第468話 春風編29 「幸村春風」と「新たな出会い」3
少女、山主明華との出会いの後、また眩い光と共に景色が変わり、気がつくと、春風は今の自分の家である喫茶店「風の家」の店内に立っていた。
(今度はどの記憶だ?)
と、考えていると、
「オヤジ、ちょっと夜風に当たってくる」
「おう、車に気をつけろよぉ」
「ハハ、わかってるよ」
と、春風の目の前で、自分と涼司がそう言い合っていたので、その瞬間、
「あ、中学2年の時の俺だ」
と、春風は思い出したと言わんばかりの表情になった後、中学2年の春風を追うように、春風も店の外へと出た。
外に出ると、時刻は夜になっていて、星々がよく輝いていた。
「さぁて、行きますか!」
と、中学2年の春風がそう言うと、両足に風を纏わせて、
「いよっと!」
と、力いっぱいジャンプし、その勢いで、家の屋根からビルの屋上へと、次々と飛び移った。勿論、その間誰にも見つからないようにしながら、だ。
ある程度進んだところで、
「よーし、今日もいい感じだ」
と、中学2年の春風が静かにそう呟くと、
「じゃ、もうちょっと力を込めますか!」
と、両足に更に風を纏わせて、
「いっけぇ!」
と、再び力いっぱいジャンプした。
ところが……。
ーーバシュン!
「……へ?」
足に纏わせていた風が突然消えたのだ。
まさかのアクシデントに、
「う、嘘だろ? よりにもよってこんな時に!?」
と、慌てふためく春風。
そう、実は風が消えたのは、中学2年の春風が丁度限界の位置までジャンプしたタイミングだったのだ。
春風は「まずい」と思って、すぐに両足に新しく風を纏わせたが、
「あれ、上手く出来ない!?」
なんと、ジャンプする際の力の加減を間違えたのか、思うように風を集めることが出来なかったのだ。その結果、
「お、落ちるぅううううううう!」
春風はもの凄く高い位置から、まっさかさまに落ち始めた。
「や、やばいやばいやばい! 何とかしないと!」
と、焦っていると、
「……て、人!? 人がいる!?」
目線の先に人が見えたので、
「うわあああっ! ど、ど、どいてくれぇえええええええっ!」
と思わず悲鳴をあげた。
その後、中学2年の春風は少量ではあるが全身に風を纏わせつつ、どうにか受け身を取ろうとした。
その結果、先ほど見えた人とは少し離れた位置に落ちた。
「痛た……って、あれ? 思ったほど痛くない?」
と、落ちた後でそう呟いた中学2年の春風が、両手で自身の下を触れてみると、
「お、おぉう? 何か、クッションのようなもののおかげで助かった……」
と、何やら柔らかいものがあるのがわかったので、それをよく見みると、
「……って、うわぁ! よく見たら人じゃねぇかよ!」
と、どうやら人の、それも自分と同じ年頃の少年の上に落ちたことがわかって、中学2年の春風はショックを受けた。
更に周りをよく見ると、そこには数人の少年少女達がいたので、中学2年の春風は「あ、どうも……」と挨拶した。
だが、
「こ、こ、この女ぁ! よくも……!」
と、その中の1人の少年がそう叫んで、中学2年の春風殴りかかってきたのだ。
その瞬間、中学2年の春風は、
「ん、『女』って、俺?」
と、自分が女の子呼ばわりされたという事実に気づいて、ブチっとなり、
「……あぁ? 俺は男だぁあああああっ!」
ーードゴォ!
「グフアアアッ!」
怒ってその少年を、思いっきりぶっ飛ばした。それがきっかけになったのか、
「こ、こいつぅ!」
「女のくせにぃ!」
と、他の少年達も一斉に春風に襲いかかった。
すると、彼らの言葉に中学2年春風は更にブチッとなって、
「だ、か、らぁ! 俺は男だってのぉおおおおおっ!」
と、それまで自分が下敷きにしていた少年の両足を掴み、まるでハンマー投げの要領でそれをぶん回して、少年達を思いっきりぶっ飛ばした。
ーーバコォン!
『ぎゃあああああああっ! 酷いいいいいいいっ!』
と、少年達はそう悲鳴をあげると、皆、ボトボトと地面に落ちた。
その後、中学2年の春風は武器にしていた少年をポイッと捨てると、
「ったく、失礼な連中だぜ。だぁれが女だっての」
と言ってその場を去ろうとした、まさにその時、
「……幸村君?」
「え?」
不意に背後で自分の名前を呼ばれたので、中学2年の春風は「何だ?」と思って後ろを振り向くと、そこには地面にへたり込んだ、眼鏡をかけた少女がいた。
少女は目をパチクリとさせながら尋ねる。
「……あなた、もしかして幸村春風君?」
そう尋ねられた瞬間、中学2年の春風は、
「へ? あれ、あんた……じゃなかった、あなたは、同じクラスの天上美羽さん?」
と、その少女に向かってそう尋ね返して、
「あ、やべ! し、失礼しましたぁ!」
と、大慌てでその場を去ろうとした。
だが、
「ま、待ってぇ!」
と、その少女、美羽に呼び止められて、中学2年の春風は「うっ!」とその場に止まった。
中学2年の春風はそれでもその場から逃げ出そうとしたが、
「な、何でしょうか?」
と、ゆっくりと美羽の方へと振り向いた。
すると、
「こ、腰が抜けて動けないのぉ」
と、美羽は大粒の涙を流しながら、なんとも情けない声でそう助けを求めてきたので、
「……ハイイ?」
と、中学2年の春風は、なんとも間の抜けた声を漏らした。




