第300話 最悪な状況……と、思ったら
お待たせしました、本編300話目です。そして今回は、いつもちより少し長めの話です。
セイクリア王国の騎士、アッシュとその仲間達と共に現れた、500年前に使われていたという異形の戦車。
その中から現れた、アッシュが「エネルギー源」と称したものの正体は、春風達のクラスメイトだった。
「……小日向、さん?」
と、春風が言ったそのクラスメイトの苗字を聞いて、
「え、小日向って……」
「嘘だよね?」
「ま、まさか、星乃香ちゃん!?」
「え、星乃香なの!?」
と、鉄雄達クラスメイトも口々にその名前を言った。
そんな彼らを見て、
「お、オイ、どうした? お前ら何か知ってるのか!?」
と、ギルバートが尋ねると、水音がゆっくりと異形の戦車の中から出てきたものを指差して、
「へ、陛下、あそこにいるのは、あの中にいるのは、僕達と同じ世界から召喚された『勇者』の1人で、クラスメイトの小日向星乃香さんなんです」
と、半ば信じられないといった感じでそう答えた。
「な、なんだと?」
と、ギルバートが驚いた表情になっていると、
「ど、どういうことだアッシュ! 何故その子がそこにいる!?」
と、ディックが驚きと怒りをあらわにしてアッシュを問い詰めた。
すると、アッシュはクスクスと笑って、
「ああ、それはな、つい最近知ったことなんだが、実はこの兵器は、人間の魔力をエネルギー源として動き、それを砲撃の威力に変えることも出来るんだ」
「に、人間の魔力を、だと!?」
「ああ、そうだ。で、彼女がここにいる理由だがな、女神マール様が潰されたあの日から、信者達が次々に五神教会から去っていくだけじゃなく、教会の信用もどんどん落ちていてな、姉様達を救出すると同時に、そこの悪魔に責任をとってもらおうと思って、勇者達の1人に手伝ってもらおうと交渉したら、あの小夜子という女が首を縦に降らないのでな、ちょっと強めに頼んだら、『自分がいくからみんなに手を出さないで』と、彼女が協力してくれたのさ」
と、醜く口を歪め、春風を指差しながらそう説明したアッシュ。
その瞬間、春風達はそれがどういう意味なのかを理解した。
そう、恐らく彼らは残った勇者達を無理矢理異形の戦車のエネルギー源にしようとしたところ、それを止めるために小日向星乃香が自ら志願したのだろう、と。
そしてそれを理解した瞬間、
「そ、そんな、星乃香ちゃん、いやぁあああああっ!」
と、彩織が膝から崩れ落ちて悲鳴をあげ、それと同時に、鉄雄達もショックで顔を真っ青にした。
その悲鳴を聞いて、
「あ、アッシュ、これは命令です! 今すぐ彼女を解放しなさい!」
と、イブリーヌが怒ってアッシュにそう命令すると、アッシュは歪んだ笑みを浮かべたまま、
「嫌ですよ」
と、その命令に逆らった。
「な……なん、ですって?」
思わぬ言葉を受けてイブリーヌが呆けていると、アッシュは続けて答える。
「申し訳ありませんが、元々我々が忠誠を誓っているのは、この世界を守る五大神であって、ウィルフレッドなどではないのです。というか、たかが第2王女如きが我らに命令するんじゃない」
と、アッシュがそう言い放ったのと同時に、彼の仲間達もクスクスと笑い出した。
「そ、そんな」
ショックを受けたイブリーヌは、彩織と同じようにその場に膝から崩れ落ちると、
「アッシュ、貴様ぁあああああっ!」
と、激昂したディックが剣を抜いてアッシュに斬りかかろうとした。
だが、
「五月蝿いぞ」
と、仲間の1人が素早く矢を放ち、ディックの太ももに突き刺さった。
「グアッ!」
矢を受けたディックは、痛みのあまり剣を落としてその場に倒れた。
そんなディックに向かって、アッシュは冷たく言い放つ。
「フン、雑魚が。そこで大人しくしていろ。こっちは先にやることがあるんでな」
そう言うと、アッシュは異形の戦車を見て何か合図のようなものを送った。
すると、異形の戦車の砲身が、音を立てて動き出した。恐らく、戦車の内部にも仲間がいて、その人物が動かしているのだろう。
そして、異形の戦車の砲身が、ある位置に止まった。
その先には、春風がいた。
「さぁ、悪魔よ! まずは貴様からだ!」
と、アッシュが叫んだその時、
「……その前に、一言いいですか?」
と、春風は落ち着いた口調でそう言った。
その言葉を聞いて、
(……あれ?)
と、水音が何やら、背筋に寒気がするのを感じた。
しかし、そうとは知らないアッシュは、
「ハハ、なんだ? 死ぬ間際の最後の一言か? いいだろう、言ってみろ」
と、馬鹿にした口調でそう言うと、春風は静かに言う。
「求めるは“火”、『ファイア』」
次の瞬間、アッシュの体の、ある部分が激しく燃え上がった。
それは、全ての男が、地獄の苦しみを受けるという、大事な大事な部分だった。
「ぎゃあああああああっ!」
『なぁあああああああっ!』
突然の事に悲鳴をあげるアッシュと、その場にいる全男子、男性陣。
その後、春風はアッシュの仲間達(男性)にも、
「求めるは“火”、『ファイア』」
と、全員、アッシュと同じ部分を燃やした。
『ぎゃあああああああっ!』
大事な部分を燃やされ、その場にのたうち回るアッシュ達。
そんな彼らを見て、春風の仲間達(男子、男性)と断罪官の男性陣は、大事な部分を押さえて口をあんぐりとしていた。
因みに、女子、女性陣はというと、
『あらやだ』
と、恥ずかしそうに顔を真っ赤にした。
とんでもない出来事にその場は騒然となったが、ハッと我に返ったギルバートが、
「お、オイ春風、何してん……!?」
と、春風に詰め寄ろうとすると、
(ん? なんだ?)
と、その前に何かがいるのに気づいて足を止めた。
それは、恐怖でガタガタと体を震わせた水音だった。
「や、やばい。やばいやばいやばい……」
と、明らかに怯えている様子の水音を見て、
「おい、どうした水音? 何がやばいんだ?」
とギルバートが尋ねると、水音は震えながら答える。
「……春風が、本気でキレた」
それを聞いた周囲の人達は皆、
『……え?』
と、頭上に「?」を浮かべた。
謝罪)
前回に引き続き、まことに申し訳ありません。前々回の話に出てきた、「異形の戦車」に関する説明ですが、勝手ながら少し文章を追加させてもらいました。
本当にすみません。




