第513話 「前原翔輝」という少年5
水音から春風についての話を聞いてから、翔輝はますます「勇者」としての訓練をこなしていた。
春風に対する「怒り」や「憎しみ(?)」、更には「憧れ」や「嫉妬」といった様々な感情を込めて訓練に挑むその姿に、ウィルフレッドら王族や兵士、騎士だけでなくクラスメイト達までもが、皆なんともいえない表情を浮かべていた。
そんな中、ウォーリス帝国から使者として来たセレスティア皇女との手合わせからの、水音のウォーリス帝国へ旅立ち(?)というイベントが起きて、
(く! 桜庭、お前もか!)
と、翔輝の心が怒りに燃え、彼女達がウォーリス帝国へ帰った後、翔輝は更に訓練にのめり込んだ。
そして月日が流れて、新たなイベントが起きた。
そう、ウォーリス帝国帝都の闘技場で行われた、春風と水音の「決闘」だ。
(まさか、あの2人が戦うことになるなんて……)
魔導映像配信技術によって、セイクリア王国王城内でも見ることが出来るというその2人の決闘に、翔輝は複雑な感情を抱いていると、2人の姿が映像として映し出された。その姿を見て、
(うぅ。さ、桜庭、随分とかっこよくなったじゃないか。そして幸村……うん、こうして見ると、やっぱり『男』には見えん!)
と、更に複雑な表情になると、実況の女性ジョリーンによる春風の紹介になり、
「職能は、『半熟賢者』……て、固有職能!?」
春風の職能が、暴露された。
彼女の言葉を聞いて、
(……は? 半熟……賢者?)
と、翔輝が首を傾げると、
「えー、コホン。そう、先程ジョリーンちゃんが言った様に、そこにいる幸村春風ちゃんは、固有職能『半熟賢者』を持つ固有職保持者。そして、それと同時に……異世界『地球』の神々によってこの世界に送り込まれた、いわば『異世界の神の使徒』だったのよぉ!」
と、ウォーリス帝国皇妃エリノーラも、春風についてのそう暴露したので、
「な、なんだってぇえええええええっ!?」
と、翔輝は思わず驚きの声をあげた。
そして、その後も続くエリノーラによる春風に関する暴露。
彼女曰く、この世界は今、春風水音、そして勇者達の世界にまで甚大な被害をもたらすほどの危機に瀕していて、それを知った地球の神々は偶然助けた春風に、その事態の原因を調査してほしいと依頼し、彼をエルードに送り込んだ。ところが、その際目覚めた彼の職能は、この世界では異端視されている固有職能で、しかも半人前の「半熟」とはいえ、最初の固有職保持者と同じ「賢者」。これが五神教会にバレたら、何をされるかわかったもんじゃないということで、そうなる前に彼は「仲間のもとを離れる」という苦渋の決断をしたのだという。
エリノーラの暴露を聞き終えると、
(そ、そうだったのか……!)
と、翔輝は顔を真っ青にした。当然だろう、「裏切り者」と思っていた春風が、実は「世界(というよりも地球)を救う為に動いていた」という事実を知ってしまったのだから。
(うぅ、そんな、幸村……!)
と、翔輝が苦しそうに自身の胸を押さえている中、ついに始まる、春風と水音の決闘。
最初は両者による激しい剣戟。
(ちょっと待て。半人前とはいえ『賢者』なのに、何で普通に接近戦してるんだ!?)
次に、水音の技を春風が気迫で消すというとんでも展開。
(ちょっと待て! 気迫で技かき消せるものなのか!?)
からの、春風オリジナルの魔術発動!
(何、作れるの!? 魔術、作れるのか!? いや、漸く『賢者』らしい戦いを見れた……のか?)
だがそこへ、水音の猛攻撃。
(おお、凄い! 凄いぞ桜庭ぁ!)
春風ピンチ、からの「呪い」による防御。
その後、実況席からの春風の「呪い」に関する説明を聞いて、
(う、嘘だろ幸村。お前、そんなものを背負ってたのか!?)
と、驚愕する翔輝。
そして、決闘が再開し、
「水音。俺に勝ちたかったら…この俺の全てを……『蹂躙』する気でかかってこいっ!」
春風、決め台詞を言い放つ。
(グハァ! ゆ、幸村! 可愛い顔してなんてかっこいいセリフを言うんだ!)
その後も、2人の激しい戦いが続き、いよいよクライマックスを迎えようとしていた……が、そこへ、まさかの女神マールの登場。
(あ、あれが、この世界の『神様』?)
マールは水音を操り、春風を殺そうとした。
(ああ、そんな! こ、こんなこと、許されていいのか!?)
しかし、そこからまさかの、「地球」の神アレスの登場。
(ええ!? 今度は地球の神様!?)
からの、水音、覚醒!
(ええぇ!? 桜庭、なんか目覚めちゃってる!?)
からの、
「行こうぜ、相棒!」
「ああ、行こう!」
(グハァ! ま、またしても、かっこいいセリフを……!)
そして、
「マキシマム・パニッシャーっ!」
「イヤァアアアアアアアッ!」
女神マール、潰される。
(め、女神様、潰れたぁあああああああっ!)
その後、春風が倒れ、決闘は「中止」という形で終了し、その場は解散。翔輝は1人、呆然とした様子で部屋へと戻った。
そして、部屋に入ると、ベッドに飛び込んで、
(うわぁあああああ! 幸村ぁ! 『裏切り者』の筈なのに、何でこんなに僕をドキッとさせるんだぁ!? 男なのに、僕とお前は、男同士なのにぃ!)
と、決闘中の春風を思い出して、1人悶絶するのだった。




