間話3 残された者達(五神教会編)
今回はいつもより短めです。
それは、勇者と王族達が、それぞれの思いに耽るのと、同じ時間帯の時のことだった。
セイクリア王国の王都には、ウィルフレッド達王族が暮らす王城の他に、この世界の宗教組織である「五神教会」の総本部がある。その総本部の中にある一室にて、1人の男が、配下の信者からの報告を受けていた。
彼の名は、モーゼス・ビショップ。この五神教会の、現教主である。
「それで、『勇者』の様子はどうでしたか?」
報告を聞き終えて、モーゼスが信者にそう尋ねると、
「はい、昼間の一件で若干精神的に不安定な者がおりますが、全員、王宮の自室で休んでおります」
と、信者は姿勢を正した状態でそう答えた。
「そうですか。それと、あの『少年』についての情報はありませんか?」
「いえ、残念ながら門番の目撃を最後に、新たな情報は入っておりません」
「わかりました。下がってください」
そう言うと、モーゼスは神官を部屋から退出させた。
「失礼を承知でお伺いしますが、あの『少年』はこれからどうしますか?」
神官が部屋から出た後、モーゼスの側近らしき男性がそう尋ねると、モーゼスは「ふむ」と言って、
「放っておきなさい」
と、穏やかな表情で言った。
「よろしいのですか?」
側近の男性が再びそう尋ねると、
「『勇者』の称号を持たないただの少年に、一体何が出来るのですか?」
と、モーゼスは穏やかな表情のままそう答えたので、
「……それも、そうですね」
と、側近の男性はそう納得した。
「もう何もなければ、貴方も下がりなさい」
「ハッ! 失礼します」
そう言って、モーゼスは側近の男も退出させた。
今、部屋の中には自身のみとなったのを確認すると、モーゼスは穏やかな表情を一変させて、
「クソ! あの忌々しい小僧が!」
と、怒りの感情を露わにした。
モーゼスが怒りを向けた「少年」。
それは、召喚された「勇者」の1人でありながら、「勇者では無い」と言って王都の外へと飛び出した少年、幸村春風のことだった。
実はこのモーゼスという男は、昼間謁見の間で王族達と共に「勇者召喚」に立ち会っていた人間の1人であり、当然、春風の豹変&大暴れを知っていて、それ以来春風に対して「憎しみ」とも言えるほどの悪感情を抱いていた。
「神聖なる『勇者召喚』に抵抗しただと!? 自分は勇者では無いから国を出て行く許可をくださいだと!? ふざけおってぇ!」
一通り叫んだモーゼスは、暫く肩で息をしていると、だいぶ落ち着いてきたのか、「ふぅう」と深呼吸すると、また穏やかな表情に戻って、
「まぁ、良いでしょう。まだ『勇者』達は全員こちらに残っている。焦ることはない」
そう言うと、部屋の窓を開けて夜空を見上げた。
「…… フン。『巻き込まれた者』か」
そうボソリと呟くと、
「『勇者』になれなかった『はみ出し者』が、『神』に逆らったこと、そしてここを飛び出したことを後悔して……そのまま勝手に野垂れ死ぬがいい」
と、ニヤリと笑って醜く顔を歪ませながら言った。
その後、すぐに表情を整えて、
「さて、もう寝ましょうか。明日も忙しくなる」
そう言って、モーゼスは部屋を後にした。
王都を飛び出した少年、春風を「何も出来ない者」と決めつけて、放置する事に決めた男、モーゼス・ビショップ。
彼は後に、この時の「選択」を激しく後悔する事になるのだが、それはまた、別の話という事で……。
前作ではこの男、モーゼスの話と一緒にもう1人の人物の話を書きましたが、改訂版である今作ではこの男のみの話というつもりで書きました。
もう1人の人物につきましては次の話で書きます。そして、その人の話で、間話を終了とします。
それと、因みにですが、30話に出てきた「5神教会」の「5」を「五」に変えました。以後、「五神教会」とさせていただきます。




