第324話 裁判(?)終わって、「邪神」現る!?
理不尽な形で裁判が始まったかと思ったら、なんやかんやで大国のお偉いさん2人が手を取り合うというわけがわからない状況に、一方からは
『な、なんじゃそりゃあ!?』
という悲鳴のようなものがあがり、もう一方からは、
『うおおーっ!』
という「喜び」が込められた叫びがあがったが、肝心の「被告人」的な立場にある春風はというと、
(ああ、俺の気持ちを無視して、なんか色々決まってしまった気がする)
と、目の前で固く手を握りしめる国王と皇帝を見て、表情を暗くしていた。
その時、
「ハッハッハ! 中々面白いものを見せてくれたじゃないか!」
という声が聞こえたので、春風を含むその場にいる者達全員がハッとなって声がした方へと振り向くと、
「よぅ!」
そこには、ギラリと真っ赤な瞳を輝かせた、大きな黒い狼のような「何か」がいた。
何故、狼ではなく狼のような「何か」かというと、その「何か」は生物ではなく、狼の形をした黒いオーラのようなものだったからだ。
喋り方は違うが、その声に聞き覚えがあった春風は、
(え、ループス様!?)
と、心の中で驚きの声をあげた。
すると、
「久しぶりだな、幸村春風」
と、狼のような「何か」から発せられた声の主、ループスに話しかけられた春風は、一瞬だけ戸惑ったが、
「……お久しぶりです」
と、すぐに真面目な表情でそう返した。
そんな春風に対して、
「オイオイ、そんなに表情を固くするなよ。今日は戦いに来たわけじゃないんだから」
と、何やら軽い口調でそう言ったループスに向かって、春風は真面目な表情を崩さずに、
「……なんか、前より喋り方が違くないですか?」
と、尋ねると、
「ああ、あれか? いかにも『邪神』っぽく喋ったつもりだったんだけど、後になって『ないわぁ』って思ってやめたわ。で、こっちが俺本来の喋り方ってことで、改めてよろしくな」
と、ループスは軽い口調を崩さずにそう答えた。
その言葉に周囲の人達が、
『ええ? なんか、軽すぎない?』
と言わんばかりの表情になった中、春風は更にループスに尋ねる。
「……では、あなたは一体、何をしにここに来たんですか?」
その問いに対し、ループスは「フッフッフ」と笑いながら答える。
「何って、俺の方の準備が出来たから、申し込みに来たんだよ」
「……準備? 何を、ですか?」
恐る恐る尋ねる春風に、ループスは再び「フッフッフ」と笑うと、
「幸村春風。お前に、1体1の決闘を申し込む」
その答えを聞いた瞬間、春風だけでなく周囲の人達が一斉に、
『はぁあっ!?』
と、驚きの声をあげた。
だが、そんな春風達に構わず、ループスは更に話を続ける。
「いいか、今お前の目の前にある廃墟となった都市。その奥に決闘の場を用意したから、明日、そこで戦おう。ああ、そこまではお仲間さん方も一緒で構わないが、戦いはさっきも言ったように、俺とお前の1体1の、小細工なしの真剣勝負だからな」
とループスがそこまで言い終えると、ハッとなった春風は、
「ちょ、ちょっと待って……」
と言おうとしたが、
「じゃ、そういうことで!」
と、ループスがそう言った次の瞬間、狼のような「何か」は、まるで小さな砂粒になったかのようにその場から消えた。
その瞬間、
「ハッ! へ、兵士達よ! すぐにあの狼のようなものを探せ!」
「そ、そうだ! オ、オイ、お前らもすぐに探せ!」
と、我に返ったウィルフレッドとギルバートに命令されて、それぞれの国の兵士達はすぐに狼のような「何か」を探し始めた。
春風の仲間達を含めた周囲の人達が困惑する中、決闘を申し込まれた春風本人はというと、
「……なんだよ。なんなんだよ、ちくしょう」
と、その場にへたりと座り込み、顔を下に向けて、小さくそう呟いた。




