第327話 夜、滝の側で……
セイクリアの騎士達と一悶着あった後、帝国陣地に戻った春風とイブリーヌは、
「ちょっとぉ、2人っきりで何してたのぉ!」
と、リアナにこっぴどく叱られた。
それから春風とイブリーヌはリアナにしっかりと謝罪すると、仲間達と共に夕食を済ませた。
何故か、ウィルフレッドも一緒に。
その夜、皆が寝静まった後、春風は1人テントを抜け出して、とある場所に向かった。
そのとある場所とは、裁判後に歩いていた森の中で見つけた、大きな滝だった。
(おお、昼間見た時ももなんとなく綺麗だったけど、夜でも十分綺麗だなぁ)
と思った春風は、滝の近くにある岩に腰掛けると、そのままジィッとその滝を眺め始めた。
それから暫くすると、その岩からスッと立ち上がって、
(もう少し、近くで見たいな)
と考えて、今度は滝からもっと近い岩場に飛び乗った。
そして、
(うーん、この下どうなってるんだろ)
と、そこから滝壺の方を見ようとした、まさにその時、
「うわぁっ!」
と、誰かに腕をぐいっと引っ張られて、春風は思わず驚きの声をあげた。
突然のことに驚いた春風は、
(だ、誰!?)
と思って後ろを振り向くと、
「何やってるの!? 危ないじゃない!」
そこにいたのは、怒った顔をした美羽だった。
「へ? ミウさん? 何でここに?」
春風はどうしてここに美羽がいるのかわからず混乱すると、
「眠れないからちょっと夜風にあたってたら、あなたがテントから出てきて何処かに向かおうとしてたから気になってついてきたの! で、やっとついたと思ったら滝を見てボーッとして、やっと立ち上がったと思ったら滝壺なんか覗き込んじゃって、もう少しで落ちそうになってたんだからね!」
と、美羽はプンスカと怒りながらそう説明した。
それを聞いた春風は、漸く理解したのか、
「そ、それは、すみませんでした。ああ、ここに来たのは、結構綺麗なところだなって思ってて、で、滝壺見てたのは……まぁ、なんとなくって感じで……」
と、謝罪しながら何処か言い訳じみた説明をしようとしたが、
「……」
と、涙目になりながら怒った顔をしている美羽を見て、
「……本当に、すみませんでした」
と、春風は頭を深々と下げて再び謝罪した。
すると、美羽は眼鏡を外して涙を拭うと、再び眼鏡をかけて、立っていた岩にペタンと座ると、
「……申し訳ないって思ってるなら、隣に座って」
と、隣をペシペシと叩きながら言った。
春風はそれを見て、
「え、何で?」
と聞こうとしたが、美羽の様子を見て「逆らってはいけない」と思い、
「……はい、わかりました」
と言うと、春風は美羽の隣にペタンと座り込んだ。
それから2人は暫くの間その場に座って滝を眺めていたが、
(……これ、リアナ達が見たらきっと誤解されるだろうなぁ)
と思い、それまで気まずいと感じていた春風は、意を決したように、
「えっと、ミウさん……」
と、美羽に向かって話しかけると、
「……なんか、久しぶりね」
と、美羽が口を開いた。
突然のセリフに、春風は「へ?」と首を傾げると、
「こんな風に2人だけで話すのが」
と、美羽はニコリと笑ってそう言った。
その言葉に、春風は思い当たるところがあるのか、
「……ああ、そういえばそうでしたね」
と、美羽と同じようにニコリと笑ってそう返した。
その後、2人はお互い笑い合うと、
「懐かしいなぁ」
「……うん、もう3年になるんですよね? 俺とミウさんが出会ってから」
「そうそう」
2人は、お互いが「出会った時」のことを語り合った。
それは3年前、まだ2人が中学生の時のことだった。




