第49話 そして、少年は叫んだ
サブタイトル「そして、少年は……」シリーズ、第3弾です。
「……」
春風は今、目の前でへたり込んでいる男性を、ただジィッと見つめていた。そんな春風の姿を、リアナやシェリルを含むその場にいる全員が、オロオロしながら見ていた。
そんな時だった。
「ハッ!」
暫くの間のびていた男性だったが、やがて意識がハッキリすると、目の前で自分を見下ろす春風を見て、
「な、何だテメェは!?」
と言って、へたり込んだ状態のまま睨みつけた。
だが、
「黙れよ、変態」
春風は無機質な眼差しを向けながら、男性にそう答えた。
「だ、誰が変態だ!? ていうか、俺の何処が変態だ!?」
男性は怒って反論しようとするが、
「年端もいかない女の子に手ェ出す様なオッサン、変態だろ?」
「ひ、酷いぃ!」
男性のその悲鳴に似た台詞に、周りの客達は、
(ヒデェ)
(酷いな)
(酷いけど、ザマァ!)
と、心の中でそんな事を呟いた。
「ま、アンタが変態かどうかは置いといて……」
春風はそう言ってチラリとシェリルを見た後、また男性に視線を戻す。
「アンタさぁ、いくら酔っていたとはいえ、こんな所で女の子に暴力振るって良いと思ってんの? それもここのオーナーの娘さんに、だよ?」
春風にそう言われて、男性は何か反論しようとしたが、少しずつ冷静になっているのか、何も言わなかった。
そんな男性に、春風はさらに話を続ける。
「そんな事をして、もしこの子に何かあったら、アンタどう責任取る気なの? オーナーさんとその旦那さんに、どういう顔をする気なの?」
「うぅ!」
春風の正論とも言えるその台詞に、男性は次第に顔を真っ青にする。
「そして何より……」
その場にいる全員、ゴクリと固唾を飲む。
「アンタの所為で世界中の男子と男性が、『女の敵』に認定されたら、どうしてくれんの!?」
4秒の沈黙後、
「それは流石に無いだろぅ!」
男性はハッとなって突っ込んだ。しかし、春風は怯まなかった。
「ああ、そうさ! 流石にそれはもしかしたら無いかもしれない! が、だからといって可能性がないともいえない! 何故なら、俺達には未来が見えないのだから!」
春風のその台詞にその場にいる全員が、
(何を言ってるんだお前はぁ!?)
と、心の中で突っ込んだが、
「た、確かに!」
男性は、納得した。
(えぇ!? 納得すんのぉ!?)
その場にいる全員、再び心の中で突っ込んだ。
そんな彼らを他所に、春風は大きく息を吸い込むと、
「男性陣の、皆さんんんんんんんっ!」
と、その場にいる男性全員に向かって叫んだ。
『!』
男性陣、驚いて一斉に春風を見る。
春風は彼らに向かって再び叫ぶ。
「人生に1度、たった1度でも良いから! 美女、美少女、美幼女、美熟女、美老女に……」
ーーゴ、ゴクリ。
「『カッコいいですね』って、言われたいですかぁあああああああ!?」
叫び。春風の魂の叫び。男達は全員、「フッ」と笑い、叫ぶ。
『言われてぇに、決まってんだろおおおおおおおっ!』
男達の叫びに、春風は「ありがとう」と言わんばかりに手を上げると、再び叫んだ。
「ならばもしもぉ! 逆に美女、美少女、美幼女、美熟女、美老女に……」
ーーゴ、ゴクリ。
「『嫌いです』って、大粒の涙を流しながら言われたら、どうですかぁあああああああ!?」
叫び。2度目の魂の叫び。男達は全員、「フッ」と笑い、再び叫ぶ。
『嫌だぁあああああああ! そんなの絶対に、嫌だぁあああああああ!』
男達の叫びに、春風は再び「ありがとう」と言わんばかりに手を上げると、またまた叫んだ。
「ならばもしもぉ! そんな悲しい事を言われる事になった原因となった存在がぁ! 目の前に現れたらぁ! どうしますかぁあああああああっ!」
叫び。3度目の魂の叫び。男達は全員、「フッ」と笑い、またまた叫ぶ。
『勿論、死刑だぁあああああああ!』
男達の叫びに、春風はまたまた「ありがとう」と言わんばかりに手を上げると、今度は男性の方を向いた。
「さて、酔っ払いさん」
「!?」
いきなり話しかけられて、男性は驚いた。そんな男性に、春風はさらに話を続ける。
「ご覧の通りのこの状況を見て、アンタが次に何をするべきか、わかりますよね?」
すると、男性はスッと立ち上がり、シェリルの方を見て、
「申し訳ありませんでしたぁあ!」
と、勢いよく頭を下げた。
シェリルはそんな男性に、「ハァ」と溜め息を吐くと、男性に「顔を上げてください」と言って顔を上げさせると、
「まだ許す事は出来ませんが、もうこういう事はしないでくださいね?」
と、笑顔でそう言った。
男性はコクリと頷くと、今度は他の客達を見て、
「お騒がせして、申し訳ありませんでしたぁあ!」
と、また勢いよく頭を下げた。
それを見て客達は皆、「ハァ」と溜め息を吐くと、
「しょうがねぇなぁ」
「次は気を付けてくれよぉ」
などと、苦笑いしながらそう言った。
それを見てまたまた深く頭を下げる男性に、春風が近づいて、
「あの、先程アンタの事情を聞いたのですが、もしよろしければ詳しい話を聞かせてくれませんか? こんな俺ですが、愚痴を聞くことくらいは出来ると思ってますので」
と、今度は丁寧に話しかけた。
それを聞いて、すっかり酔いが覚めた男性は春風の顔を見ると、
「……わかった」
と、コクリと頷くのだった。
今回の酒場での春風君が叫ぶシーンは、実は改訂前である前作で書きたかったシーンなのですが、ストーリーの進行的に書く事が出来なかったので、とても悔しい思いをしました。
それが、こちらで書く事が出来て、とても嬉しく思っています。
読んでみて、もしよろしければ感想をお願いします(勿論、出来たらで良いですので)。




