第475話 春風編36 そして、みんなで「脱出」へ
今回は、いつもより少し短めです。
「……そうか。あの国でそんなことが……」
「はい、そうなんです」
どうにか気絶から回復した丈治とサンディに、中学3年の春風は、5年前にディモーニア王国で起きた「あの事件」から現在に至った経緯を説明した。因みに、子供達も皆、中学3年の春風の話を聞いて泣きそうになっていた。
「グスン。辛かったわね春風ちゃん。それじゃあ、冬夜博士だけじゃなく愛染所長達も?」
と、説明を聞き終えたサンディが泣きながらそう尋ねると、中学3年の春風は首を横に振るって、
「いえ、あの時お父さんは『もうここにはいない』と言っただけで、『死んだ』とは言ってませんでした。その時の僕は『死んだ』って思ってたんですが」
と答えて、表情を暗くした。
すると、
「……そうか。元作も、みんないなくなったか……」
と、丈治はプルプルと声と体を震わせた。
「あ、あの、小田川博士?」
と、中学3年の春風が尋ねると、
「ああいつらぁああああ! よくも儂らを騙したなぁあああああ!」
と、丈治は立ち上がってそう叫んだ。
次の瞬間、それまで本当にヨボヨボのお爺さんだった丈治の体がみるみると膨れ上がり、やがて着ていた白衣やシャツがビリビリと破れていった。
そして、その下から現れたのは、どう見ても老人のものとは思えないムキムキの筋肉ボディだった。
「え、ええ博士! 何ですかその素晴らしきボディは!?」
そのあまりの変貌ぶりに、中学3年の春風はギョッと目を大きく見開き、子供達は「ヒィイ!」と悲鳴をあげて、皆、中学3年の春風の後ろに避難した。
「ちょ、ちょっとジョー博士、落ち着いて……」
と、サンディが丈治をニックネームでそう呼ぶと、
「春風よ!」
「は、はいい!」
突然名前を呼ばれて、それまで床に座っていた中学3年の春風は思わず立ち上がってビシッと姿勢を整えた。
そんな中学3年の春風を前に、丈治はクルッと後ろを向いて、
「お主、その子供達を救いにきたのだろう?」
と、尋ねてきたので、
「はい!」
と、中学3年の春風は真剣な表情でそう答えた。
その答えに丈治は「そうか」と小さく呟くと、
「ならばついて来い」
と言って何処かに向かおうとした。
「え、ど、何処に行くんですか?」
と、中学3年の春風は戸惑いながらそう尋ねると、
「決まっておるだろう? 皆でこんな所から脱出するんじゃ!」
と、丈治は振り向かずにそう答えた。
そして、それから暫くすると……。
ーードォオオオオオオオン!
大きな爆発音と共に、アジトのあちこちで火の手が上がった。
「緊急事態発生! 緊急事態発生! 研究員は避難、戦闘員は直ちに武装せよ! 繰り返す! 研究員は避難、戦闘員は直ちに武装せよ!」
アジト内に流れる放送を聞いて、あれよあれよ逃げ惑うアジトの研究員達と、武装していく兵士達。
混沌としたアジトの中で、兵士達は皆、
「撃てぇ! 撃てぇ!」
と、目の前のあるものに向かって銃を撃ちまくった。
しかし、幾ら銃を撃っても、全体が金属で出来たそのあるものには通じず、寧ろ当たって跳ね返ってきた銃弾を受けて、兵士達は次々と負傷していた。
ただ、それでも誰も死なないのは、なるべく相手に命を奪わないように計算して跳ね返していたからだ。
さて、そんな兵士達は何を相手にしているのか?
それは、全身が金属で出来た、自分達の数倍の大きさと幾つかの火器を備えた、ちょっと無骨な見た目をした2体の人型兵器だった。
そんな人型兵器の内部では、
「ガッハッハ! 乗り心地はどうじゃ春風よ!」
「スッゲェ最高です! 本物のロボットですよ!」
と、丈治と中学3年の春風が楽しそうに話し合っていた。




