第458話 春風編19 「別れ」の時
お待たせしました、本日2本目の投稿です。
そして、今回は「悲しい話」になります。
エネルギー発生装置の爆発と共に、周囲の景色が黒く染まった。
(そう。これがあの日起こった『事件』の真相だ)
と、春風が心の中でそう呟くと、また周囲の景色が変わった。
(あ、この『記憶』は……)
そこは、王立科学研究所内の廊下なのだが、大きく警報がなっている上に、あちこちの部屋で炎と黒煙が上がっていた。
そんな状況の中、廊下をゆっくりと進む者達がいた。
そう、春風の両親、冬夜と雪花だ。
そして、冬夜の背には、意識を失っている小学生時代の春風の姿があった。
それからある程度廊下を進んでいると、
「う、うーん。お父……さん? お母……さん?」
と、小学生時代の春風が目を覚ました。
「ああ、春風。気がついたかい?」
と、冬夜が尋ねると、
「……どう……なってるの?」
と、小学生時代の春風は意識がハッキリしないままそう尋ね返した。
それを聞いて、隣にいる雪花は「それは……」と答えるのを躊躇ったが、
「あのエネルギー発生装置の爆発で、ちょっと困ったことになっちゃってね」
と、冬夜はざっくりと小学生時代の春風に説明した。
その説明を聞いた後、小学生時代の春風は「そう……」と言ったが、ここで漸く意識がハッキリしたのか、
「お、お父さん、怪我、怪我は!?」
と、冬夜が撃たれたことを思い出した。
冬夜はその言葉を聞いて、
「ああ、大丈夫。ちょっと痛いけど、我慢出来ない程じゃないから」
と笑ってそう言ったので、小学生時代の春風はホッとなったが、またすぐにハッとなって、
「しょ、所長さんは!? リッキーさんや、アーヤさん達はどうなったの!?」
と、冬夜の肩を掴んで問い詰めた。
しかし、
「「……」」
冬夜も雪花も、その質問に答えることはなかった。
その後、小学生時代の春風は質問を変えて、
「あの人達は……アンディ……さんは?」
と、恐る恐る尋ねた。
その質問に対して、雪花は唇を噛み締めたが、
「彼らはもう、ここにはいないよ」
と、冬夜はそう答えた。
それから暫くの間、3人は無言で廊下を進んでいると、とある部屋に着いた。
冬夜は部屋の隅に小学生時代の春風を下ろすと、その部屋に設置された、とある機械を調べ始めた。
「……駄目だ。これじゃあ……」
「そう……」
と、冬夜と雪花がそんな話をしていたが、春風はその内容がわからなかった。
その後、近くでドォンという大きな音が鳴ると、
「セっちゃん、ごめん」
「いいよ、冬夜君」
と、冬夜と雪花は顔を見合わせて、何処か悲しそうな笑顔になった。
そして、
「春風、おいで」
と、冬夜が春風を抱き抱えると、彼を調べていた機械の中に寝かせた。
「お、お父さん、この機械、何?」
と、小学生時代の春風が尋ねると、
「緊急用の脱出装置だよ。これで、君を外に出すから」
と、冬夜は笑顔でそう答えたので、小学生時代の春風は「そうなんだ」と呟いたが、冬夜達の様子がおかしいことに気づいて、
「……ねぇ、お父さん達はどうするの?」
と、再び尋ねた。
その質問に対して2人は、
「「……」」
と、無言で困ったような笑みを浮かべた。
その瞬間、小学生時代の春風は2人が何をしようとしているのかに気づいて、
「だ、駄目だよ……!」
と、すぐに起きあがろうとしたが、それよりも早く脱出装置が起動して、春風は中に閉じ込められた。
「お父さん! お母さん! 何で!? どうして!?」
と、小学生時代の春風は中でドンドンと叩きながらそう叫んだが、
「ごめんね春風。これで逃げられるのは1人だけなんだ」
「ええ。だから、私達は一緒に行けないわ。ごめんなさい」
と、2人は穏やかな笑みを浮かべながらそう謝罪した。
それにショックを受けたのか、
「い、嫌だ、嫌だ嫌だ! 嫌だよ! お父さん! お母さん!」
と、春風は更にドンドンと叩きながらそう叫んだ。
しかし、それでも2人は穏やかな笑みを浮かべたまま、
「さようなら、大好きな息子、春風……」
「さようなら、私達の愛しい春風……」
「「どうか、生きて幸せになって」」
と言うと、近くのスイッチを押した。
それと同時に、部屋の中が炎に包まれて、冬夜と雪花はそれに飲み込まれた。




