第454話 春風編15 そして、「あの事件」へ2
必ず帰る。
小学生時代の春風が、小学生時代の歩夢達にそう誓った後、周囲の景色が変わった。
春風は「元の部屋に戻るのか」と思っていたが、気がつくと、元の部屋ではなく違う景色になっていた。
(こ、ここって、まさか……)
そこは、後に「あの事件」が起きた場所となるディモーニア王国、その国内にある空港の出入り口だった。
(ああ、やっぱりな)
と、春風がそんなことを考えていると、
「さぁ、着いたよ春風」
「う、うん」
という声が後ろから聞こえたので、春風はすぐに後ろを振り向くと、そこには小学生時代の春風と、父・冬夜、母・雪花、そして所長の元作達「愛研」のメンバーの姿があった。
「うわぁ!」
初めて見る景色に、目をキラキラと輝かせた小学生時代の春風と、それを優しく見つめる冬夜達を見て、
(お父さん。お母さん。所長さん。みんな……)
と、春風が悲しそうな表情を浮かべていると、
「あれ、冬夜? 冬夜じゃねぇか!」
という声がしたので、春風、そして、小学生時代の春風達が一斉にその声がした方へと振り向くと、そこには1人の日本人男性がいた。
その日本人男性を見て、冬夜は口を開く。
「……あ、りょうのじ」
その言葉を聞いて、日本人男性はズルッと転けそうになると、
「りょうのじ言うな! 涼司だ涼司、幸村涼司だ!」
と、彼は怒鳴りながら冬夜の側まで近づき、自身の名を名乗った。
(オヤジ……)
そう、日本人男性の正体は、後に春風の養父となる幸村涼司だったのだ。
「ったく、相変わらず人をあだ名で呼ぶなお前は!」
「えぇ? いいだろ?」
と、プンスカと怒る涼司と、特に悪びれる様子もない冬夜。
するとそこへ、
「あー、すまんがどちらさんだ?」
と、元作が冬夜の耳元でそう尋ねてきたので、
「ああ、紹介しますよ。彼は学生時代の友人の、りょうのじこと涼司君。りょうのじ、こちらは僕が働いている研究所の所長の、愛染元作さん」
と、冬夜は元作と涼司を交互に見ながらそう紹介した。
「おお、そうだったか。はじめまして、愛染総合科学研究所所長の、愛染元作という」
「こちらこそはじめまして、幸村涼司といいます。あなたのお話は、色々なところで聞いております」
と、元作と涼司がそう自己紹介しあうと、2人はかたく握手をした。
冬夜はそれを見た後、
「で、りょうのじ、どうして君がここにいるんだ?」
と、涼司に尋ねると、
「ん? ああ、実はな、漸く必要な分が揃ってきたから、最後にここで何か撮ろうと思ってな」
と、涼司は懐から何かを手に取りながら答えた。
その何かを見て、
「む、それは、カメラか?」
と、今度は元作が尋ねると、
「ええ、実は俺、とある『夢』がありまして、その『夢』を叶える為に、世界中を回って珍しいものや綺麗な景色を写真におさめているところなんですよ」
と、涼司は穏やかな笑みを浮かべてそう答えた。
その答えを聞いて、元作達が「おおっ!」と驚いていると、
「ん? そこにいるのは……」
と、涼司がとある方向を見て口を開いた。
「あ……」
その視線の先には、小学生時代の春風がいた。
小学生時代の春風は「こ、こんにちは」と言うと、すぐに冬夜の後ろへと隠れた。
涼司はそれを見て、
「あれ? なんか俺、怖がられてる?」
と、ショックを受けたが、
「無理もないよ、君が初めて春風と出会った時、この子はまだ3歳の時だったから、覚えてないんじゃないかなって思う」
と、冬夜は春風の頭を撫でながらそう言った。
その言葉を聞いて、涼司は少しの間「うーん」と考え込むと、
「よし、それなら……」
と、涼司は春風に近づき、
「改めて、はじめまして。俺は幸村涼司、お前さんのお父さんの友達だ。よろしくな」
と言って、スッと右手を差し出した。
その瞬間、それまで涼司を警戒していた春風は、
「み、光国春風です、よろしくおねがいします」
と、その右手をギュッと握った。




