第507話 追いかけた先で
セイクリア王国王都内の広場。
春風達が乗り込んできたその時、周囲の建物の中では、そこに住む住人達が、扉や窓の隙間から外の様子をジッと見ていて、彼らに見守られる中、春風の仲間達対勇者&王国兵士達の戦いが繰り広げられていた。
「ハァ!」
「フッ!」
「オラオラ、テメェらの実力はこんなもんかぁ!?」
国王ウィルフレッドとその妻マーガレットを守りながらの戦いである為、一見春風の仲間達側が不利なように見えているが、断罪官の大隊長&小隊長達も加わっていた為、実際は特に問題なく1人、また1人と兵士が戦闘不能になっていた。
当然、その中には勇者ことクラスメイトの姿もあった。
しかし、
(へぇ、みんな結構強いじゃないか)
そんな状況の中、1人の人物がニヤリと笑いながらそう呟いていたことに、誰一人気づかなかった。
一方その頃、
「待てぇ、モーゼス!」
「フッフッフ……」
何処かへと飛んでいったモーゼスを、フライング・カーペットに乗った春風、リアナ、水音、ループス、ヘリアテス、イチが追いかけていた。
ただ、その最中、
「あーところで水音」
「何?」
「そちらのループス様そっくりの子犬さん(?)は、どちら様かな?」
と、春風は前を見たまま水音にそう尋ねると、
「あ、紹介するね。彼はイチ、目的地で出会った新しい『仲間』だ」
と、水音は横にいるイチを見ながらそう春風に紹介し、それに続くように、
「んで、俺が昔作った分身第1号だ」
と、ループスもそう口を開いた。
そんなループスの言葉に、
「え、お父さんの分身!?」
と、リアナも驚いていると、
「ど、どうも、よろしくお願いします」
と、イチは気の弱そうにペコリと頭を下げた。
とまぁこんな感じで、何とも緊張感に欠けるやり取りがあったのだが、暫くすると、春風達はとある場所に辿り着いた。
その場所を見て、
「……あ、ここ王城前だ」
と、水音がそう気づいたように、そこはセイクリア王国王城、その城門前だった。
城門は大きく開かれていて、モーゼスは飛びながらその向こうへと潜った。
「っ! 逃がさねぇぞ!」
そして、春風達もモーゼスを追うようにその城門を潜ると、突然、何かが目の前に現れたので、
「うわ! 何だ!?」
と、驚いた春風はフライング・カーペットを急停止させた。
「みんな、大丈夫!?」
と、春風が尋ねると、
「う、うん、大丈夫」
「こっちもだよ」
と、リアナと水音はそう答えた。2人に続くように、ループス、ヘリアテス、イチも「大丈夫」と言わんばかりにコクリと頷いた。
春風はその様子を見て「ホッ」と胸を撫で下ろすと、
「一体何なんだ?」
と、目の前を見た。そこには純白の鎧を纏った1人の無表情の少年が立っていて、「んん?」と春風はその少年をよぉく見ると、
「……前原……君?」
それは、「勇者」として召喚されたクラスメイトの1人、前原翔輝だった。
「前原君!」
春風達はすぐにフライング・カーペットを降りて翔輝のもとへと駆け寄ろうとしたが、
「……」
翔輝は無表情のまま、何も言わずに腰の長剣を鞘から引き抜いた。よく見ると、その瞳には光がなく、代わりに闇が広がっていたので、
「ああ。前原君、君もか」
と、春風はそう言って辛そうな表情になった。
するとそこへ、
「フハハハハハ! 賢者春風よ、その少年はこれまでとは一味違うぞ!」
と、上空でそう高笑いしたモーゼス見つけて、
「モーゼス、テメェ……!」
と、春風はモーゼスに怒りの眼差しを向けた。
それを見て、モーゼスは「フン」と鼻を鳴らすと、翔輝に向かってスッと右手を差し出した。
次の瞬間、翔輝の左右に、明らかに翔輝の倍くらい大きさをした、2体の白銀の鎧を纏った異形の騎士が現れた。
『っ!?』
驚く春風達を前に、モーゼスは口を開く。
「さぁ勇者翔輝よ! そして神騎士達よ! 目の前にいる『悪魔』共と『邪神』共を血祭りにあげるのだ!」
そう命令した瞬間、翔輝は長剣をグッと握りしめて、「神騎士」と呼ばれた2体の異形の騎士達は、それぞれ剣と盾を構えだした。
春風達はそれを見て、「うぅ……」と唸っていると、
「……ゆ、幸……村……」
「え?」
何と、目の前の翔輝がそう口を開いたので、
「ま、前原君……!」
「前原君!」
と、春風と水音が何か言おうとしたが、それを遮るかのように、翔輝は長剣の切先を春風に向けて、
「……ほ……本気……で、来い!」
と、言い放った。
謝罪)
前回に引き続き、大変申し訳ありません。
前回の話で登場した新たなクラスメイト「裏見」君ですが、まことに勝手ながら、苗字を「裏見」から「裏部」に改名しました。なので、以降は「裏部」と表記させてもらいます。
本当にすみません。




