第305話 戦いの後、謁見の間にて
今回は、いつもより長めの話になります。
星乃香が目を覚ましたその夜、春風達は帝城内の謁見の間に集まっていた。
皆、何かを待っているかのように、ただ静かにしていた。
その時、謁見の間の扉が開かれて、
「みんな、お待たせぇ!」
と、皇妃エリノーラが、第1皇女セレスティアと第2皇女アンジェリカ、そして、1人の少女を引き連れて、笑顔で入ってきた。
「オ、エリー。その後ろにいるのがそうか?」
と、ギルバートが尋ねると、
「ウフフ」
と、エリノーラは笑って少女の前を離れた。
『オォッ!』
「星乃香ちゃん!」
それは、赤を基調に最低限の装飾が施されたローブに身を包んだ星乃香だった。
「うん、中々似合ってるじゃねぇか」
と、ギルバートが褒めると、
「あ、ありがとう、ございます」
と、星乃香は恥ずかしそうに顔を真っ赤にした。そんな彼女の横では、エリノーラ、セレスティア、アンジェリカは「良い仕事をした」と言わんばかりの表情をしていた。
周囲が和やかな雰囲気に包まれる中、ギルバートが「ゴホン」と咳き込むと、皆、一斉に静かになった。
「あー、悪りぃ。こっからはちょいと真面目な話をしていくぞ」
とギルバートが言うと、その場にいる者達全員がギルバートに視線を向けた。
「まずは、小日向星乃香といったか?」
「は、はい!」
「セイクリアから水音を連れ出して以来だったな。改めてはじめまして。俺はここ、ウォーリス帝国皇帝、ギルバート・アーチボルト・ウォーリスだ。よろしくな」
「こ、小日向星乃香といいます! あの、この度は助けてくださってありがとうございます! その上、こんな凄い服まで……」
「オイオイ、俺は何もしてねぇぞ。その服はエリー達が用意したものだし、お前を助けたのは、そこにいる春風なんだからな。礼なら春風に言ってくれ」
「あ……」
ギルバートに促されるように、星乃香は春風に視線を向けた。
「……幸村君」
「なんですか?」
「助けてくれて、ありがとう。それと、さっきは取り乱して、ごめんなさい」
星乃香は春風に向かって深々と頭を下げて謝罪すると、
「そんな、気にしないでください。元はと言えば、悪いのは俺ですから」
と、春風は困ったかのような表情でそう返した。
その後、星乃香がゆっくりと顔を上げると、ギルバートは「ウン」と頷いて、
「春風。そして、七色の綺羅星達」
と、春風達に話しかけた。
その言葉に反応した春風達が、一斉にギルバートに視線を向けると、
「此度の断罪官との戦い、映像で見させてもらったが、皆とても見事な戦いぶりだった」
と、いつになく真面目な表情で、春風達を褒めた。
更にギルバートは続けて言う。
「あれだけの数を相手にしたにも関わらず、全員を返り討ちにしただけじゃなく、誰も殺していないという偉業を成し遂げた。これは、とても素晴らしいことだと思っている」
そう、実は今回の断罪官達との戦いでは、春風……というより春風の仲間達は、断罪官の隊員達を一人も殺していなかったのだ。
隊員達は皆、大小様々な怪我を負ってはいるが、どの怪我も命を脅やかすようなものではなく、彼らは今、帝城内の医務室で治療を受けている。
ギルバートに褒められて、仲間達が照れ臭そうにしている中、
「アリシア・ランフォード」
と、ギルバートがアリシアに話しかけた。
「はい」
「かつての仲間達との戦い、辛くはなかったか?」
その質問に、アリシアは真っ直ぐギルバートを見て答える。
「辛くはない、と言えば嘘になります。ですが……」
「?」
「会えて良かった、と思ってもおります。家族の仇なのは、変わりませんが」
「……そうか」
そう言うと、ギルバートは次に、リアナとルーシーに視線を向けた。
「リアナ・フィアンマ」
「はい」
「ルーシー・トワイライト……いや、ルーシー・カーリングって呼べばいいか?」
「は、はい! る、ルーシー・トワイライトで、いいです!」
「そうかい。で、今回に戦いなんだが、まさか断罪官の中に、お前達の親の仇がいるとはな。精神的に、キツイものがあったんじゃないか?」
と、尋ねるギルバートに対し、リアナは「うーん」となんとも言えないような複雑な表情で答える。
「仇と言われましても、その時まだ私は赤ちゃんでしたし、私としては『えぇ、そうなの?』って感じで、正直反応に困るといった感じですね」
「そうか。で、ルーシー・トワイライトはどうなんだ?」
ギルバートに問われて、ルーシーはオロオロとした表情で答える。
「わ、私も、その……ショックは、受けましたけど、私、自身、ずっと『捨てられた』って思ってましたし、お爺ちゃんや、フィオナ達が、いましたから」
「……」
「あぁ、で、ですが!」
「?」
「わ、私、捨てられていなかったんだってことがわかって、う、嬉しかったです」
そう答えたルーシーの手には、両親の形見であるペンダントが握られていた。
2人の表情を見て、ギルバートは「そうか」と穏やかな笑みを浮かべると、
「水音」
と、今度は水音に話しかけた。
「はい」
「ルーク・アークライト副隊長との戦いで見せた技、見事なものだったぞ」
「ありがとうございます」
その返事を聞くと、ギルバートは春風に視線を向けた。
「最後に春風」
「はい」
「ウォーレン・アークライト大隊長との戦い、しかと見させてもらったぞ。自分を殺しに来た相手を、最後は見事に救ったお前の戦いぶりは、実に素晴らしいものだった」
「ありがとうございます。あの、その後ウォーレンさんは?」
「安心しろ。奴の両腕だが、帝国の最新の医療技術を駆使すれば、元のように治すことが出来るそうだ」
「そうですか」
ギルバートのその言葉に、春風はホッと胸を撫で下ろした。
その姿に、ギルバートは「やれやれ」と小さく呟くと、
「で、春風」
「何ですか?」
「大きな戦いを終えた直後でなんだが、お前にどうしても聞きたいことがある」
その質問に、春風が「?」を浮かべると、ギルバートは真剣な眼差しを春風に向けて尋ねる。
「アッシュ達に与える処罰についてだ」
謝罪)
大変申し訳ありません。この話の流れを考えていたら、時間がかかってその日のうちに終えることが出来ませんでした。
それと、もう少しだけ話が続きそうです。
本当にすみません。




