第432話 水音編28 白い水音の「疑問」
3年前の出来事の「記憶」を身終えると、ループス達はまた元の真っ暗な闇の中へと戻った。
分身1号は「記憶」の内容を思い出して悲しそうな表情をし、更に大きなった水音は今も蹲ったまま、
「ごめなさい……ごめんなさい……」
と、謝罪をし続けていた。
そんな更に大きくなった水音をループスは心配そうに見つめたが、ふと白い水音を見て、
「ん? オイ、どうした?」
と、口を開いた。その言葉に分身1号が「ん?」と白い水音の方を向くと、彼は今何か考えことをしていたようだった。
ループスに声をかけられた白い水音は、それまでしていた考える仕草を解くと、
「ループス様、何かおかしくありませんか?」
と、真面目な表情でループスに向かって尋ねた。
「『おかしい』って?」
と、ループスが首を傾げると、
「僕は水音君の中に植え付けられてから今日まで、彼の中のことを十分に理解した気でいたのですが、『記憶』に関してはどうしてもわからなかった部分があるのです」
と、白い水音はそう答えた。
その答えを聞いて、
「わからなかった部分?」
と、今度は分身1号が白い水音に尋ねると、
「幼少期の、とある部分だけが、何故か見ることが出来なかったのです」
と、白い水音は分身1号に向かってそう答えた。
「オイ、それってもしかして、今まで俺達が見てきた記憶のことか?」
と、ループスが再び尋ねると、
「ええ、今回初めてその記憶を見たのですが、どうも水音君がループス様達に話したものとは何か違うように感じたのです」
と、白い水音はコクリと頷いてそう答えた。
「『違う』……だと?」
「はい。例えば最初に見た従兄弟殿達との記憶ですが、水音君は彼らにいじめられていたと言ってましたが、あの場面はどう見ても、『いじめられた』というより、『後ろにいる何かを庇っていた』ように見えたのです」
「何かって、何なの?」
「残念ながらそれは僕にもわかりませんでした。よく見ようとすると、何故かその辺りだけが黒く染まっていたのです」
「マジかよ」
「それだけではありません。お爺さんとの口論していた時も、やはり彼は何かを庇っていた様子でした」
「「……」」
「そして極め付けは、3年前の記憶です」
と、白い水音がそう言うと、更に大きなった水音は蹲ったままビクッとなった。
白い水音は続ける。
「妹さんが傷つけられて、少年達に取り押さえられた際に、水音君は彼らに向かって叫んでましたよね?」
「ああ、途中から何故か何を言ってるのかわからなかったがな。その話をした時、水音は『陽菜に手を出すな!』って言ってたが」
「う、うん、僕もそう聞いたけど」
「ですが、そう叫んでいた時の水音君の表情は、『妹を傷つけられて怒った』というより、何か『焦った』ような感じでした」
「焦った?」
「ええ、まるで、この後起こる『とんでもないこと』から、少年達を遠ざけようとしているかのような、そんな感じの焦りでした」
「……めろ」
「何だよ、『とんでもないこと』って?」
「それはわかりません、あくまでも『そんな感じがした』ってだけですから。そして、全てが終わった時の部分ですが、ループス様は気づいてましたか? 水音君やご家族、従兄弟殿達の他に、あの場にもう1人、『女性』がいたのを」
「ああ、そういえばいたな。それが?」
「あそこにいたのは、師匠の凛依冴殿でした」
「何だと……って、あ! そういえば、あの出来事の後、水音の家に凛依冴殿が来たって言ってたな! ん? ちょっと待てよ」
そう言って、ループスが蹲った更に大きなった水音に視線を移すと、
「お前、凛依冴殿があの場にいるって知ってたか?」
と、尋ねた。
すると、更に大きなった水音はピタッと震えを止めて、
「……知りません」
と、小さく答えた。その答えを聞いて、ループスと分身1号は「どういうことだ?」と言わんばかりに頭上にいくつもの「?」を浮かべた。
その状況の中、白い水音が口を開く。
「これはあくまでも『推測』ですが……」
「「?」」
「水音君、君は僕達にまだ『言ってないこと』があるんじゃないか?」
と、白い水音がそう尋ねると、更に大きなった水音はゆっくりと顔を上げて、白い水音を睨みつけて、
「……何を、言ってるの?」
と、尋ね返した。
その様子を見て、ループスと分身1号は更に頭上に「?」を浮かべていると、白い水音はそれに構わず話を続ける。
「君が少年達に向かって叫んだ後、記憶がブツリと切れていたよね? もしかして、あの後、何か『とんでもないこと』が起きたんじゃないかな?」
と、白い水音がそう尋ねると、更に大きなった水音はゆっくりと立ち上がって、
「……違う」
と、白い水音を睨みながら答えた。
そんな更に大きなった水音を見て、ループスが白い水音に尋ねる。
「だ、だから何だよ『とんでもないこと』って? もしかして、水音の『暴走』以上にやばいことが起きたってか?」
「……違う」
「ええ、ですから本当にあくまでも『推測』ですが、恐らくあの叫びの後、水音君の暴走とは違う『何か』が起きていて……」
「……違う違う」
「その『何か』によって母上殿が……」
と、白い水音がその先を言おうとしたその時、
「ちがぁあああああうっ!」
と、更に大きなった水音はそう叫んで、全身から青い炎を噴出させた。
そしてその姿は、3年前の時と同じ、中学時代の水音の姿に変わっていた。
中学時代の水音は、全身を青く燃やしてループス達を睨みながら叫ぶ。
「全部僕がやったんだ! 僕が航士達を、母さんを傷つけたんだぁあああああっ!」




