第303話 「神」の裁き
ジリリリリリリリッ!
断罪官との戦いを終え、小日向星乃香を救出した後、突如鳴り出したその音。それは、春風の左腕に装着された、「アガートラームMkーⅡ」から発せられたものだった。
(ああ、やっぱきたか)
そう思った春風は、抱きかかえていた小日向星乃香を鉄雄に預けると、すぐにアガートラームMkーⅡの装甲を開けて、その内部にセットされた「魔導スマートフォン零号【改】」を外すと、指で画面を操作した。
「はい、もしもし」
と、春風が画面に向かってそう話しかけると、
「春風君、私を呼んで」
と、画面から女性の声がしたので、春風は零号【改】の画面をかざした。
次の瞬間、画面が眩い光を放ち、その上に大きな魔法陣が描かれると、そこから長い黒髪を1つに束ねた、白いワイシャツと青いジーンズ姿の若い女性が現れた。因みに、足は素足だった。
「やぁ、春風君」
女性が笑顔で春風にそう話しかけると、
「お久しぶりです、アマテラス様」
と、春風は笑顔でその女性・アマテラスにそう返した。
更にアマテラスは続けて言う。
「オーディンを通して、春風君の戦いぶりは見させてもらったよ。凄くかっこよかった」
「ありがとうございます」
「みんなもお疲れ様。よく頑張ったわね」
と、アマテラスは春風の仲間達を褒めると、仲間達は皆『あ、ありがとうございます』と言わんばかりに顔を赤くした。
その時、
「あ、う、あ……」
という呻き声が聞こえて、アマテラスがその声がした方に顔を向けると、そこには表情が固まっているウォーレンら断罪官達がいたので、
「こんにちは、断罪官のみんな」
と、アマテラスはニコリと笑って話しかけた。
「ハッ! あ、あなたは……?」
と、我に返ったウォーレンがアマテラスに向かって尋ねると、
「私の名は、天照大神。『地球』の神の1柱にして、「太陽」を司る女神よ」
と、アマテラスはそう自己紹介した。
まさかの女神の登場に、断罪官達は皆『えぇっ!?』とオロオロしていると、アマテラスは「フフ」と笑って、視線を彼らから、鉄雄に抱き抱えられている小日向星乃香に移し、彼女の側に寄った。
アマテラスは彼女の頭を優しく撫でると、
「ごめんね」
と、悲しそうな表情で謝罪した。
するとそこへ、
「き、貴様ぁっ! 一体何者だぁっ!」
と、背後にいるアッシュがそう怒鳴ってきたので、アマテラスは撫でていたその手を止めると、ゆっくりとアッシュの方へと振り向いて、
「黙れよ、外道が」
と、低い声でアッシュに向かってそう言った。
その声を聞いた瞬間、春風を含むその場にいる全員がぶるりと恐怖で震え上がった。
しかし、そんな状況の中でもアマテラスはアッシュとその仲間達を睨みつけて、
「お前ら、絶対に許さない。全員覚悟しろ」
と、低い声で言うと、スッと右手を開いた。
その時、
「ちょっと待った」
と、それまで静かだったヘファイストスが、アマテラスに話しかけてきた。
「邪魔をする気? ヘファイストス」
と、アマテラスが睨みながら尋ねると、ヘファイストスは首を横に振るって、
「違う。俺も手伝わせてもらう」
と、アマテラスの肩に手を置いて、自信の力を送った。
「いいの?」
「ああ、国は違えど、俺達は同じ『地球』の神。あいつらが許せないのは、俺も同じだ」
「……ありがとう」
そうやり取りした後、アマテラスの右の掌から、小さな炎の塊が現れた。
そして、アマテラスはその炎の塊を空へ放り投げると、もの凄く大きな炎の鳥へと姿形を変えた。
その雄々しき姿に、春風達が見惚れる中、
「うん、出来た」
と、アマテラスは小さくそう呟くと、アッシュ達の方を見て、
「受けろ、これが『神』の裁きだ」
と言って、その炎の鳥をアッシュ達に向けて飛ばした。といっても、正確にはアッシュ達の目の前の地面にだが。
「ひ、あ……ひぃっ!」
だが、アッシュ達は恐怖のあまり逃げる間も無く、炎の鳥は地面に激突すると、
『ぎゃあああああああっ!』
と、悲鳴をあげながら、その衝撃で思いっきり吹っ飛ばされて、数回地面にバウンドした後、そのまま動かなくなった。
「安心しなさい、殺しはしないから」
アマテラスは低い声でそう言うと、春風達の方へと振り返って、
「じゃ、後はよろしくね」
と、優しい口調でそう言った後、ヘファイストスと共に零号【改】を通して元の場所へと帰った。
その後、残された春風達はというと、
「あー、皆さん』
『?』
「小日向さんが心配だから、帝城に戻りましょう」
と、春風がそう提案すると、
『……うん、そうだね』
と、仲間達は皆コクリと頷いた。
もうすぐ第11章が終わります。




