第31話 「悪魔」の力
お待たせしました。前回に続き、1日遅れの投稿です。
ログハウスの外は、すっかり夜になっていた。
ログハウスの裏には大きな湖があり、春風は今、その湖の側にある大きな木の下に座り込んでいた。
「『悪魔』……か」
ボソリと小さく呟く春風は、ログハウスで聞いた話を思い出していた。
その話をする為に、少し前に遡る。
「ちょっと待ってくださいよ!」
ジゼルの話を聞いてショックを受けた春風はそう怒鳴りながら、ダンっと椅子から立ち上がった。
驚くアマテラス、リアナ、ヘリアテス、ジゼル、そして精霊王達を前に、春風は取り乱した様子で言い続ける。
「そりゃあ、侵略者の連中は許せないし、召喚を行ったセイクリア王国の連中も許せないけど、そんな、俺とリアナさんと、後もう1人が予言に出てくる『悪魔』? 全然意味がわかりませんよ!」
そう言い続けた春風の声は、戸惑いや混乱が入り混じって大きく震えていた。
(春風……)
リアナはそんな状態の春風を、心配そうに見つめた。
さらに春風は言い続ける。
「ていうか、そもそも『固有職能』とか『固有職保持者』って何なんですか!? 説明にも『悪魔の力』って書いてありましたけど、あれどういう意味なんですか!? 何か知ってるなら教えてください!」
言い終えた春風の状態は、とても辛そうだった。それはそうだろう。故郷「地球」を救う為にこの世界に来た自分が、「予言」に現れる「悪魔」の1人だと知ってしまったのだから。
苦しそうに肩で息をする春風に、アマテラスは優しく話しかける。
「落ち着いて春風君、みんなが困っているよ」
その言葉を聞いて、どうにか気持ちを落ち着かせることが出来た春風は、
「お騒がせして、すみませんでした」
と、周りに深く頭を下げて、椅子に座った。
それから暫く沈黙に包まれた後、ヘリアテスが口を開いた。
「これは、私とループスと精霊王達で調べてわかったことなのですが……」
そう言うヘリアテスに、春風、アマテラス、リアナの視線が集まった。
「『職能』とは、人間の心の中に眠る『力』……というより『素質』の様なものに、侵略者の親玉連中が、「神」の力を使って形にしたものなのです。といっても、それを実行するにはその『素質』が、ある程度大きなってからじゃないとダメな様ですが」
その瞬間、春風はウィルフレッドが言っていた事を思い出した。
(そういえばウィルフレッド陛下、職能は『15歳を迎えた時に神より授かるもの』って言ってたな。きっとその時が、ある程度大きくなった時なんだな)
「ですから、この世界に存在する『職能』……いえ、『職能保持者』は、あの親玉連中の加護を受けていると言っても良いでしょう」
納得する春風とアマテラスを見て、ヘリアテスはさらに説明を続ける。
「ですが、『固有職能』にはその加護はありません」
「どういう事ですか?」
「普通の『職能』は、親玉連中によって目覚めさせられるものですが、『固有職能』は生まれた時から既に持っていた『力』で、親玉連中をも寄せ付けない、強大な『力』を秘めているのです」
「『神』を名乗る連中をも寄せ付けないって……。だから、『悪魔』っていうことなですか?」
春風がアマテラスにそう質問しようした時、
「それにつきましては私説明しましょう」
と言って、ヘリアテスの代わりにジゼルが説明を開始した。
「全ては、今から200年前、ある小さな国で1人の赤ん坊が生まれたのが始まりでした。本来は15歳になった時に『職能』を授かるのですが、その赤ん坊はどういうわけか既に『職能』を持っていて、しかも見たこともない珍しい『職能』でした。これが、『最初の固有職保持者』の誕生だったのです」
「最初の……固有職保持者」
「その国の王族や神官達は、その珍しい『職能』を持った赤ん坊を『奇跡の子』と呼んで、赤ん坊の親は勿論、国全体でその赤ん坊を大切に育てました。それから数年が経ち、成長した赤ん坊……いえ、『最初の固有職保持者』はその力で人々を様々な危機から救い、やがて『英雄』と呼ばれる様になりました」
「……」
「ところが、新たにその国の王となった者は、『最初の固有職保持者』の力を利用して世界を我がものにしようとしたのです。当然、それを知った『最初の固有職保持者』は抵抗しましたが、相手の軍事力と日頃から『最初の固有職保持者』の活躍を妬む者達によって徐々に追い詰められ、『最初の固有職保持者』は多くの愛する者を失ったのです」
「酷い……」
「『最初の固有職保持者』は嘆き、悲しみ、怒り狂って、次第に力の制御が出来なくなり、とうとう暴走させてしまったのです。その結果、国は国王や民を巻き込んで、地図から消え去ることになりました。ただ1人、『最初の固有職保持者』を除いて……」
「そんな……」
「この事態を知った親玉連中と5神教会は、その『最初の固有職保持者』を恐怖を込めて、『国殺しの悪魔』呼び、それ以来生まれてきた固有職保持者もそう呼ばれる事になり、教会から異端視される事になったのです」
「「……」」
「そして、ここからが最も重要な事……というよりも、契約者様にとって辛い事実なのですが、その国を滅ぼした『最初の固有職保持者』の職能が……『賢者』なのです」
「な、なん……だって?」
ジゼルが告げたその言葉に、春風は顔を真っ青にするのだった。




