第450話 春風編11 父(今は兄)からの「謝罪」
「……そう。この時の俺は、確かに『賢者』に憧れを抱いてたんだ」
元いた場所に戻ってから、春風はそう呟いた。
その呟きを聞いて、共に記憶を見ていた冬夜は若干気まずそうに口を開く。
「うーん。確かに、『地球』風で言うなら、『賢者』=『世界一の科学者』っていうのはあってるかもしれない。だけど……」
「?」
「正直に言うと、僕は……僕や所長達は、春風が思ってるような素晴らしい人間じゃないよ。本当に素晴らしい人間なら、7年前のあの時、君を置いて死んだりなんてしないから……」
そう言うと、冬夜は悲しそうな表情で下を向いて、
「ごめんね、情けないお父さんで。本当に、ごめん」
と、春風に向かってそう謝罪した。
「冬夜君……」
そんな冬夜を見て、雪花も、そして春風の仲間達も、悲しそうな表情になった。
しかし……。
「それでも……」
「?」
「それでも、お父さんや所長さん達は、俺にとって大切な人達だよ。だって、いつも凄く楽しそうに仕事しているし、俺やお母さんのことも置いてったりしなくて、寧ろ俺達と一緒にいる時間を、凄く大切にしてくれたから」
と、春風は笑顔でそう言った。
その言葉を聞いて、冬夜は「春風……」と呟くと、春風は更に話を続ける。
「まぁ、確かにお父さん達が死んでから、悲しいことや理不尽なことがいっぱいあったけど、別に悪いことばかりじゃなかったよ。オヤジと一緒に店やってるの楽しかったし、近所の人達も良い人ばかりだし、マリーさんの弟子になってから、あちこち『旅行』しまくったし、その間に水音とも出会えて、この世界に来てから、いろんな人達にいっぱい出会ったし、それに……」
『?』
「こうして、またお父さんとお母さんに会えただけじゃなくて、オヤジの奥さん……いや、もう1人の母さんに会えたから」
「は、春風……!」
春風の言葉を聞いて、静流はジーンと泣きそうになった。
そして、
「まぁ、そんなわけでさ……」
春風は最後に言う。
「これからもよろしくね、兄さん」
それを聞いて、冬夜は「ハハ」と小さな声で笑うと、
「ああ、僕達もよろしくね。そして、今度こそ君を置いていったりしない、絶対に」
と、目元を拭いながら、春風に向かって笑顔でそう言った。
その言葉に春風を除いた周囲が、ジーンと感動したかのような雰囲気に包まれたが、
「……ところでぇ」
次の春風の言葉で、その雰囲気が崩れた。
「ユメちゃん。ミウさん。ルーシー。何で君達、俺に抱きついているのかなぁ?」
と、そう尋ねた春風の右腕には歩夢、左腕には美羽、そして背後にはルーシーがギュッと抱きついていた。
尋ねられた3人は答える。
「フーちゃんが悪いんだよ」
「そうよ、師匠とあんなにイチャイチャしちゃってさ」
「う、うん。は、ハル兄さん、全然、嫌そうな顔、してなかった」
そう答えると、3人は抱きつく力を強めた。
それに対して、
「え、えぇ? お、俺が悪いの?」
と、春風が戸惑いの表情を見せると、
「ハルッち……」
と、不意に恵樹が話しかけてきた。
「な、何、ケータ?」
と、春風がゆっくり恵樹の方へと視線を移すと、
「今のハルッちにピッタリな言葉を贈るね」
と、恵樹は表情を暗くしながらそう言ったので、春風は頭上にいくつもの「?」を浮かべた。
そんな春風向かって、恵樹は言い放つ。
「リア充、爆散しろぉ!」
「な、なんでやねん!?」
「ハルッちに突っ込みの資格はなぁい!」
恵樹のあまりにも酷いセリフを聞いて、
「そ、そんなぁ!」
と、春風はショックで膝から崩れ落ちそうになったが、残念な……いや、幸福なことに、抱きついている歩夢達に支えられていたので、そうはならなかった。
ただ、受けた精神的ダメージは深いようだが。
それを見て周囲が皆「アハハ」と笑い出した。
その後すぐに、ゴゴゴという音と共に新たな通路が現れたので、
「さ、さぁ、みんな! 次行こうか、次!」
と、春風はなんとか誤魔化しながら、仲間達と共にその通路を進むことにした。




