第459話 春風編20 そして、「光国」から「幸村」へ
今回は、いつもより長めです。
両親が炎に飲み込まれた後、周囲の景色がまた黒く染まり、辺りは真っ暗になった。
そんな状況の中で、春風はというと、
(そう、これが、俺がお父さんとお母さんを最後に見た時だった。そして、その後は……)
と、両親と別れた後のことを思い出し始めた。
7年前、両親によって脱出装置が起動した後、その衝撃を受けて、小学生時代の春風は意識を失った。
それから暫くすると、ガコンという音と共に、
「……イ! オイ! オイ、大丈夫か!?」
という声がしたので、小学生時代の春風はゆっくり目を開けると、
「……あ、りょうのじ……さん?」
目の前にいたのは、父・冬夜の友人、幸村涼司だった。
その後、涼司によって助け出された小学生時代の春風が見たのは、見るも無惨な瓦礫と化した、王立科学研究所の姿だった。
何故このようなことになったその理由はというと、涼司曰く、突然研究所から大きな爆発音がして、涼司は何が起きたのかと急いで駆けつけたが、どういうわけか研究所内に入ることが出来ず、その後も次々と爆発と火の手が上がっても、集まってきた国民達と共に、研究所が崩壊していくのをただ黙って見ているしか出来なかったのだという。
わけもわからないその状況の中、涼司は何か出来ることはないかと研究所の周囲をまわっていると、いきなり目の前に春風を乗せた脱出装置が現れたので、驚いた涼司がその脱出装置を調べようとした時、ハッチが開いて、そこで気を失った春風を発見したのだ。
(……で、俺とオヤジはその後、日本政府の関係者を名乗る人達が乗ってきたヘリコプターに乗って、ディモーニア王国を後にしたんだ)
と、春風が一通り思い出すと、また別の景色になった。
そこは、日本の現総理大臣、神代総一の邸宅だった。
「そう、日本に戻った俺と親父は、すぐに総一さんの家に連れ込まれて、そこでディモーニア王国で何が起きたのかを説明したんだ」
と、春風が小さくそう呟くと、
「……ちょっと待ってくださいよ。それ、本気で言ってるんですか?」
と、涼司が目の前にいる男性、総理大臣の神代総一を睨みつけながら尋ねた。
その質問に対して、総一は真っ直ぐ涼司と小学生時代の春風を見て答える。
「本気だよ。春風君には申し訳ないが、君にはこのまま、『ディモーニア王国で事件に巻き込まれて死んだ』ということにしてもらう」
その答えを聞いて、春風は「そ……」と何か言おうとしたがそれよりも先に、
「ふざけんなよ! こいつはなぁ、10歳で家族や大事な人達を亡くしたんだぞ! それだけでもキツいってのに、その上更に一緒に死んだことにするだぁ!? そんな馬鹿な話があってたまるかよ!」
と、涼司が総一に向かってそう怒鳴った。
だが、そんな涼司に対しても、
「そうだ、馬鹿なことを言ってるのは承知の上だ。しかし、君も春風君の話を聞いただろう? 『ブレイン・ロード』という連中の非道さを。奴らは目的の為なら平気で人の命を奪うような連中だ。もしそんな奴らに、春風君が生きているってことが知られれば、この子は間違いなく命を狙われるだろう。それも、多くの人達を巻き込みながら、な。私は総理大臣として、国民を守らねばならない義務があるんだよ」
と、総一は冷静な口調と態度でそう返してきたので、涼司は何も言えなくなった。
その後、総一は涼司が黙ったのを確認すると、
「すまないね春風君。私のことは、好きなだけ恨んでくれて構わないよ」
と、小学生時代の春風に向かって謝罪しながらそう言った。
その言葉に対して、小学生時代の春風は、
「それでいいですよ。僕の所為で、誰かが危ない目にあったりするなんて、嫌ですから」
と、何処か悲しみが込められたかのような笑みを浮かべてそう返した。
その言葉を聞いて、涼司はゆっくりと口を開いて尋ねる。
「ちょっといいですかい? 話は理解出来ましたが、そうなるとこいつはどうなるんですかい?」
総一は答える。
「勿論、彼はこのまま我々政府の管理下に置かせてもらうよ。死んだことにするとはいえ、いつ何処で連中に気づかれるかわからないからね」
その答えを聞いて、涼司は再び総一を睨むと、
「だったら、俺にこいつを引き取らせろ」
と、小学生時代の春風に視線を向けながらそう言った。
「……それは、本気で言ってるのかい?」
と、総一が尋ねると、
「ああ、本気だ。どうせこいつは死んだことになるんだろ? だったら、その後こいつには、俺の『息子』として新しい人生を生きてもらう」
と、涼司は真っ直ぐ総一を見てそう答えた。
その後、涼司は小学生時代の春風を見て、
「聞いての通りだ春風。俺は、お前を引き取る。俺が、お前の新しい『家族』だ」
と言った。
それを聞いて、
「りょうのじ……さん」
と、小学生時代の春風がそう言うと、眩い光と共に新たな景色に変わった。
「さぁ、着いたぞ春風!」
と、涼司に言われて、小学生時代の春風が目の前を見ると、
「あの、ここは?」
「決まってんだろ、俺とお前の、新しい『我が家』だ!」
(そうだ。ここは……)
そこは、現在の春風と涼司の「家」である、喫茶店「風の家」の前だった。
その後、小学生時代の春風は、
「あの……『風の家』って?」
と、店の名前を見て涼司にそう尋ねると、
「ああホラ、お前の名前に『風』ってあるだろ? で、俺の『涼司』って名前も、『風』のイメージが込められているんだ。だから、この店の名前は、『俺とお前っていう風が暮らす家』って意味を込めて、『風の家』ってわけよ!」
と、涼司は明るい口調でそう答えた。
その答えに小学生時代の春風は、
「え、えっと、りょうのじさ……」
と何かを言おうとしたが、
「おぉっと! 忘れたか春風? 俺とお前はもう『親子』なんだぜぇ」
と、涼司が遮ったので、
「あの、じゃあなんて呼べばいいですか?」
と、小学生時代の春風は再び尋ねた。
すると、涼司は「うーんと……」と考え込むと、
「『オヤジ』だな!」
と答えた。
「お、オヤジ!?」
「おうよ! 後お前、今日から一人称は『僕』じゃなくて『俺』な!」
「俺ぇ!?」
「そんで、俺相手に敬語もいらねぇぞ!
「ええ、そんな、不良みたいなんだけど!?」
「いいんだよ。『理想の男の中身』ってのは、9割が紳士、残り1割は不良なんだよ。で、お前は基本、優しくて良い奴なんだから、少しくらい不良なのが丁度いいんだよ」
「え、えぇ?」
と、そんな風なやり取りをした後、
「じゃ、そういうわけでぇ……」
と、涼司は先に入り口を開けて「我が家」に入ると、
「おかえり、春風!」
と、小学生時代の春風に向かって笑顔でそう言った。
その言葉を聞いて、小学生時代の春風は「あ……」と小さく呟くと、「我が家」に入って、
「……ただいま、オヤジ!」
と、笑顔で元気よくそう言った。
そんな2人を見て、春風は心の中で呟く。
(そうだ。この日を境に、俺は『光国春風』から、『幸村春風』になったんだ)




