第498話 春風編59 vs天使モーゼス+α
今回も、いつもより長めの話です。
「神」に選ばれた「勇者」達が、「賢者」となった春風に敗北した。
「そ、そんな、またしても勇者達が……負けた?」
目の前で起きたその出来事を見て、モーゼスはショックを受けた。
そして、
「……さてモーゼス。次はどうする気だい?」
と、挑発じみた質問をしてきた春風を見て、モーゼスは顔を下に向けると、
「……断罪官達よ、奴を殺せ」
と、残った操り人形状態のルークとダリアに向かって静かにそう命令した。
その命令を受けて、2人は無表情で春風に突撃する。
「ハッ! 無駄だぜ!」
と、そう叫ぶと、春風も2人に向かって突撃した。
そんな春風に向かって、2人は容赦ない攻撃を繰り出してきたが、春風はそれを難なく避けた。
そして、
「見つけた!」
と、2人の左耳に付いている登達と同じイヤリングを発見すると、すぐにそれに触れて自身の魔力を流し、破壊した。
その瞬間、
「「う……あ……」」
と、ルークとダリアはまるで糸が切れたかのようにその場に崩れ落ちそうになったが、
「おおっとぉ!」
と、春風は「そうはさせるか!」と言わんばかりに2人を抱きとめて、優しく地面に寝かせた。
「さぁて、次は……」
と、春風がモーゼスに向かおうとした、まさにその時、
(ん? 何だ?)
不意に周囲の空気が変わったのを感じて、春風と仲間達は「何だ何だ?」と思いながら辺りをキョロキョロすると、
「……出よ、『神獣』」
と、モーゼスがそう唱えたのが聞こえたので、春風達は一斉にモーゼスの方へと振り向いた。
すると、モーゼス目の前に大きな魔法陣が描かれて、そこから神々しい白銀の鎧を纏った巨大な熊が現れた。
そのあまりの大きさに、
「お、おおう、何じゃこりゃあ……?」
と、春風がタラリと冷や汗を流しながらそう呟くと、
「ゆけ、神獣よ。あの『悪魔』を倒すのだ!」
と、モーゼスは自身が呼び出したその「神獣」に向かってそう命令した。
その命令を受けて、熊……否、熊型神獣は春風に向かって巨大な腕を振り下ろした。
「っ!」
春風は素早くその場から飛び退いて、振り下ろされたその腕を回避した。
すると、ドゴォンという大きな音と共に、地面が大きく抉られた。
「あっぶねぇな、おい!」
と、春風はそう叫ぶと、右手に持つ彼岸花・神ウチに魔力を流して、
「こいつを、くらえ!」
と、熊型神獣に向かって思いっきりそれを振るった。
すると、そこから熊型神獣に向かって真紅の斬撃が放たれたが、身に纏っている白銀の鎧に当たった瞬間、その斬撃はパシュンと音を立てて消滅した。
春風はそれを見て、
「うっそぉん」
と、ショックを受けたが、すぐにブンブンと首を横に振ると、熊型神獣に向かって左手を突き出し、
「求めるは“風”、『ウインド』!」
と、今度は自身が作った風属性の魔術を放った。狙いは熊型神獣の、鎧のない顔だった。
しかし、それに気づいた熊型神獣は、その風魔術に向かって、
ーーフゥッ!
と、息を吹いた。
すると、その息を受けた風魔術は、まるで最初からなかったかのように消滅した。
それを見て、
「うっそぉおおん!」
と、春風はまたショックを受けた。それから何度も魔術や斬撃を繰り出したが、どれも熊型神獣には通用せず、その様子を見て、モーゼスは「フッフッフ……」と静かに笑った。
その後も、熊型神獣は春風に向かって攻撃してきた。1つ1つが強力な上に攻撃を出すのも速い為、流石の春風も苦戦を強いられていた。
しかし、
「……ちょっと、試してみますか」
と、落ち着いた表情でそう呟くと、春風は熊型神獣からある程度距離をとり、両手でグッと彼岸花・神ウチを握ると、
「ジゼルさん、いけますか?」
と、彼岸花・神ウチに向かってそう尋ねた。
すると、
「はい、問題ありません春風様」
と、真紅の刀身からジゼルがそう返事したので、春風は小さく「ありがとうございます」とお礼を言った後、ゆっくりと目を閉じて、
「……オーディン様、よろしいですか?」
と、まるで許可を求めるかのようにそう呟いた。
次の瞬間……。
ーーいいよ、思いっきり使って。
という声が聞こえたので、
「よっしゃあっ!」
と、春風はそう叫ぶと、彼岸花・神ウチを上に掲げて、
「契約神オーディン様、あなたの『槍』、お借りします!」
と叫んだ。
すると、手に持っている彼岸花・神ウチが眩い光に包まれて、白い長い柄と真紅の大きな穂先を持つ「槍」へと姿を変えた。
「彼岸花・神ウチ、神槍武装っ!」
そう叫んだ春風の言葉を聞いて、仲間達はその「槍」に気づく。
「あ、あれは、ウォーレン大隊長の時の!」
『槍になった彼岸花!』
そう。それは、かつて春風が、「炎の神カルド」に操られたウォーレンを助ける為に振るった、あの「槍」だった。
その後、春風は腰のポーチから「フライ・ボード」を取り出してそれに乗ると、「槍」になった彼岸花・神ウチの先を熊型神獣に向けて構えた。
そして、乗っているフライ・ボードに自身の魔力を流すと、フワッと宙に浮かび上がって、目の前の熊型神獣に向かって猛スピードで飛んだ。
「っ!」
それを見た熊型神獣は咄嗟に右手を突き出して防御に入ったが、
「「ハァアアアアアアアッ!」」
それに構わず、春風と「槍」の中のジゼルはそう叫んで、熊型神獣に突っ込んだ。
結果、その突撃は熊型神獣の右手を突き破り、その勢いのまま、熊型神獣の鎧諸共、体を突き破った。
その後、体に大きな穴を開けられた熊型神獣は、大きな音と揺れを起こしながら、その場に前のめりに倒れた。
それを見て、
「す、すごいやハルッち!」
「アハハ、勝っちゃったよ……」
と、恵樹や美羽をはじめとした春風の仲間達は、皆、呆然とした。
一方、攻撃を終えた春風はというと、
「さて、モーゼス。今度こそ……」
と、口を開いたが、
「あ、あれ? モーゼスがいない!?」
何と、どれだけ周囲を見回しても、モーゼスの姿がなかったのだ。
その言葉を聞いて、春風の仲間達も、
『あ、本当だ!』
と、辺りをキョロキョロと見回した。
その時、
「ハーッハッハッハァ!」
と、何処からともなくモーゼスの笑い声が聞こえたので、
「っ! モーゼス、何処だぁ!?」
と、春風は怒鳴るようにそう尋ねたが、モーゼスは姿を現さず、
「幸村春風、異世界から来た『賢者』よ! 私と戦い、ウィルフレッド達を救いたいのならセイクリア王国に来い! そこで決着をつけようではないか!」
と、最後にまた「ハーッハッハッハ!」という笑い声を加えてそう答えた。
そして、春風はモーゼスの気配が完全に消えたのを感じた後、
「ウィルフレッド陛下、みんな……」
春風は「槍」となった彼岸花・神ウチをグッと握りしめながら、
「……イブリーヌ、様」
と、悲痛に満ちた表情をした。
予定ですが、次、もしくは次の次辺りで、第14章は終了です。




