第471話 春風編32 「記憶」の感想と、「嫌な予感」
「私は君が欲しい。私のものになれ、春風」
ミネルヴァがそう言った瞬間、景色がガラリと変わり、春風達は元の何もない部屋へと戻っていた。
(うわぁ、なんて嫌な記憶だよったく……)
と、春風が心の中でそう呟くと、
「で、ミウさん。君は何で俺の頬を抓ってるのかな?」
と、チラリと美羽を見てそう尋ねた。尋ねられた美羽はというと、春風が言うように、ギュッと春風の頬を抓っているのだが、それと同時に体をプルプルと震わせながら、顔を真っ赤にして目に大粒の涙を浮かべていた。
「春風がいらんこと思い出したからでしょが!」
と、震えた声で美羽が怒鳴ると、春風は「ああ……」と、自分と美羽との記憶かと思い出して、
「うん、ごめんなさい」
と、抓られた状態のまま美羽に謝罪した。
すると、
「ま、まあまあミウッちちゃん、ハルッちも悪気があったわけじゃないし、俺らもミウッちちゃんの気持ちはわからないわけでもないから」
「そ、そうそう、あんなの見たら俺らだってビビるわマジで!」
と、恵樹と鉄雄が美羽を宥めた。
必死になっている2人の言葉を聞いて、美羽は「うぅ……」と唸りながら春風の頬から手を離すと、
「てゆうか幸村、色々突っ込みたいけどまずはこれから言わせてくれ」
と、それまで黙っていた小夜子が、春風に向かって何やらもの凄く真面目な表情でそう言ったので、
「な、何ですか、先生?」
と、春風が恐る恐る尋ねると、小夜子は春風の両肩をガシッと掴んで、
「お前、ブレイン・ロードとか、神代総理大臣とか、『村』の『村長』さんとか、桜庭とか、山主さんとか、天上とか、で、今のミネルヴァさんとか、なんかもの凄い『出会い』多くないか!? 流石にちょっと濃密過ぎる人生を送ってるんじゃないか!?」
と、ユッサユッサと揺すりながら問い詰めてきた。それと同時に、他の仲間達も皆、「うんうん」と頷いていた。
必死な形相で問い詰めてきた小夜子に対して、春風はというと、
「……え、そんなに濃密でした?」
と、本気で「何言ってんですか?」と言わんばかりの表情でそう尋ね返したので、
『どう見ても濃密だろうがぁあああああああ!』
と、仲間達はピシッと青筋を立てて一斉に突っ込みを入れた。
ただ、冬夜と雪花と静流はというと、
「うーん。まぁ確かに……」
「私達から見てもちょっと……」
「濃密よねぇ……」
と、遠い目をしながら「ハハ……」と乾いた笑い声をこぼしていた。
その時、
「ねぇ、ちょっといいかしら?」
と、ユリウスが「はい」と手を上げた。
「? 何でしょうか?」
と、春風が尋ねると、
「あなたがあの『村』での訓練のおかげでで『力』が使えるようになったわかったけど、それは今でも出来るの?」
と、ユリウスが真剣な表情で尋ね返してきた。
春風はその質問に対して、
「出来ますよ」
と答えると、スッと右腕を上げて、手の平で小さな『竜巻』を作った。勿論、皆が見てもわかるように色をつけて、だ。
それを見て、ユリウスを始めとした仲間達は「おおっ!」と歓声をあげた。
「え、は、ハル兄さん、そ、それって、スキルによるものじゃ、ないの?」
と、ルーシーが尋ねると、
「ああ、こいつはこの世界風に言うなら、俺の中にある『風』属性の魔力を放出させただけだよ。放出させるだけなら、スキルとか必要ないんだ」
と、春風はあっけらかんとした表情で答えた。
「う、嘘でしょ? あの『村』の人達、一体何者なのかしら……」
と、ユリウスが考え込んでいると、突然壁の一部がゴゴゴと開いて、新たな通路が現れた。
春風はその通路を見て、
「あ、ほら、新しい通路が出てきましたよ! さぁ、みんな、先へ進みましょう!」
と、早歩きで通路へと進み始めたので、
「あ、コラ! 逃げるな!」
と、小夜子と仲間達はすぐに春風を追った。
その最中、春風はというと、
(……でも、村長さんや水音達はともかく、何で明華さんやミネルヴァさんも出てきたんだろう?)
と、疑問に思い、
「何か、凄く嫌な予感がするなぁ」
と、小さい声でそう呟いたが、
「ま、考えても仕方ないか」
と、春風はそう考えて、これ以上考えるのをやめた。
しかし、まさか近い将来、その「嫌な予感」が現実のものになっしまうとは、この時の春風は知るよしもなかった。




