第357話 アデレードとリアナ2
「……え、断られたの!? リアナ、断ったの!?」
と、アデレードとリアナの「ファースト・コンタクト」を聞いた春風が、驚きながらアデレードにそう尋ねると、
「ああ、思いっきり断られたよ。それも『え、何こいつ? 超めんどくさいのが来たんだけ」と言わんばかりのもの凄く嫌そうな表情でね。私、これでも『王女』なんだけどなぁ」
と、アデレードは遠い目で「ハハ」と笑いながらそう答えた。よく見ると、その瞳は涙で濡れていた。
それを見た春風は、
「え、えぇっと、その後どうなったんですか?」
と、焦ったように再び尋ねると、
「ああ、それはね……」
と、アデレードは表情を変えずに続きを話した。
そして、時はリアナとの出会いに戻って、
「お願い! 一回だけでいいから私と戦ってくれ!」
リアナに断られたアデレードは、すぐに両手をパンと合わせてそう頼み込んだが、
「だから、嫌だっていってるでしょ」
と、リアナはもっと嫌そうな表情でそう答えた。
「そんなこと言わずにどうか!」
「嫌だってば……」
そんな2人のやり取りを見て、周囲の人達は皆オロオロしていた。
すると、「あ、そうだ!」と何かを閃いたアデレードは、
「じゃあ、食事! 戦ってくれたら、今日の夕食私が奢るから!」
と、提案してきたので、それを聞いたリアナは「ハァア……」と深い溜め息を吐くと、
「わかった、わかったよ! じゃあ1回だけね! で、勝っても負けても文句は言わない。これでいい?」
と、うんざりしたかのような表情でそう言った。
アデレードはそれを聞いて、
「うんうん、それでいいよ! ありがとう!」
と、目に涙を浮かべながら嬉しそうにそう返した。
(オイオイ、それでいいのか?)
と、周囲が呆れ顔でそう思っていると、
「あ、そうそう、言い忘れたけど……」
と、リアナが何かを思い出したかのようにそう言ったので、アデレードは頭上に「?」を浮かべると、
「ほんっとうにめんどくさいんだけど……私、勝つ気でいくからね?」
と、リアナは真剣でそう言ってきたので、
「いーや、勝つのは私だ!」
と、アデレードも負けじとギラリとした笑みを浮かべてそう言い返した。
2人はお互い睨み合いながら、それぞれの武器を構える。
周囲が緊張に包まれる中、審判役の職員が宣言する。
「そ、それでは、両者、始め!」
その瞬間、2人は同時に相手に向かって飛びかかり、お互いの武器を何度もぶつけ合った。
その後も2人は、お互い一歩も引かない戦いぶりを周囲に見せた。
豪快に大剣を振るいながらも一流の戦士のように戦うアデレードに対し、美しくも何処か獣のような戦い方をするリアナ。
そんな2人の戦いぶりに、その場にいる誰もが「オオ……」と見惚れていた。
そして、アデレード自身も、
(この子、本当に強い!)
と、心の中で喜びの声をあげた。
(ああ、私はこういう戦いをしたかったんだ!)
そして、アデレードは嬉しさのあまり、
「[狂人化]、発動!」
と、自身の持つスキルを発動した。
「ヒャッハー! さぁ、ドンドンいくよぉーっ!」
禍々しい赤いオーラを纏った、ムキムキボディとなったアデレードはそう叫びながら、リアナに何度も攻撃を仕掛けたが、
「……ふーん」
と、リアナは落ち着いた表情でそれらを全て回避した。
そして、何度目かになる回避をした後、
「それじゃあ私も、少し本気を出すかな」
と小さく呟いた。
それを聞いて、アデレードは「え?」と間の抜けた表情になると、リアナはその手に握る武器を構え直して、
「いけぇ、『燃え盛る薔薇』!」
と、その武器をアデレードに向かって投げ槍のように投げた。
「なっ!?」
驚いたアデレードは、すぐにその武器を大剣で弾いたが、ふと気がつくと、すぐ側にリアナがいた。
その後、リアナはガシッとアデレードの顔面を鷲掴みにすると、
「ハァッ!」
と高くジャンプして、
「うおりゃあああああっ!」
と、そのまま闘技台の上に思いっきり叩きつけた。
「グハァ!」
何が起きたのか理解出来なかったアデレードは、そこで意識を失った。
気がつくと、アデレードは総本部にある医務室ベッドの上にいた。
側にいた職員に、
「戦いはリアナ・フィアンマさんの勝利に終わりました」
と教えられると、
「そう、ですか」
と、アデレードは悔しそうな表情になった。
そんな彼女に、職員は「あ、そうだ」と思い出したかのように口を開く。
「リアナ・フィアンマさんから伝言を預かっています」
「?」
「『ご飯の奢りはまた今度ね』だそうです」
「!」
そう言われた瞬間、
「ハハ、そうですか」
と、アデレードは「ハハ」と小さく笑いながら言った。
(リアナ・フィアンマ、か)
とまぁ長くなってしまったが、これが、アデレードが生まれて初めて「敗北」を味わった時の出来事だった。




