
「ごめん、後は任せた!」
『な、何ぃいいいいいいいっ!?』
と、アマテラスに話を振られた春風が、
「ウィルフレッド陛下」
「な、何かな春風殿?」
「俺は……」
と、自身の抱えている「想い」を全て話した後、
「この一件が片付いて、2つの世界が消滅を免れたら……あなたには、ある『償い』をしてもらいます」
と言って、ウィルフレッドにしてほしい「償い」を要求した。
その要求を聞いて、
(ゆ、幸村。お前は、本当にそれでいいのか?)
と、翔輝は心の中で「?」を浮かべたが、春風の「これで良い」と言わんばかりの真剣な表情を見て、
(……それが、お前の『選択』か)
と、顔を下に向けた。
また更に、
「わかったよ春風殿。私は、其方が提案したその『償い』を、全力で行うことを、この場で誓おう」
と、ウィルフレッドがそう言った後、春風はウィルフレッドと固い握手をした。
それを見た瞬間、
(ああ、そうか。これが、お前の『強さ』なんだな)
と、翔輝が心の中でそう呟くと、かつて水音から聞いた春風についてのことを思い出した。
その時、水音が最後に言った言葉が脳裏に浮かんだ。
「春風は悪党にはもの凄く容赦がない奴なんだけど、決して見捨てたりはしないんだ」
その言葉を思い出すと……。
ーートクン。
「!?」
不意にそんな音が聞こえたのを感じて、翔輝はおもわず自身の胸を掴んだ。
(え、な、何!? 今の音、何!?)
と、翔輝は周りキョロキョロとしたが、その場にいる誰もが春風とウィルフレッドをジッと見つめていた。
そしてその夜、翔輝は1人、焚き火の前で座っていた。
(あんな風に話す幸村、初めて見たな)
と、心の中でそう呟くと、
「ぐぅ。許せない筈なのに僕も幸村も男なのに……どうして、こんなにときめいてしまうんだ」
と、自身の胸をグッと掴みながら、今度は誰にも聞こえないようにボソリとそう呟いた。




