間話30 第1王女と「勇者」
お待たせしました、間話第30弾です。
それは、春風がルイーズ達に暗殺されそうになった時のことだった。
場所は、イブリーヌの故郷であるセイクリア王国王城内。
ーー頑張って! クラリッサ様頑張ってぇ!
「あ、あなたに言われるまでもありませんっ!」
と、何処ともなく聞こえたその謎の声援に、第1王女クラリッサは声を荒げてそう返した。
しかし、ハッとなったクラリッサが周囲を見回すと、そこは王城内の廊下で、今いるのはクラリッサだけだった。
「き、気のせいかしら」
誰もいない廊下で1人そう呟くクラリッサは、「フゥ」とひと息入れると、スタスタとその場を離れた。
(いけないわね。最近、色々なことが起こりすぎて、疲れが溜まっているのかもしれないわ)
と、クラリッサがそう考えたように、ここ最近の王国内では様々なことが起こっていた。
王城内では召喚した「勇者」の訓練は続けているが、肝心の彼らは訓練に身が入らない状態が続いていて、臣下や騎士、兵士達は次第に不安になっていった。
更に五神教会の方でも、多くの信者達が教会を去っていき、それに続くように、王都からも次々と住民が離れていくようになった。
この問題に対し国王ウィルフレッドはその問題解決に奔走していたが、一向に解決への糸口が見えず、王妃であるマーガレットと王女であるクラリッサも、こうしてウィルフレッドを手伝う日々を送っていた。
しかし、連日の問題解決作業で疲れが溜まっていたクラリッサの足取りは重く、今にも倒れそうになっていた。
「あっ!」
そして、足がもつれて倒れようとしていた、まさにその時、
「危ない!」
という掛け声と共に、1つの手がクラリッサを抱きとめた。
「あ、あなたは……」
危うく倒れそうになったクラリッサを抱きとめた人物の正体、それは、
「翔輝様」
召喚された「勇者」の1人、前原翔輝だった。
「だ、大丈夫ですかクラリッサ様?」
翔輝は恐る恐るクラリッサに尋ねると、
「え? あ、はい、大丈夫です」
と、答えたクラリッサはすぐに体勢を立て直すと、
「助かりました。ありがとうございます」
と、翔輝にお礼を言ったが、
「あの、翔輝様。このような時間帯にどうなさったのですか?」
と、クラリッサは翔輝にどうして廊下にいるのかを尋ねた。
すると、翔輝は気まずそうに、
「あ、すみません。なんか、眠れなかったもので、少し歩こうと思って部屋を出たのですが、目の前でクラリッサ様が倒れそうになったのを見て、思わず手が出てしまいました」
と、謝罪を交えてそう説明した。
それを聞いたクラリッサは、
「ああ、そうだったのですね。疑うようなことを言ってしまい、申し訳ありませんでした」
と、翔輝に向かって頭を下げて謝罪すると、そそくさとその場から離れようとした。
ところが、
「あの、ちょっと待ってください!」
と、翔輝が呼び止めたので、クラリッサは思わず、
「は、はいぃ!?」
と、王女らしからぬ返事をしてその場に立ち止まった。
突然のことに驚いたクラリッサが、
「な、何でしょうか?」
と、オロオロした様子で翔輝に尋ねると、
「あの、クラリッサ様本当に大丈夫なんですか? なんか、顔色が凄く悪そうなんですけど」
と、翔輝は心配そうな眼差しでクラリッサを見ながら答えた。
それにクラリッサはドキッとなりながらも、なんとか平静を装って、
「だ、大丈夫ですよ。わたくしはこの国の王女なのです。これくらいなんてことありませんので……」
と答えたのだが、
「あ、あれぇ?」
と、再び倒れそうになったので、
「あ、危ない!」
と、驚いた翔輝は再び彼女を抱きとめた。
「だ、大丈夫ですかクラリッサ様!?」
慌てた様子の翔輝がそう尋ねると、クラリッサはそんな翔輝の顔を見て、
ーーボッ!
という音と共に、顔が真っ赤になった。
「ちょ、本当に大丈夫ですかクラリッサ様!?」
再び驚いた翔輝がクラリッサに尋ねると、
「だ、大丈夫、ですぅ」
と力なく答えて、そのままクラリッサはガクリと意識を失った
「……へ? く、クラリッサ様?」
翔輝はその後もクラリッサに声をかけたが、
「……」
彼女からの返事はなかった。
「クラリッサ様? クラリッサ様ぁ!?」
まさかのことに先程以上に驚いた翔輝は、
「だ、誰か、誰かぁ! 誰かいませんかぁあーっ!?」
と、悲鳴のような叫びをあげるのだった。
どうも、ハヤテです。
今回の話は、本当に久しぶりに、セイクリア第1王女のクラリッサと、「勇者」の1人、前原翔輝を登場させました。
そして、次回もこの2人が中心になります。




