第469話 春風編30 「幸村春風」と「新たな出会い」4
今回は、いつもより短めの話になります。
(あぁ、そういえばこんな感じだったよなぁ……)
目の前で起きた中学2年の春風と、同じく中学2年の美羽との記憶を見て、春風は遠い目をしながら心の中でそう呟いていると、また眩い光と共に景色が変わった。
気がつくと、今度は何処かの住宅街の中に立っていて、「今度はどの記憶だ?」と春風が辺りを見回すと、
(あ、これも中学2年の時の記憶だ)
と、思い出した。
するとその横を、
「ったく、師匠ったら一体どういうつもりなんだよ」
(あ、中学2年の時の俺だ)
愚痴をこぼしながら自転車を走らせる、中学2年の春風が通り過ぎた。
途中止まってスマホの画面を見ながら自転車を進ませる中学2年の春風が向かった場所、そこは、大きな和風の屋敷の前で、その玄関についている表札には、「桜庭」と書かれていた。
「でっか! え、ほんとにここでいいのか?」
と、頭上に「?」を浮かべた後、中学2年の春風はピンポーンとインターフォンを鳴らして、
「すみませーん!」
と叫んだ。
すると、玄関の扉が開かれて、
「いらっしゃい、マイスウィートハニー!」
と、その向こうから現れた凛依冴に、思いっきり抱きしめられた。
「あの、師匠。恥ずかしいのでその呼び方やめてほしいんですが」
と、中学2年の春風がジト目で凛依冴を見ながらそう言うと、
「えー? いいじゃん、春風は私の愛しい弟子で、私の愛しいハニーなんだから」
と、凛依冴はギュッと中学2年の春風を抱きしめたままそう返した。
その時だ。
『……どちら様ですか?』
と、その屋敷の住人と思われる人達がそう尋ねてきたので、
「紹介するね。この子は春風。私の弟子兼、愛しのマイスウィートハニーよ」
と、凛依冴がそう答えた。
その後、屋敷の住人達はというと、
『……』
と、中学2年の春風をジッと見つめていた。全員、顔を赤くしながら無言で突っ立っていたので、
「あの……はじめまして、幸村春風といいます。『スウィートハニー』は余計ですが、間凛依冴の弟子をしております」
と、中学2年の春風はそう自己紹介した。
すると、それを聞いてハッとなったのか、
『は、はぁ、どうも』
と、屋敷の住人達は顔を更に赤くした。
そんな彼らを、中学2年の春風は「なんだぁこの人達は?」と言わんばかりの表情になると、凛依冴はクスクスと笑いながら、
「あ、因みにこの子、男の子だからね」
と、凛依冴がそう付け加えたので、住人達は皆、「え?」と一斉に頭上に「?」を浮かべてポカンとなった。
それを見た中学2年の春風は、「ハァア」と盛大に溜め息を吐いた後、
「……はい。俺、顔はこんなですが、男です」
と、何処か自嘲気味にそう言った。
それを聞いた住人達は、次の瞬間、
『な、何だってぇえええええええっ!?』
と、皆、一斉に驚愕の声をあげた。
そんな住人達を見て、
「アーハハハハハハハッ!」
と、凛依冴は腹を抱えて爆笑し、
「なんなんだよったく。俺は一体、何の為にここに呼ばれたんだよ」
と、もの凄く不機嫌そうな表情になった。
そんな異様な光景を見て、
「そう、これが俺と水音……いや、桜庭さん達との『出会い』だったんだ」
と、春風は再び遠い目をするのだった。




