第453話 春風編14 そして、「あの事件」へ
春風達が新たな通路を進み、新たな部屋に着くと、またまた謎の火の玉が現れたので、
(多分、次は『あの事件』についてだろうなぁ……)
と、春風はそう考えながら、その火の玉に触れた。
次の瞬間、眩い光と共に周囲の景色が変わり、春風はとある場所に立っていた。
その場所とは、かつて「光国春風」だった時の自分の部屋で、そこには小学生時代の春風の他に、小学生時代の歩夢と、その兄である剛希、そして凛依冴の3人がいた。
(ああ、懐かしいなこの光景……)
と、春風がその時のことを思い出していると、
「えぇ!? フーちゃん海外に行っちゃうの!?」
と、小学生時代の歩夢がそう驚きの声をあげて、それに続くように、剛希と凛依冴もショックを受けた。
そんな彼女達を見て、
「あー、うん。所長さんがね、とある国で行われるっていう大きなイベントみたいなものに招待されてね、お父さんやアンディさん達もそれに行くことになったんだ。で、それならついでにその国を観光していこうってことで、僕とお母さんも一緒に行くことが決まったってわけ」
と、小学生時代の春風は若干戸惑いながら、一緒に行くことになった「理由」を説明した。
その説明を聞いて、小学生時代の歩夢が「そうなんだ……」とシュンとしていると、
「ねぇ、その国って何て名前なの?」
と、凛依冴が尋ねてきた。
「え? えっと、確か『ディモーニア王国』っていう小さな国だって言ってたよ」
と、春風が答えると、
「ディモーニア……ああ、そうか!」
と、凛依冴は手をポンと自身の手を叩いた。
その仕草に小学生時代の春風達がビクッと驚いていると、凛依冴は話を続ける。
「ディモーニアって言ったら、最近、『未知のエネルギー』を発見したってニュースで見たわ! で、その研究をする為に、世界中から科学者達を集めているってのもあったわ!」
「そうそう、それ。で、所長さんやお父さん達『愛研』のメンバーも、一緒にその研究をしようって声がかかったんだ。で、その間僕とお母さんは観光ってことで……」
「そういうことね……」
春風の説明を聞いて、凛依冴が納得した表情を浮かべていると、
「ディモーニア……か」
と、それまで黙っていた剛希が口を開いた。
「? お兄ちゃん、どうしたの?」
と、小学生時代の歩夢が剛希に話しかけると、
「ああ、実はな、そのディモーニアって国、なんかあまりいい噂を聞かない国だって誰かが言ってたから、ちょっと心配になってな」
と、剛希はチラッと春風を見た。
「え、それってあくまでも『噂』があるってだけですよね?」
と、春風が剛希に尋ねると、
「あ、ああ。確かにそういう噂があるって話を聞いただけなんだよなぁ」
と、剛希は恥ずかしそうに自分の頬をぽりぽりかいた。
それを見て、小学生時代の春風は「アハハ」と小さく笑うと、シュンとなっている小学生時代の歩夢が見えた。
よく見ると目に涙を浮かべているのが見えたので、
「大丈夫だよユメちゃん。あくまでも『噂』だから……」
と、小学生時代の春風は、すぐに小学生時代の歩夢の側に近づき、優しい言葉で彼女を励ました。
しかし、それでも小学生時代の歩夢は何処か不安そうな表情になったので、
「うーん。大丈夫! 僕はちゃんとユメちゃん達のところに帰るから、ね?」
と、更に必死で励ました。
それに対して、
「……本当?」
と、小学生時代の歩夢が不安そうな表情でそう尋ねて来たので、
「勿論、本当だよ! お土産だって用意するから、みんな、楽しみにしててね!」
と、小学生時代の春風は、元気よく胸を張って、小学生時代の歩夢達にそう誓った。
それを見て、小学生時代の歩夢は安心したのか、
「うん、わかった。楽しみに待ってるね」
と、ニコッと笑った。
因みに、凛依冴はそんな2人を見て、
「むぅ、ユメちゃんが羨ましい」
と、歩夢に対して嫉妬の念を送っていたが、それは今はスルーしよう。
そんな部屋の中での出来事を見て、
(そうだ。この時の俺は、ユメちゃんを元気にしなきゃって思って、『必ず帰る』って誓ったんだよなぁ)
と、春風は小学生時代の自分達を見てそんなことを考えていたが、
(だけど、その誓いが果たされることはなく……俺は『あの事件』に巻き込まれて、『大切なもの』を失ったんだ)
と、表情を暗くした。




