第484話 春風編45 激突、2人の「賢者」
「というわけで、もっといかせてもらいますよ、先輩?」
「……ああ、かかって来なよ、後輩」
春風とフリードリヒ。
2人の「賢者」のやり取りを見て、春風の仲間達はゴクリと固唾を飲んだ。
見守られる中、静かに睨み合う2人。
先に動いたのは、
「んじゃ、いきますか!」
春風だった。
春風は先ほどと同じように、右手に火、左手に水属性の魔力を纏わせると、フリードリヒに向かって突撃した。
「何度やっても無駄だよ」
そう言うと、フリードリヒは裏スキル[暴食]を発動し、その攻撃を受け止めようとした。
だが、
「何!? 消えた!?」
フリードリヒの目前まで来た春風が、スッと消えたのだ。
次の瞬間、春風はフリードリヒの背後に、その姿を現した。
春風は右手をビシッと伸ばして、そこに纏わせた火属性の魔力の形を整えると、フリードリヒの首筋目掛けて、空手チョップをお見舞いしようとした……が、
「うぐ!」
「フフ、さっきのお返しだよ」
それよりも早くフリードリヒ春風の腹に蹴りを入れた。
吹き飛ばされる……かと思われたが、
「まだだ!」
「おや?」
春風はそれでも、攻撃を止めることはなかった。
首筋に向かって振り下ろされた炎の空手チョップ。
しかし、当たる寸前のところで、フリードリヒはその場から飛び退いて、それを回避した。
その後、フリードリヒは静かに地面に着地すると、春風の様子をジッと見た。
蹴られた腹を摩っていたが、それほど痛がってはいない様子だったので、
「へぇ、腹部に魔力を纏わせて、ダメージを軽減したんだ」
と、フリードリヒはそう声をかけたが、春風はそれに答えず、黙ってフリードリヒを見つめていた。
再び静かに睨み合う両者。
動いたのは、
「じゃあ、今度は僕の番かな?」
フリードリヒだった。
フリードリヒは目を閉じて深呼吸すると、春風がやったのと同じように、右手に火属性の魔力を纏わせた。
それで春風と同じように殴りかかるのかと、春風をはじめ、誰もがそう思った。
しかし、それだけでは終わらなかった。
何故なら、フリードリヒはその火属性の魔力を、別の形に変えたからだ。
「ハァア!」
そして生み出されたのは、まるで剣のように形を整えられた炎だった。
「な、何、あれ?」
「ま、魔術? それともスキル?」
目の前で起きたことを見て、仲間達が戸惑っていると、
「……違う。あれは、どちらでもない」
と、春風は静かにそう答えた。
その答えを聞いて、
「その通り。これは魔術やスキルで作ったものじゃない。スキルを使わない魔力のコントロールは、何も君だけの特権ってわけじゃないってことさ」
と、フリードリヒはニヤリとしながらそう言うと、その剣状の炎をグッと握って素早く春風すぐ側近づき、それを振り下ろした。
「っ!」
春風はすぐにその場から飛び退いて攻撃を回避したが、
「甘いよ!」
と、そこへフリードリヒが現れて、再び剣状の炎で攻撃してきた。
それを見て、
「春風ぁ!」
と、冬夜は悲鳴をあげたが、
「こんちくしょうがぁあああああっ!」
と、春風はそう叫ぶと、なんと攻撃が当たる前に、フリードリヒに向かってタックルしたのだ。
「うぉ!?」
突然のことに驚いてバランスを崩したフリードリヒ。
春風はそれを見逃さず、
「求めるは“水”、流水の魔槍、『ウォーター・ランス』!」
すぐにフリードリヒに向かって、水の魔術を放った。
名前の通り、槍のように鋭く尖らせた水属性の魔力が、フリードリヒに襲いかかる。
だが、フリードリヒは驚くことなく、なんと、自身の目の前に、剣状の炎をかざした。
それを見て、
「え、まさかあれで防ぐ気か!?」
「え、火って水に弱いんじゃ!?」
と、仲間達は誰もがそう思っていたが、
「それはどうかな?」
と、フリードリヒはまたニヤリと笑うと、剣状の炎を大きくした。
そして、その炎に当たった水の槍。
そのまま消えるのかと思われたが、なんと、消えたのは水の槍の方だった。
「え、そんな!」
「フフフ、強い炎というのは、水だって消せるものなのさ」
驚く春風に向かってそう言ったフリードリヒは、更にそのこの剣状の炎を大きくすると、まるで斧を振り上げるかのように高く掲げて、
「終わりだ、後輩」
「っ!」
と、春風に向かって勢いよく振り下ろした。
それを見て、
「ふ、フーちゃあああああああん!」
と、歩夢は悲鳴をあげた。




