第489話 春風編50 操られし者達、そして……
「天使」となったモーゼスが、春風達の前に召喚したもの。
それは、断罪官副隊長のルークと、ユリウスと同じ小隊長のダリア、そして、小夜子や歩夢達と同じく「勇者」として召喚されたクラスメイト達だった。
「る、ルーク副隊長、どうしてここに……!?」
と、驚いたアリシアが近づこうとしたその時、
「待って、様子がおかしいわ!」
と、ユリウスが「待った」をかけた。
次の瞬間、ルークがゆっくりとユリウスとアリシアに視線を向けると、
「……」
無言で攻撃を放ったのだ。放たれたのは、手に持っている剣による斬撃だ。
「「っ!」」
2人はすぐ近くにいた春風の仲間達を抱えると、すぐにその場からジャンプしてその攻撃を回避した。
「な、何をするのですか副隊長!?」
と、着地したアリシアが、ルークに向かってそう尋ねたが、
「……」
ルークは何も答えなかった。
よく見ると、その瞳に光はなく、まるで「闇」が目の中で広がっているようだった。
そして、それはルークだけでなく、ダリアや4人のクラスメイト達も同様だった。
そんな彼らの様子を見て、
(あれ? この感じは……まさか!)
と、春風の脳裏に「ある記憶」が浮かんだ。
「そうだ。あの状態、水音が操られた時と同じだ!」
そう、それはかつてウォーリス帝国帝都での水音との「決闘」の最中、水音が女神マールに操られた時の記憶だった。
春風のその言葉を聞いて、歩夢達も「あ、そういえば!」と言わんばかりの驚きに満ちた表情になり、
「モーゼス教主! あなた、ルーク副隊長達に何をしたのですか!? というより、何故、王都に向かった筈の彼らがここにいるのですか!?」
と、今度はユリウスがモーゼスにそう尋ねると、モーゼスは「フッフッフ……」と「天使」にあるまじき醜悪な笑みを浮かべながら答えた。
「決まってるじゃないですか。彼らに本来の使命を思い出してもらっただけですよ」
「本来の……使命?」
「そう、『異端者を討つ』という『断罪官本来の使命』と、『神を殺す悪魔を倒す』という『勇者としての使命』をね。そして、『何故この場にいる』という理由については、丁度王都に戻る最中だったところを、『神』のもとにご招待しただけですよ。ああ、ただ……」
「?」
と、モーゼスの言葉にユリウスだけでなく春風達も頭上に「?」を浮かべていると、モーゼスは更に醜く口を歪ませて言う。
「国王ウィルフレッドと断罪官大隊長のウォーレンにつきましては、『神』の名のもとに処刑が決定されましたがね」
『なっ!?』
その言葉を聞いて、春風も仲間達も驚愕した。
「ちょ……ちょっと待ってください! 処刑ってどういうことですか!?」
と、小夜子が顔を真っ青にしながらモーゼスにそう尋ねると、
「言葉の通りですよ。ウィルフレッドは国王でありながら、『悪魔』に加担して『神』を蔑ろにした。そして、ウォーレンは大隊長でありながら、討つべき『異端者』に2度も敗北しただけでなく、その『異端者』に自身の武器にして『神の戦士』の証である聖剣スパークルを明け渡した。これは、到底許されることではありません。よって、この2人の『処刑』が決定されたのです」
と、モーゼスはそれまでの醜悪な笑みからガラッと変わって、真面目な表情でそう答えた。その答えを聞いて、小夜子だけでなくユリウスとアリシアも、
「「そ、そんな!」」
と、ショックで顔を更に真っ青にした。
すると、
「……ちょっといいですか?」
と、ここでそれまで黙って話を聞いていた春風が、ゆっくりと口を開いた。
「むむ、何ですかな?」
と、モーゼスが反応すると、春風は表情を暗くして、
「イブリーヌ様は、どうしたんですか?」
と尋ねたが、モーゼスは黙ったままで何も答えなかったので、
「どうしたんですかって聞いているんだ!」
と、春風は怒鳴るようにそう尋ねた。
すると、モーゼスは再び醜悪な笑みを浮かべて、
「勿論、彼女も一緒に『神』に捧げましたよ。今頃は、あの方達にどんなことをされてるやら……」
と答えた。
その瞬間、春風の脳裏に浮かんだのは、
ーーハル様ぁ!
笑顔を浮かべたイブリーヌだった。
そして、春風はモーゼスに、怒り満ちた眼差しを向けて、
「モーゼス教主……いや、モーゼス! テメェは、絶対許さねぇ!」
と叫び、グッと丸太を握る力を強くした。
しかし、
「フフフ。幾ら貴様が半人前とはいえ『賢者』の固有職保持者で、『始まりの悪魔』を倒した丸太を持っていても、その『始まりの悪魔』との戦いでかなりの力を消耗した貴様が、『天使』となった私と……」
と、モーゼスは余裕に満ちた表情を浮かべると、
「『勇者』を相手に勝てるのかな?」
4人の操られた状態のクラスメイト達を、春風の前に並ばせた。それと同時に、彼らは無表情のまま、春風に向かってそれぞれ戦闘体勢に入った。
そんな彼らの様子を見て、
「や、やめろ近藤、遠山!」
「愛島さん、深見さんも、目を覚まして!」
と、鉄雄や歩夢達が彼らのもとへと駆け寄ろうとしたが、
「「……」」
ルークとダリアが無言で割り込んできて、こちらも戦闘体勢に入った。
そんな状況の中で、
「さて皆さん、この状況でどう動きますかな?」
と、モーゼスが醜悪な笑みを浮かべたまま尋ねてきた。
その時、
「ちょおっと待ったぁあああああっ!」
という叫びと共に、モーゼスが開けた天井の穴から、1つの「影」がもの凄い勢いで落ちてきた。
そして、ドォンという音と共に着地したその「影」は、ビシッとしたポーズをとって口を開く。
「間凛依冴、ただいまとうちゃーく!」




