第490話 春風編51 「最後の仕上げ」へ
「間凛依冴、ただいまとうちゃーく!」
と、ポーズをとりながらそう言った凛依冴に、その場にいる誰もがポカンとした。
ただし、操られている者達は無表情のままだった。
そんな状況の中、
「あー、師匠……」
と、春風が口を開くと、
「あ、春風ぁ! お待たせマイスウィートハニ……って、うわぁお何そのぶっとい丸太!? ま、まさか、それで戦う気!? 駄目よ、幾らロマンに溢れているからってそんなの持っちゃ! ほら、これ!」
と、凛依冴は表情をコロコロと変えながらそう言って、背中に背負っている「とあるもの」を春風に差し出した。
「あ……」
春風はその「とあるもの」を見ると、持っていた丸太を腰のポーチにしまって、
「彼岸花……」
その「とあるもの」ーー鞘におさまった彼岸花を受け取った。
「師匠、これ……」
と、春風が凛依冴に何か言おうとしたが、それを遮るように凛依冴が真面目な表情で口を開く。
「精霊の彼岸花ちゃんとジゼルさんなら、その中にいるわ。そして、ヘファイストス様から『伝言』よ」
「伝言?」
「『形は整えた。最後はお前が仕上げるんだ』」
その言葉を聞いて、春風が「え?」と頭上に「?」を浮かべていると、
「……ハッ! ゆ、勇者達よ、何をしている! 奴を倒すのだぁ!」
と、我に返ったモーゼスが操られている状態のクラスメイト達にそう命令した。
すると、
「うるさい」
と、凛依冴はそう言って、モーゼスを睨みつけた。
すると、凛依冴から何かを感じたのか、モーゼスクラスメイト達も、ビクッとなってその場から動けなくなった。
そんな彼らを睨みながら、凛依冴は春風に質問する。
「ねぇハニー、あいつらって『敵』なの?」
「いいえ、あの背中に翼が生えた男だけで、あとは操られているだけです」
そう即答した春風に、凛依冴は「フフ……」と笑うと、
「オッケー! そんじゃあ……!」
と言って、凛依冴は腰のポーチに手を突っ込んで、そこから何か取り出した。
それは、歪な形をした、刀身から柄まで真っ黒な「剣のようなもの」だった。
それを見て、誰もが「う!」と表情を曇らせていると、
「出番よ、ヴァイオレット」
と、凛依冴が「剣のようなもの」に話しかけた。
すると、
「ケケケ! あいよ、相棒!」
と、ヴァイオレットと呼ばれた「剣のようなもの」から、気の強そうな女性の声が聞こえたので、
『喋ったぁ!』
と、ヴァイオレットを見たことがある冬夜、雪花、静流以外の者達が驚きの声をあげた。
「あ、そういえばハニーにヴァイオレットを見せたの初めてだったわ」
と、凛依冴は思い出したようにそう呟いたが、すぐに真剣な表情になって、
「さぁ、春風は早くそのコを仕上げて!」
と、モーゼス達を睨みながら春風にそう言ったが、
「……あのぉ、『仕上げて』って、どうやって?」
と、春風は困ったようにそう返したので、
「どうやって……って、ええ!? もしかしてわからない!?」
と、凛依冴は春風の方を向いてそう尋ねた。
それに対して、春風が「はい、すみません」と謝罪すると、
「……ちょっと、よろしいでしょうか」
と、それまで座り込んでいたフリードリヒが、スッと立ち上がった。
「む、あんたは?」
と、凛依冴が尋ねると、
「はじめまして、僕は春風君の先輩の、フリードリヒといいます」
と、フリードリヒはそう名乗った。
それを聞いて、
「先輩? そう、私は凛依冴、春風の師匠で、妻で、ハーレムメンバーよ」
と、凛依冴もそう名乗った。その際、「おいコラ!」と周囲から声が上がったが。
しかし、それに構わずフリードリヒは口を開く。
「あぁそうですか、よろしくお願いします。それで、早速ですが、今あなたが言った『最後の仕上げ』ですが、僕に心当たりがありますので、ちょっと春風君をお借りしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「……ふーん、心当たりねぇ」
と、凛依冴はヴァイオレットを構えながら考える素振りをすると、
「いいわ、じゃあハニーをお願いね」
と、フリードリヒの提案に「オッケー」を出した。
その後、フリードリヒは「ありがとうございます」とお礼を言うと、春風の腕を掴んで、
「というわけで春風君、悪いけど僕と一緒に来てくれ。君に、会わせたい人がいるんだ」
と、真剣な表情でそう言った。
春風は「え?」と少し驚いたが、フリードリヒの目を見て、
「わかりました」
と、返事すると、
「師匠、ちょっと行ってきます!」
と、凛依冴に向かって力強くそう言い、
「オッケー! 行ってらっしゃい!」
と、凛依冴も力強くそう返事した。
その後、春風は「お願いします」とフリードリヒに向かって言うと、彼と共に部屋の奥にある通路へと駆け出した。
「……に、逃すな!」
と、それに気づいたモーゼスが、クラスメイト達にそう命令を出したが、
「行かせないわよ!」
と、凛依冴がその前に立ち塞がった。そのおかげで、春風とフリードリヒは通路の中へと入っていった。
(よし……)
と、凛依冴はチラッとその様子を見ると、クラスメイト達に視線を戻して、
「さぁ坊や達、お姉さんが相手になってあげるわよ!」
と、ヴァイオレットを構えながらそう言った。




